TC2000では久々の軽オンリー走行会 その間の凄まじい進化を目の前で目撃
12月2日、軽自動車オンリーの筑波サーキット“TC2000”走行会が、いよいよ本格的な冬を迎えたタイミングで開催された。そう、待ちに待ったタイムアタックシーズンの到来とともに……だ。これは、近日発売が予定されている『660GT*02』という軽スポーツカームックの主要コンテンツのひとつとして開催されたものであり、走行会の主催者は660GT編集部が担った。
コロナ禍にあっては何を進めるにあたっても、いままでの何倍もの苦労がのしかかってくるが、サーキット走行会を開催するのもそれは同じ。国内ではスーパーGTやスーパーフォーミュラも十分な感染予防対策を実施して開催されている。
話を戻そう。正確なデータがある訳ではないが、軽自動車オンリーで開催される筑波TC2000でのこの規模(今回は約60台)の走行会は、おそらく10年ぶりぐらいだと思われる。ここでは、タイムアタックの聖地と呼ばれる筑波サーキットに、北は東北、西は関西から“久しぶり”に集結した軽自動車チューナーや走り屋たちの奔走ぶりを紹介していこう。
タイムアタックの聖地「筑波」と軽カーオンリーの意味
かつては軽自動車だけの走行会や耐久レースなども盛んに開催されていた筑波サーキット“TC2000”。「たくさんの軽自動車が帰ってきてくれて、私たちもとても嬉しいです」とは筑波サーキットで古くから働くコースマーシャルのひとり。「ここで働いている人間にも軽自動車ファンがたくさんいるんですよ」とも話してくれた。
その筑波サーキット“TC2000”は、タイムアタックの聖地と呼ばれている。オープンしてなんと今年で50年周年。日本で3番目に古いサーキットである。長い直線部分、そして低中高速コーナーがバランス良くレイアウトされた、全長2045mのプロのレーシングドライバーでも攻めがいのあるコース。また、首都圏に最も近いサーキットでアクセスにも優れている。
その長い歴史のなかで、自動車メーカーやチューニングパーツメーカーなどが、ノーマル車両/チューニングカー/プロ/アマ/普通車/軽カー問わず、ライバルより1000分の1秒でも速くコースを一周をするために、タイムを削る挑戦を続けてきた場所(=聖地)なのである。
ゆえに、筑波サーキット“TC2000”でのラップタイムが、そのクルマの性能やドライバーの腕を測る上での基準となり、全国のカーマニアの間で「筑波で何秒?」という共通認識が持たれるようになったのだ。
知っておきたい TC2000 のラップタイムの目安
さて、ここからは、当日の走行会(タイムアタック)に参加したクルマを見ていくのだが、その前に予備知識つけておきたい。以下がAuto Messe Web編集部調べによる、フルノーマル国産市販車両のタイムの目安。
◆GT-Rニスモ(2020):59秒
◆GRヤリス:1分5秒
◆86&BRZ:1分10秒
◆ロードスター(ND/現行):1分13秒
◆アルトワークス(HA36S/現行):1分18秒
◆S660:1分18秒
◆コペン(L880K):1分18秒
◆コペンRobe(LA400系/現行):1分20秒
いわゆるR35型式のGT-Rが、しばらくTC2000のタイムで1分を切れそうで切れなかったのだが、2020年モデルのGT-Rニスモがついに59秒台に入ったのは昨年暮れのこと。あの35GT-Rでも手の届きそうなところまで行っても、筑波で1分切りを達成するのに数年かかっているのだ。
初~中級者においては、TC2000で“10秒切り”を目指すというのが、ベンチマークになっている。10秒を突破して“一桁”のタイムを保有するのは随分と気分が違うというもの。その1分10秒あたりで走るクルマが86&BRZである。そして、現行のロードスターが1分13秒あたりにいる。
我らが軽カーは、自動車メーカーの自主規制によって最高出力が64馬力に抑えられ、最近のどのスポーツモデルもフルノーマルならだいたい 1分18秒台 に集中している。軽カーについては、もう、お気づきの通り、この封印を解いて行くところからチューンナップは始まり、ドンドンと面白さの泥沼にハマっていくのである。
この面白さ、お金のかかる普通車で愉しめるのはほんの一握りの人たち。軽自動車だって、ガソリン、タイヤがいる同じクルマ。消耗品のコストが低く抑えられるから、トコトンまでやりつくせる感動やそこから得られる満足感は、普通車よりも軽自動車のほうが、じつはずっと上なのである。ボディサイズやタイヤサイズ、排気量のことまで、軽自動車という規格(内)をレギュレーションにするなら、クルマを速くするためには、お金で買えないアイデアや工夫のほうが本当は重要になってくるのだ。これらを鑑みれば、一握りの人たちだけではなく、大衆の趣味(=文化)として「スモールカー・チューニング」がさらに定着していくことになるだろう。
スモールカー・チューニングの進化を見る
