レースを始めるにはワンメイクレース
最近ではレースを始めるうえでのハードルが、ずいぶん引き下げられてきました。その中でのキーワードの一つがワンメイクです。直訳すると『一つの銘柄』とでもなるのでしょうが、レースにおいては同じものを使用する、と解釈されています。その存在理由としては同じものを使用することでドライバー個人のスキルがより重要になってくる。つまり“道具の勝負”ではなくドライバーの“腕の勝負”のレースになる、という訳ですね。
コスト低減のワンメイクは世界最高峰でも
また同じものを使用するということで、開発コストを低減させる効率化の意味合いがあるのも重要でしょう。ただこれはビギナー向けの入門レースだけではなく、例えば世界最高峰のモータースポーツとされるF1GPでも、タイヤがピレリのワンメイクとなっていますし、国内最高峰の一つ、スーパーフォーミュラ(SF)ではヨコハマタイヤがワンメイクのコントロールタイヤを供給するだけでなく、クルマ本体(=シャシー)もダラーラのワンメイクとなっています。
だからと言ってSFがドライバーのドライビングスキルだけで戦われているわけではなく、ドライバーとチーフエンジニアとがミーティングして進められるクルマのセットアップも、勝敗の大きな要因となっています。
フォーミュラカーを使ったワンメイクレースとしては先に少し触れたように、国内最高峰のフォーミュラレースであるSFも、エンジンはトヨタとホンダがそれぞれ開発したN・R・E(ニッポン・レース・エンジン)と呼ばれる2ℓ直4直噴ターボ・エンジンを使用していますが、ダラーラのシャシーとヨコハマタイヤのパッケージはワンメイクです。
79年から始まったF3の後継で、SF直下のカテゴリーと位置付けられているスーパー・フォーミュラ・ライツ(SFL)もエンジンは19年までのF3規定に合致したものでワンメイクではありませんが、シャシーはダラーラ、タイヤはヨコハマのワンメイクとなっています。さらに今年からレースシリーズが開始されたフォーミュラ・リージョナル(FIA-RF3)やFIA-F4は、童夢製のシャシーに、アルファ・ロメオの1.75ℓ直4ターボや、トムス製の2ℓ直4エンジンを搭載。タイヤはともにダンロップのワンメイクとなっています。
ワンメイクレースを歴史的に振り返ってみると、ライバルが淘汰され結果的にワンメイクとなったレースシリーズと、レギュレーションでワンメイクを謳ったレースシリーズ、の2通りがあります。
前者の例を引き合いに出すなら、80年代半ばから90年代序盤に大きな盛り上がりを見せていたグループA車両による全日本ツーリングカー選手権ですが、オーバーオールで優勝を狙うクラス1(旧Div.3)ではフォード・シエラが駆逐される格好でスカイラインGT-Rのワンメイクとなり、クラス2(旧Div.2)でもやはりBMW M3のワンメイクとなってしまいました。
腕を磨く場として重要なワンメイクレース
一方後者のレギュレーションでワンメイクを謳ったレースシリーズについては、81年に始まったシビック・レースがその嚆矢で、やがてメーカーの主導によってさまざまなワンメイクレースが誕生しています。
シビック・レースはその後、ホンダ・ワンメイク・レースと名称が変わりインテグラを使用したこともありましたが、上級カテゴリーの“インターカップ”を設定することでハコ遣いのスペシャリストを数多く輩出しています。
そんなインターカップも含めてシビックレースはなくなってしまいましたが、同じ立ち位置にあるのが86/BRZ のプロフェッショナルシリーズです。先日、21年シーズンのレースカレンダーが発表されたところですが、谷口信輝選手を筆頭にSUPER GTなどのトップカテゴリーで活躍するベテランがタフなバトルを展開。そこに挑んでいく若手の争いも大きな見どころとなっています。
ただし、競技車両はトヨタ86とSUBARU BRZのワンメイク(2メイクス?)ですが、タイヤが自由に選べることからタイヤメーカーの開発競争がヒートアップしているのが気になるところです。
ナンバー付きクルマでレースを始めよう
このように、様々なシリーズが登場してきたワンメイクレースですが、やがて新たなトレンドが登場してきます。その一つが2000年にスタートしたネッツカップ・ヴィッツレースで、より気楽にレースを楽しめるようナンバー付きのクルマでレースをするというもので、これは国内初の試みでした。
レースには、その前後で車検があって、レギュレーション(車両規則)に適合しているかどうかをチェックするのですが、ヴィッツレースの場合はさらに、一般道を走って帰ることから通常の…ロードゴーイングの車両で初年度登録から3年目、以後は2年おきに実施が義務付けられている…車検と同様の、厳しいチェックが行われていました。
そんなヴィッツレースの後継として、2021年からヤリスを使ったTOYOTA GAZOO Racing Yaris Cupが始まることが決定。詳細なレギュレーションは1月の発表を待つしかありませんが、ヤリスのナンバー付き車両で争われることが公式にアナウンスされていて、86/BRZと同時に年間のレースカレンダーが発表されています。
またマツダが協賛しているパーティレースも、ナンバー付きのロードスターNR-Aを使用したワンメイクレースとして注目を集めています。
さらに出場のハードルが低いことで言えば、ホンダが協賛し、軽乗用車のN-ONEのナンバー付き車両を使用するN-ONEオーナーズカップもその最右翼。ビギナーにとっては狙い目のシリーズかもしれません。
世界的ドライバーを輩出させる場でもある
ワンメイクレースの、もう一つの新しい流れは世界共通のレギュレーションで戦われるレースの国内開催です。ネッツカップ・ヴィッツレースに続いて2001年から始まったポルシェ・カレラ・カップ・ジャパンはその代表的なもので“国内最高峰のワンメイクレース”とか“最速のワンメイクレース”などと呼ばれ、ジェントルマンと呼ばれるハイアマチュアのドライバーに人気を呼んでいます。
使用する競技車両はポルシェ911 GT3 Cup、いわゆるカップカーで、2020年シーズンからはプロアマクラスとアマクラスの2クラス制が導入されています。
カップカーのパワーは460馬力で、並のレーシングカー以上ですから、ジェントルマンドライバーだけでなく、若手ドライバーがハイパワーを修練するためのカテゴリーとしても重要性を増してきていて、スカラシップも用意されています。こちらの2021年レースカレンダーは、近々発表の予定です。