時代のニーズに応え高級路線に
質実剛健な四輪駆動車として誕生し、時代のニーズに応え、立ち止まることなく改良を加えてきたランドクルーザー。大きな市場として対応してきたアメリカでは4WDステーションワゴンの人気が確固たるものになり、ランドクルーザーにもより快適な居住性、スタイリッシュなデザイン、高級感が求められていく。そしてヘビーデューテイー系ランドクルーザー、ステーションワゴン系ランドクルーザーと方向性を明確にし、各カラーを色濃く主張していく事となった。
ランドクルーザー70系(1984年-2004年・2014年−2015年)
■荒野が育んだワークホース
24年間生産され続けたランドクルーザー40系の後続車として1984年にランドクルーザー70系はデビューした。1970年代以降、多くの4WDは乗用車的な快適性が求められパーソナルなSUVへと舵を切ったが70系はトヨタ・ジープの流れを引き継ぐワークホースとして邁進していった。
丸型2灯にスクエアなラジエターグリル、独立したフェンダーのデザイン、フラットなフロントスクリーン、全く別物にせず40系のイメージを色濃く残したのである。国内一般市販車のボディバリエーションにはショートホイールベースの幌とバン、ミドルホイールベースのFRPトップ、そしてのちにセミロングホイールベースの4ドアが加わることになる。
室内は鉄板むき出しからほぼフルトリム化され、インパネもシンプルで現代的になり、シートもフィット感の増した座り心地の良いものに置き換えられ、華美な装飾、装備は無いものの居住性は大幅に向上した。
シャシーはヘビーデューティー系ランドクルーザーのアイデンティティである、ラダーフレームに前後リーフリジットサスペンションを伝承。ラダーフレームは断面積を拡大され、高い強度を実現する溶接式のボックス断面形状により剛性が上げられた。
リーフスプリングはスパンを延長し、ショックアブソーバーと共に取り付け位置等を変更、フロントにはスタビライザーを採用したことでソフトな乗り心地とアンチロール性を向上。サスペンションのストロークアップも実現している。また最上級グレードにはインパネに設置されたスイッチで操作できるデフロックがオプションで設定された。
1999年にマイナーチェンジが行われ、フロントサスペンションがリーフスプリングからコイルスプリングに変更。これにより乗り心地、高速走行時のスタビリティも格段に向上した。電装も24Vから12Vになった。
しかし5年後の2004年、大都市圏でのディーゼル車の排ガス規制強化が要因となる販売台数の減少によりヘビーデューティー系ランドクルーザー70系は販売中止を余儀なくされた。それでも信頼性の高いワークホース、ランドクルーザー70系を必要としている国や地域がある限り輸出は続き、改良がされていく。
2007年にエンジンが直列からV型へコンバート。これに伴いエンジンベイ(ルーム)を拡張する必要がありフロント周りのデザインも変更され乗用車然としたデザインになった。
国内販売中止から10年経った2014年夏、まことしやかにささやかれていた噂が真実となる。
1年の限定ではあるが、4ドアバンの76、ダブルキャブピックアップの79が国内販売された。ランクルフアンのみならずこのニュースは湧きに湧いた。予想を超える反響に大量のバックオーダーを抱えた。
国内外で愛されているランドクルーザー70系は2020年現在も製造され続け、34年のロングセラーとなっている。世界に荒野がある限りワークホースは生産され、走り続けるだろう。
ランドクルーザー80系(1989年-1997年)
■時代は高級路線
ときはバブル、空前の四駆ブーム。市場は4WDにもスタイリシュなデザイン、快適性、装備の充実を求めるようになった。ランドクルーザー60系の後続車、80系は1989年にデビューした。
4WDは主流であるスクエアなボディから角を落とした丸みをおびたソフトな印象のボディデザインになり、足回りは乗り心地を向上させるために、60系で見送られたコイルスプリング式が採用。エンジンはワゴンにガソリンの3F-E型、バンには新開発されたターボディーゼルの1HD-T型、ディーゼルの1HZが用意され、ランドクルーザー初のフルタイム4WDシステムもラインナップされた。
1992年のマイナーチェンジではワゴンモデルは排気量アップ、4バルブ化された1FZ‐FE型ガソリンエンジンを搭載し、オートマチックトランスミッションも機械式から電子制御化された。変速が滑らかになり高速からオフロードまで快適に走行できるようになる。またブレーキのディスクローターも15インチから16インチに大型化され制動力も強化された。
その後も安全性、環境性の改良を続け1998年に後続車100系にバトンを渡し生産を終了した。
脱実用車を進めた80系は保守的なランクルマニアからはランクルらしさが無くなったという声もあったが、高い走破性、耐久性が立証され、のちに最強のランドクルーザーと賞賛されるようになったのだ。
ランドクルーザー100系(1998年-2007年)
■ハイクラスの居住性を実現したSUV