今回の走行結果(リザルト)を眺めていると、スモールカー・チューニングのかなりの進化に気付かされる。おそらく10年前の2010年頃であれば、旧規格のアルトワークス、カプチーノ、トゥデイなどが上位を独占していたはず。イチバンの大きな進化は、現行(新規格)車両が旧規格車両のタイムに肉薄しているどころか、主役をはるほど、大きく上回っているマシンも参戦しているところだ。
何がスゴイのかというと、ひと昔前は安全や環境に配慮し、エコロジーにシフトしたエンジンを搭載する現行(新規格)車両が、旧規格車両には勝てないという図式があったからだ。旧規格のクルマは、新規格マシンに比べてボディサイズが小さくて軽く、エンジンも含めて基本設計が規制前の仕様になっている。
しかし、新型のコペン、アルトワークス、S660の登場によって、ここ数年で、現行車両を速く走らせるノウハウが飛躍的に進展。最終的には、現行という自動車メーカーの最新技術を味方につけ、制御方法やエンジン内部パーツの解析が進み、たくさんのアイデアや工夫によって新たなモディファイ方法が確立された現状がある。
その筆頭が、「コペン専門店 も。ファク」の880型式のコペン。各地のサーキットで軽自動車のレコードタイムを叩き出す、完全なる超スペシャルタイムアタック専用マシン。クラッチを切らずにシフトアップできる海外製のドグミッションが装備されていたり、いわゆる“NOS”、ニトロガス噴射まで仕込まれた、推定280馬力仕様。前評判どおり、今回のTC2000でも、軽自動車初の“1分切り”に期待がかかったが、大記録達成には惜しくも 約0.8秒 届かずの 1分00秒791 を樹立。とは言え驚異的なタイムには違いない。R35 GT-Rニスモとほぼ変わらないタイムをコペンが出したことを、ぜひとも、冷静に認識していただきたい。
そのあとに続くのがカプチーノなのだが、「も。ファク」のタイムアタック号から 約5秒遅れ の 1分06秒台 であった。 06秒台にはもう一台のカプチーノが入ったが、その間に割り込んでランクインしたのも、地元茨城県から参戦の白い880コペンだった。大容量ターボチャージャーにハイカムシャフトを組み合わせた「も。ファク」エンジンを搭載する170馬力仕様。タイムは、1分06秒495。まだまだ攻めきれておらず、練習すれば 05秒台 も可能とはオーナー。これで、ベスト3のなかになんと新規格の880コペンが2台も入る結果に。この 1分06秒 というのは、トヨタGRが世界ラリーのためにつくったGRヤリスの純正とも変わらないタイムということも特筆すべき点。
そして07秒台には旧規格のアルトバン(ターボ)が入ったが、そのあとすぐの 08秒前半~中盤 には、現行のS660とアルトワークスが姿をあらわす。現行同士両者互角といったところだが、S660専門店 44Gのデモカーが 1分08秒231 と僅かにリード。この日の現行車両のトップはS660だった。44Gのデモカーは、HKSタービンとフラッシュエディターを組み合わせ、さらにはHKSのサブコンピューター F-CON iSをセットしてNOS噴射にも対応。
次に、44Gに続く 1分08秒429 をマークしたのは奈良県に住むオーナーカーの白いアルトワークス。今回の走行会でのアルトワークス最速だ。大型のターボチャージャーとハイカムシャフトで、パワーは140馬力超に高められているという。ドライバー的には、今回、初めて筑波2000を走ったということで「まだ1秒以上は速くなると思います」とオーナー。
そのオーナーカーとアルトワークス最速を争ったのは、KCテクニカ。デモカーのタイムは 1分08秒683。KCテクニカと言えば、TC2000のタイムアタックに早くからチャレンジ。他のアルトワークスのライバルよりもTC2000のことはよく知っている。いままでのデータを活かし、今回は過去の自己ベスト 1分09秒台 から1秒以上も見事にタイムアップ。
アルトワークスの仕様は、テクニカオリジナルのタービンキットやチューニングECUをはじめ、冷却系、吸排気、足まわりまで、すべて自社の市販パーツで構成されている約135馬力を発揮するストリートカー。すなわち、KCテクニカに頼めば、筑波で 08秒台 を叩き出したデモカーと同じスペックのアルトワークスを手に入れることもできるというワケだ。
最後に、現行アルトワークスでの筑波、1分08秒台というタイム。08秒と言えば、ノーマルの86&BRZのタイム1分10秒台よりも速いパフォーマンスを発揮していることには驚きだ。さらには、純正のアルトワークスの参考タイム1分18秒台を基準にすると、そこから10秒もタイムが縮まっている(アップしている)計算になる。その10秒のなかにこそ、我々が提唱するスモールカー・チューンにおける楽しさのすべてが凝縮されており、軽自動車が86&BRZなどのスポーツカーより速くなったり、TC2000のタイムが一桁になったりと次々に夢が現実になる、たくさんの“ロマン”が秘められているだ。