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トヨタも日産も「右へならえ」! 時代の流れを変えた「初代オデッセイ」の衝撃

誕生から一時代を築いたミニバンの隆盛と衰退

 いまや時代の人気車種は、SUV(スポーツ多目的車)である。ポルシェでさえSUVに依存した販売動向であるのだから、間違いないことだ。そして「クラウンがセダンではなくなる」などという突飛な説まで浮上した。

 しかし、SUV人気もまもなく落ち着きを見せるだろうと考えている。理由は、その前のミニバン人気が去ったからだ。もちろん、アルファードの人気は根強いし、5ナンバー枠のミニバンも堅調だ。しかし、ミニバンを出せば売れる時代は終わっている。時代を築いたホンダ・オデッセイでさえ、月販販売台数で30位前後である。

RV時代をも凌駕した「クリエイティブ・ムーバー」という戦術

 オデッセイは1994年に誕生した。ホンダが新たに打ち出した「クリエイティブ・ムーバー」の第1弾である。そしてオデッセイが、ホンダの経営危機を救うことになる。

 ミニバンは、すでに1980年代に米国で生まれている。たとえば空港からホテルへという移動(シャトル便)に、バスより小型だが多人数乗車のできるバンが利用されていた。それより小型のものを、ミニバンと呼ぶ。子供たちがスポーツをしに出掛ける折など、母親が子供とその友人たちを一緒に送り迎えするのに便利なクルマだ。同じ用途には、米国伝統のステーションワゴン(荷室に3列目の座席を設けられる車種もあった)では乗車人数が足りない。まさに、ミニバンは家族のためのクルマとしてうってつけであった。

 日本には、商用バンを基にしたワンボックスカーがあった。そしてそれが米国のミニバンの代わりを果たしていた。しかしホンダは乗用車メーカーであり、商用車を製造していなかったのでワンボックスカーをつくれなかった。また、ラダーフレームの4輪駆動車(4WD)もつくったことがなく、80年代に人気を呼んだいすゞ・ビッグホーンや三菱パジェロのようなRV(レクリエイショナル・ヴィークル)もつくれなかった。そして経営が傾いたのである。三菱自に吸収合併されるのではないかとの噂まで当時流れた。

 乗用車を基に、なおかつ背の低い乗用車を生産する工場でそのまま製造できるクルマとして、オデッセイが企画されたのである。同時にまた「クリエイティブ・ムーバー」と呼ぶ一群のCR-V、ステップワゴン、S-MXが企画・開発された。CR-VはいまのSUVであり、ステップワゴンは5ナンバー枠ミニバン、そしてS-MXはトールワゴンだ。まさに、今日の市場を形成する車種をホンダは25年も前に打ち出した。

 米国のミニバンとオデッセイが異なるのは、アコードという乗用4ドアセダンを基に開発された点だ。したがって快適な乗り心地と走行性能の高さは、それまでのミニバンの常識を覆した。そして米国でも、やや大柄なUSオデッセイが一世を風靡するのである。こうしてホンダは蘇った。

「ミニバン時代」到来による多様化と程なく頭角を現した「SUV」という存在

 オデッセイとステップワゴンの成功によって、それまでワンボックスカーを売ってきたトヨタや日産もミニバンへ移行していくことになる。また、CR-Vと同様のRAV4も一年前に生まれている。今日のSUVは、トヨタ・ハリアーが祖を築いたといえるが、ラダーフレームを基にした本格的悪路走破を売りとした4WDの快適性を改良したかつてのRVとは異なる車種として、乗用車を基にしたRAV4やCR-Vが影響を及ぼしたといえる。米国のジープでさえ、4WDではなく前輪駆動(FWD)を主体としたSUVを売り出すようにもなるのである。

 オデッセイの登場によって、必ずしも家族や仲間と大人数で出かける用のない人までが、ミニバンを選ぶようになり、街にミニバンが溢れた。

 着座位置が高いので、見通しがよくなる。それでいて、かつてのワンボックスカーのように走行中のふらつきに不安を覚えることもなく、ことにオデッセイは都市高速で壮快な運転を楽しめるほど操縦安定性が優れていた。当然ながら、背の高さによって室内空間は広々として心地よい。ことにオデッセイの場合は3列目の座席を床下へ収納できるので、3列目の座席を使わなければ商用バンのように荷物をたくさん積めた。バンを利用していた人も、オデッセイなら快適な移動をしながら仕事に使えたのだ。

 しかし、一度ミニバンを経験すれば次もミニバンを選ぶかどうか、そこは人々も考えた。ホンダも同じだったのだろう。3代目のオデッセイで車高を下げ、走行性能を向上させる新たな価値の創造に打って出た。背を低くした3代目は売れたが、一方で、ミニバン本来の用途を求める顧客からは見放された。3代目のオデッセイは、ミニバンでもなくステーションワゴンでもなく、どこか半端な価値であったからだ。

 結局、オデッセイは現行の5代目で再び背を高くし、ミニバン本来の価値を取り戻した。だが、ハイブリッド車への対応の遅れなどもあり、またミニバンへの期待が別の価値へも移って、ひと時代を終えることになった。

 実際、競合であったトヨタ・エスティマも市場から消えた。替わってミニバンを牽引するのは、アルファード/ヴェルファイアである。

 アルファード/ヴェルファイアは、多人数乗車ではなく、ストレッチリムジンのような送迎用高級車という価値で魅了した。ホンダにも、USオデッセイを基にしたラグレイトやエリシオンがあったが、アルファード/ヴェルファイアほど明確なリムジンとしての価値づけはなかった。あくまで多人数乗車のミニバンであり続けた。

 いずれにしても約20年を経て、時代はミニバンからSUVへ移行した。しかし、ミニバンが必要とする人が買うクルマの台数に落ち着いたように、SUVもやがて販売動向は落ち着きを見せるだろう。

「SUV時代」のあと、クルマの形状はどこへ向かうのか

 そして再び注目されるのは、4ドアセダンであり、ステーションワゴンではないかと思う。理由は簡単だ。高齢化社会を向かえるに際して、ミニバンやSUVの座席は高すぎて乗り降りしにくい。SUVの荷台は床が高く、重い荷物の載せ降ろしが辛い。高齢者には不都合な車種なのだ。

 同じことは、若い世代も同様ではないか。体力的な心配はなくとも、高さのある着座位置への乗り降りは、日々の使い勝手としてはよくない。まして子供を連れて出かけるには不便だ。したがって、軽自動車のスーパーハイトワゴンや、登録車でもシエンタのようなワゴンが高い人気を集めている。そこには、スライドドアという条件も加わるのではないか。

 トヨタの「JPN・TAXI」が、それらを象徴している。バリアフリーでユニバーサルデザインであることを、これからのクルマは求められるはずだ。個人で所有するクルマも、そのような姿が老若男女、万人向けであるだろう。そのうえで、より格好のよい造形がもたらされたら、買いたくなるのではないか。

 そこに至る着想が生まれる前段階として、ミニバンが流行り、SUVが流行ったことに意味はある。そこにモータ駆動と自動運転が加われば、まさに未来の次世代車ではないか。そして自動運転で迎えに来てくれたら、必ずしも所有する必要もなくなる。

 まさに「CASE(コネクテッド=情報通信・オートノマス=自動運転・シェアード=共同利用・エレクトリック=電動化)」は、様々なクルマを経験したからこそ辿り着いた時代の要請なのだ。

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