参考になる「高齢ドライバードットコム」
トヨタは2020年夏、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の活動として「高齢ドライバードットコム」を制作・公開した。同基金は、公益的な活動を行うことを目的として2014年8月に設立。「高齢ドライバードットコム」とは、高齢ドライバーによる交通事故が横ばい傾向であることから、交通安全に向けた取り組みの一環として、高齢ドライバー及びその家族に向け有用な情報を集めた総合ウェッブサイトだ。
内容は大きくわけて2つ。一つは高齢ドライバー自身に向けたもの、二つ目はその家族に向けたものだ。高齢ドライバー本人に向けた項目には、高齢ドライバーによる事故の実態を知ること/高齢化による運転能力の変化について/運転免許証返納後の移動手段についてとある。家族向けでも一部内容は重複し、高齢ドライバーによる事故の実態、高齢化による運転能力の変化のほか、高齢ドライバーとの接し方や、運転免許証返納の説得の仕方などがある。
事故原因は操作不的確か安全確認不十分か
高齢ドライバーによる事故実態でもっとも特徴的なのは、運転操作が的確でないこと、次に安全確認が不十分なことだ。 運転操作については、実はハンドル操作が十分にできていないという事例が多く、続いてペダル操作にまつわる踏み間違いの順となっている。いずれにしても、クルマを運転すること自体おぼつかない状況が生じる可能性が高いことを示している。 にもかかわらず、何十年も運転し続けてきているので、自分は運転が上手だという思い込みがあるとの指摘は重要で、65歳以上の高齢者は今一度我を振り返り、気を引き締めなければならない。交通事故は、被害者(及び家族など)が悲惨であるのはもちろんのこと、起こした本人もその後の人生に大きな負担がのしかかる。また、60歳で還暦を迎えた人も、予備軍である意識が必要ではないか。 運転がおぼつかなくなる理由として、体の衰えから的確な操作が、適切にできなくなっていることが、とっさの判断や操作の遅れを生じさせ、事故に結びついてしまう。時速20kmというような徐行の状態でも、1秒間に5.5m以上進んでしまうのであり、瞬きも時間がかかるようになる高齢者では、一瞬の遅れが衝突につながってしまう危険性がある。
また、かつてはできた長時間の集中力がさがり、長距離運転をするとしだいに的確な操作ができなくなることもある。老眼など視力の衰えでは、夜間や雨天の際に、十分な確認ができなくなる可能性を高める。
具体的な操作の例としては、一時停止したつもりで停止できておらず、安全確認が不十分であったり、信号の見落としがありながら周りのクルマと一緒に行動してしまったり、あるいはシフトレバーをパーキングに入れたつもりで入っておらず、ブレークペダルから足を離してクルマが動いてしまったりなど……。その結果、思わぬ事態に驚き、慌ててしまう。実はこうした経験を持つ高齢者もいるのではないか。
きちんと運転できる状況を選ぶ
うっかりというし損ないを起こさないため、きちんと運転できる状況でのみ運転する方法がある。これを「補償運転」という。たとえば、夜間や雨天のときは運転を控え、昼間や好天の日だけ運転する。また一人で長距離を移動せず、近距離移動に限定したり、運転を交代したりしながらクルマを使うなど。
いまの自分の運転の様子を確認する方法として、ドライブレコーダーの活用がある。走行中に常時稼働するドライブレコーダーの映像から、自分の運転を客観的に見てみると、思わぬ動作に気付かされるだろう。また、警察やJAFなどの主催による運転講習もある。ここでは第三者の教官から、直接助言をもらえる。
クルマでの移動に代わる手段として、超小型モビリティ、電動アシスト自転車、シニアカーなどが紹介されている。このうち、超小型モビリティは運転免許証が必要だ。この場合、運転すること自体は変わらないが、短距離移動が主体となるので、長距離移動による疲労によって誘発される事故を予防できる。
あとは、鉄道やバス、タクシーなど公共交通機関の利用が紹介されている。ただし、公共交通は路線などが整備されていない地域があるし、タクシーだと料金がかさむ場合もあるかもしれない。地域限定のデマンドバス(事前予約で運行されるバス)なども、自治体などの予算次第では整備できるところとできないところがあるだろう。
運転免許証を返納したあとの、別の交通手段については、まだ十分な対策が整えられていないのが実態ではないか。