参考になる「高齢ドライバードットコム」
トヨタは2020年夏、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の活動として「高齢ドライバードットコム」を制作・公開した。同基金は、公益的な活動を行うことを目的として2014年8月に設立。「高齢ドライバードットコム」とは、高齢ドライバーによる交通事故が横ばい傾向であることから、交通安全に向けた取り組みの一環として、高齢ドライバー及びその家族に向け有用な情報を集めた総合ウェッブサイトだ。
内容は大きくわけて2つ。一つは高齢ドライバー自身に向けたもの、二つ目はその家族に向けたものだ。高齢ドライバー本人に向けた項目には、高齢ドライバーによる事故の実態を知ること/高齢化による運転能力の変化について/運転免許証返納後の移動手段についてとある。家族向けでも一部内容は重複し、高齢ドライバーによる事故の実態、高齢化による運転能力の変化のほか、高齢ドライバーとの接し方や、運転免許証返納の説得の仕方などがある。
事故原因は操作不的確か安全確認不十分か
高齢ドライバーによる事故実態でもっとも特徴的なのは、運転操作が的確でないこと、次に安全確認が不十分なことだ。
また、かつてはできた長時間の集中力がさがり、長距離運転をするとしだいに的確な操作ができなくなることもある。老眼など視力の衰えでは、夜間や雨天の際に、十分な確認ができなくなる可能性を高める。
具体的な操作の例としては、一時停止したつもりで停止できておらず、安全確認が不十分であったり、信号の見落としがありながら周りのクルマと一緒に行動してしまったり、あるいはシフトレバーをパーキングに入れたつもりで入っておらず、ブレークペダルから足を離してクルマが動いてしまったりなど……。その結果、思わぬ事態に驚き、慌ててしまう。実はこうした経験を持つ高齢者もいるのではないか。
きちんと運転できる状況を選ぶ
うっかりというし損ないを起こさないため、きちんと運転できる状況でのみ運転する方法がある。これを「補償運転」という。たとえば、夜間や雨天のときは運転を控え、昼間や好天の日だけ運転する。また一人で長距離を移動せず、近距離移動に限定したり、運転を交代したりしながらクルマを使うなど。
いまの自分の運転の様子を確認する方法として、ドライブレコーダーの活用がある。走行中に常時稼働するドライブレコーダーの映像から、自分の運転を客観的に見てみると、思わぬ動作に気付かされるだろう。また、警察やJAFなどの主催による運転講習もある。ここでは第三者の教官から、直接助言をもらえる。
クルマでの移動に代わる手段として、超小型モビリティ、電動アシスト自転車、シニアカーなどが紹介されている。このうち、超小型モビリティは運転免許証が必要だ。この場合、運転すること自体は変わらないが、短距離移動が主体となるので、長距離移動による疲労によって誘発される事故を予防できる。
あとは、鉄道やバス、タクシーなど公共交通機関の利用が紹介されている。ただし、公共交通は路線などが整備されていない地域があるし、タクシーだと料金がかさむ場合もあるかもしれない。地域限定のデマンドバス(事前予約で運行されるバス)なども、自治体などの予算次第では整備できるところとできないところがあるだろう。
運転免許証を返納したあとの、別の交通手段については、まだ十分な対策が整えられていないのが実態ではないか。
家族からの接し方にも示唆
次に家族へ向けた情報としては、高齢ドライバーとの接し方が一番の難題だろう。大学の専門家は、運転の危険性を大げさに伝えたり、本人のプライドを傷つけたり、運転を続けていることに文句を言ったりすることは避けるべきだと助言している。
では、どう説得すればいいのか。まずは、補償運転を薦めてみることだという。昼間や天気のよい日の、近距離の移動は自分で運転することにする。それによって危険との遭遇を減らすわけだ。
ほかに、クルマの装備として、ドライブレコーダーやドライブレコーダー付きサービスを利用したり、安全運転サポート車(通称サポカー)に買い替えたりするなどが紹介されている。
ドライブレコーダー付きサービスとは、保険会社や通信会社が提供する支援で、事故の際に自動で対応したり、家族に連絡したりするもの。また日常的な運転のなかで、危険な運転をした際に警告音で知らせたり、運転状況を診断し、改善点を教えてくれたりするなど、事故防止につながる意識付けもしてくれるという。
しかしいずれにしても、本人と家族の親密さや信頼関係が不可欠というのが家族へ向けた対応策の結論であり、一朝一夕に解決できる話ではなさそうだ。それでも、家族からそうした情報を本人に知らせることが、安全運転を自覚したり、運転免許証の返納を検討したりするきっかけにもなっていくだろう。
トヨタは、グループ創業の豊田佐吉の意志に基づいて制定した行動指針に則し、クルマを通じた豊かな社会づくりを目指すとしている。クルマの安全性を高めるのはもちろん、クルマ社会全体の課題(環境や利用の仕方なども含め)を解決するため、消費者とその家族への啓蒙活動も、すべての自動車メーカーに求められる時代となっている。