ランドクルーザー100系は80系の後継車として1998年にデビューした。スクエアなフォルムに豪華な装備で高級化が加速し「オフロードのセルシオ」ともいわれた。100系一番のトピックはトヨタ・ジープより引き継がれてきたリジットアクスルと決別し、フロントに独立懸架を採用した。オフロードではストロークやトラクションがリジットアクスルと比べ不利な面もあるが、直進安定性、路面追従性、乗り心地、前モデル80系より切れ角が増し、最小回転半径が小さくなったこともあり、取り回しも向上した。
100系はランドクルーザー初のV8ガソリンエンジンが搭載されたモデルでもあり、2UZ‐FE型V8DOHC(4663cc)ガソリン、1HD‐FTE型直6SOHC(4163cc)ターボディーゼルが用意された。車高を油圧で調整するAHC(クティブハイトコントロールサスペンション)、ショックアブソーバーの減衰力を16段階に細かく制御するスカイフックTEMがオプションで選べ、100系はオフロードでの高い走破性、オンロードでは高級車と呼ぶにふさわしい快適な走りを高次元で実現した。まさにプレミアムSUVとなった。
また、海外モデルでは実績のある80系のシャシーを使い、フロント、リア共にリジットアクスル式サスペンション、パートタイム4WDを採用しているモデルが存在する。これは主要輸出国であるオーストラリアからの要望といわれており、広大な荒野の拡がるオーストラリアでは歴代のランドクルーザーの耐久性や悪路走破性が高く評価されており、独立懸架では不安が残る為であった。オーストラリアのほか、中東や国連などに輸出されたヘビーデューテイーモデルだ。
ランドクルーザー200系(2007年‐現在)
■最新電子デバイスを搭載した陸の巡洋艦
ランドクルーザー200系は2007年より生産がスタートした現行モデル。ステーションワゴン系ランドクルーザーでは、2020年現在、1967年から1980年まで13年間生産された50系と並ぶ息の長いモデルとなっている。
足回りで引き続き採用された独立懸架はトーションバースプリングからコイルスプリング式のハイマウント・ダブルウィッシュボーンサスペンションになり、ラダーフレームが強化。エンジンは2UZ-FE型V8DOHC(4663cc)ガソリンが採用されていたが、2012年、1UR-FE型V8DOHC(4608cc)ガソリンに変更された。
200系は電子デバイスが充実したモデルでもある。路面の状況やスピードを検知して、ショックアブソーバーが路面から侵入してくる振動を吸収する力を最適化するAVS(アダプティブバリアブルサスペンションシステム)や、スタビライザーの効力を走行状況に応じて自動的にコントロールする油圧システムが備わった。これによりオンロードではカーブなどでスタビライザーを効かせ、優れたスタビリティを実現した。
一方、モーグルやロックなど起伏の激しいオフロードではスタビライザーの効力を無くしてストロークを確保するKDSS(キネティック ダイナミック サスペンション)。これはオフロード走行時に5つのモード(ROCK/ROCK&DIRT/MOGUL/LOOSE ROCK/MUD&SAND)から路面状況に適したものを選択すると、各モードに応じたブレーキ油圧制御に自動的に切り替わり、駆動力を4輪に最適に分配しトラクションを確保するシステム、マルチテレインセレクトなど、最新の技術が投入されたことで条件の悪い路面を走るドライバーの負担を軽減している。
ランドクルーザーには使命がある
ランドクルーザーが失ってはいけないものがある。それは走破性と堅牢性だ。日本の都市部で生活しているとピンとこないが、世界には生活インフラが整っていない地域がまだまだ存在する。
開発を行っている現場、または町から遠くに住む人、通勤や生活の為に整備されていないラフロードを長距離運転しなければいけない人達がいる。すれ違う車もいない辺境の地で、もし乗っている車が破損や故障で走行不能に陥ると命を落すことさえある。オーストラリアのアウトバックでは奥地に行くほどランドクルーザーが目に留まるようになってくる。ランドクルーザーが増えるのか、いやそうではない。ランドクルーザーしかいなくなるのだ。
アウトバックの住民は言う「ランドクルーザーが無いと生活できなくなる」。
彼たちにとってランドクルーザーは、ただの車ではなく生きていく為に必要な信頼できる道具なのだ。日本で生活している私たちにとってはオーバースペックな車だが世界にはランドクルーザーの持つ走破性と堅牢性を必要としている人々がいるのだ。
日本でもランドクルーザーの堅牢性が証明された出来事がある。2019年10月に日本を襲った台風19号の大雨で川が氾濫し1台のランドクルーザーがルームミラーに水がとどくほど水没した。オーナーは半ば諦めていたが友人の協力もあり、室内に入り込んだ泥をかき出し水で洗い終えた。そして補機類を交換するとあっさりエンジンがかかったそうだ。エンジンにまで水はほとんど入っていなかったという。そのランドクルーザーは何事もなかったかのように今も家族を乗せドライブを楽しんでいる。
今回写真を提供して頂いた方々もランドクルーザーのオーナーが多く何十年も前のモデルに乗っている方もいる。彼らもまたランドクルーザーの持つ実直さ、世界観に魅了された人々であろう。
生産国日本に留まらず、世界で愛用されているランドクルーザー。世界全土でインフラが整い未舗装の道が無くなるまではランドクルーザーの使命は終わらない。今も地球のどこかで人々に寄り添い走っている。