ホンダは高回転アピールのシビックSiへ
一方、シティのターボ化でホットハッチ戦線に名乗りを挙げたホンダだったが、その後ターボから一転して自然吸気方式に路線を転換。1984年に3代目として登場したシビックに、1.6リッター4バルブDOHCのZC型を搭載するシビックSi(AT型)をラインアップ。高回転型エンシン、高速燃焼理論の分野で進んでいたホンダは、ホンダ本来の魅力であるエンジン素性のよさで勝負する路線に立ち返っていた。
ZC型エンジンは、ロングストローク型とホンダとしては異例のシリンダーディメンションだったが、狙いとする全域トルクの確保と、頭打ち感のない高回転域での回り方はさすがホンダならではのもので、切れのよい次元の高い走りはレーシングカー的ですらあった。
いすゞもジェミニのワンツーパンチ
これと同じ意味では、やはりエンジン技術に自信を持っていたいすゞも、4バルブDOHCの4XE1型を開発してJT190型ジェミニに搭載。ロータス社の監修により「ZZハンドリング・バイ・ロータス」と長いグレード名となったが、独自のインジェクション方式を採用し、パンチ力のあるエンジン特性が魅力だった。
このエンジンは、その後「1.6イルムシャー」にも搭載され、こちらは切れ味鋭いハンドリングでファンに支持された。
トヨタからは唯一 3代目スターレット
さて、こうなると気になるのはトヨタ、日産の2大勢力の動向だが、走り味で「ホットハッチ」と見なせるモデルは意外と少なかった。性能のレベル、まとまりは申し分なかったが、走って「ホットハッチ」を体感できるモデルはトヨタのEP71スターレットぐらいだった。1984年、3代目に進化したスターレットはこのモデルからFF方式を採用。
3バルブSOHC(吸気2/排気1)の1.3リッター2E型エンジンを開発し、EFI-D方式と組み合わせて93psのハイパワーを実現。自ら「かっとびスターレット」と名乗り、まさにそのとおりの走りでヤング層を獲得していた。
さらにターボを装着して105psとしたスターレットターボを1986年に追加。ブーストを高/低2段に切り替えられる方式が特徴だった。スターレットは、自然吸気でも十分なパワーを備えていたが、ターボモデルは逆にパワー/トルクがかなり勝るかたちとなり、確実に速くはなっていたがハンドリングにクセが生じ、乗りこなしにテクニックが必要なモデルとなっていた。
メカニズムのレベルは高いが、ある意味、乗り手の技量を必要とするモデル。ホットハッチの言葉には、こんな意味が込められていたような気がする。