現行型AMGはライン製造のエンジンもあり
しかし、現メルセデスAMGエンジンの内、ライン製造のM256・直6ターボエンジン(53系モデル)、M276・V6ツインターボエンジン(43系モデル)、M260・直4ターボエンジン(35系モデル)には、このマイスターのサインプレートは貼付されていない。その主な理由として、AMGはメルセデス・ベンツ各車種の最上級モデルとして位置するが、メルセデスAMGエンジンや車種の多様化で50以上のモデルがあり、生産台数が増えている現在では、一部のAMGエンジンを除いてライン製造にシフトされているからだ。
例えば「AMG E53 4MATIC+」シリーズに搭載される3リットルDOHC直列6気筒ターボエンジン(M256)は、ほかのメルセデス・ベンツ標準車「E450 4MATICエクスクルーシブセダン/ワゴン/クーペスポーツ/カブリオレスポーツ」「GLE450 4MATICスポーツ」にも搭載。また「AMG C43 4MATIC」シリーズに搭載される3リットルDOHC V型6気筒ツインターボエンジン(276M30)は、標準車の「S560eロング」「S450 4MATICクーペ」に、さらに「AMG A35/CLA35 4MATIC」シリーズも然りで、2リットルDOHC直列4気筒ターボエンジン(M260)は、標準車「A250 4MATICセダン」「CLA250 4MATICクーペ/シューティングブレーク」にも搭載されている。
従って上記のAMG「53」「43」「35」系モデルに搭載されているAMGエンジンは純然たるメルセデス・ベンツのライン製造エンジンなので、マイスターのプレートは貼付されていないわけである。もちろん、このAMG 53・43・35系モデルの馬力やトルクは、標準モデルよりも若干上回っているのは周知のとおりだ。
AMG党からすれば、このマイスターのプレートが貼っているか否かが議論の的となるのは当然のことかもしれない。それほどOne man – One engine(ワン・マン=ワン・エンジン)というAMG伝統の哲学は、顧客の要望に真摯に向き合うメーカーとしての熱い思いがうかがえる手法なのである。
メルセデスAMGの生い立ち
最後にメルセデスAMGについて、その生い立ちを振り返ってみたい。1967年に、当時のダイムラー・ベンツ社のエンジンテスト部門に勤めていた「ハンス・ヴェルナー・アウフレヒト」が、彼の兄「フリ-ドリッヒ」とエンジニアの「エルハルト・メルヒャー」をパートナーに迎え入れ、わずか3人でメルセデス・ベンツのチューンアップ会社としてAMG社を立ち上げた。
1978年、ドイツのモータースポーツ誌が突然「メルセデス・ベンツをチューンしたAMG社」の記事を掲載したから大騒ぎとなった。以来、世界中のメルセデス・ベンツオーナーが憧れる「メルセデスAMG」を実現してきた。
AMGが日本に正規輸入されたのは1989年で、輸入1号は「W124ハンマーバージョン」。当時のマシンはまだレースチューンそのもので「野獣のAMG」だった。創業以来、AMGはモータースポーツへの挑戦と勝利を通して実証した高性能なエンジンを開発する独自の技術力で、レーシングカーはもちろん、顧客の要望に応えるスポーツカーを数多く手がけてきた。
2005年に100%の株をダイムラー社が保有して新たに設立された「メルセデスAMG社」は、現在1410人を抱える大企業に成長している。マニアの間では、2014年からサブブラントとしてメルセデス・ベンツファミリーに迎え入れら最上級の地位を得たメルセデスAMGは、すっかり正装化し紳士になってしまった感があると言われている。
もちろん、そのトータルバランスに優れる性能は一層磨きがかかり、メルセデス・ベンツのモデルらしく、すべてが完熟域に達して貫禄も備えた。しかし、そうなるとマニアの間ではひと昔前のアドレナリンを注入した「野獣のAMG」が懐かしくなると囁かれている。