白バイの先導でパラモトライダーが「もう一度バイクに乗る」
レーシングライダーとして世界で活躍した青木三兄弟の次男となる青木拓磨選手は、1998年に2輪GPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活を余儀なくされた。以後4輪ドライバーに転向している。その拓磨選手に再びバイクに乗ってもらおうと「Takuma Ride Again」と題したプロジェクトを昨年スタートさせたのが、その3兄弟の長男・青木宣篤選手と三男・治親選手のふたり。
その活動をきっかけにふたりが立ち上げた一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)は、事故などで障がいを抱えてしまい、2輪車を諦めた人に再びオートバイに乗ってもらうというもの。オートバイに乗る趣味を一緒に楽しんで行けるように応援する非営利支援団体で、今年6月から毎月1回のペースで一般の障がい者を対象とした体験走行会を開催している。
このパラモトライダー体験走行会では、ハンドシステムなど下半身不随の障がい者でも乗車が可能となる補助システムを搭載したバイクと、ヘルメットからツナギまでライディングギアをすべて用意している。そして、停車時・走行開始時に自立しないバイクを支える数多くのボランティアスタッフが支えることで、障がいを負って、バイクで走ることを諦めてしまった元ライダーたちに、再び走る喜びを取り戻してもらおうとする活動である。
これまでの開催場所は、一方通行で事故の危険性の低いクローズド空間のサーキットを使用してきた。だが、5回目の開催となる前回から自動車教習所での開催となり、続くこの6回目も自動車学校で行われた。
着実にパラモトライダーを獲得中
12月21日(月)、自動車学校の休校日を利用して開催となった舞台は神奈川県川崎市にある向ヶ丘自動車学校。いつものボランティアスタッフとは別に、今回は、神奈川県警察本部高速道路交通警察隊の4名とパトカー1台、白バイ2台が参加した。
前回も群馬県警察本部交通部交通機動隊第2小隊特連班の8名がボランティアで参加しているが、今回は公務としての参加となった。
これはSSP側からの知人を介しての相談に応えてくれたもので、当初は公務での予定ではなかったということだが「なかには交通事故で障がいを負ってしまった参加者もいらっしゃいます。その方々が再びバイクに乗りたいという夢の実現への手伝いができる上に、安全運転への警鐘、交通安全の意識向上にも貢献ができます」という高速道路交通警察隊隊長のひと言で公務としての参加につながった。
実は今回の会場の紹介も交通警察隊からなのだという。白バイの訓練などで練習に借りることがあるという自動車教習所とのパイプをつないでくれたことで開催が実ったのだ。また、他にもボッシュからも3名がボランティアで参加するなど、広がりを見せる展開となった。
今回のパラモトライダー体験走行会には、2名の参加者と4名の見学者が来場。参加者は、過去にも参加したことのある2名で、初回から3回参加してきた野口忠さんと前々回に参加した渡邉友章さん。
野口さんは、年前に腰椎の損傷により、下半身の完全麻痺。すでにこのパラモトライダー走行会を重ねてきており、自分ばかり楽しんでは、と参加を控えていたということで、今回久しぶりの参加であった。渡邉さんは、昨夏バイク・ツーリング中の事故で、腰椎の圧迫骨折で車いす生活を強いられており、前々回のサーキットの体験走行会に続いて2回目の参加となった。
渡邉さんは、前回の袖ケ浦フォレストレースウェイの走行会では、なかなかまっすぐ走ることができず、補助輪付き車両での広場での走行練習にとどまっており、大型バイクでのサーキット周回には進めず、悔しい想いをしていた。ということで今回は大型バイクで周回走行へ進む挑戦となった。
ほかにも、前回参加した関口和正さんも同じく車いす生活を余儀なくされている知人を引き連れて会場に訪れ、見学にやってきた。関口さんは「またバイクに乗れたことは、もうただただ気持ちよかった。この場にどうしても友人を連れてきたかったんです。僕が今ここに来る目的は、この素晴らしい活動を広めていくことと、この活動をさせているボランティアスタッフに会う、ことなんです。4輪のレース仲間に声をかけて紹介していますし、この場にはバイクに乗らなくても来ているんです」とこの場の雰囲気を含めて楽しんでいるという。
体験走行は白バイが先導役を務めた!
練習車は、BMWとMVアグスタの2台の大型車両は手動装置を取り付けたバイクを使用している。SSPでは、常に進化を重ねてきており、今回も、補助輪付きバイクでは、遠隔でバイクのエンジンを停止ができるように緊急停止リモコンをスタッフが常に準備していた。
また、リモコンによるエンジンストップの際に自動的にリアブレーキを掛けるユニットを組み込んだType3を投入。さらには、この教習所での走行も考慮した可能バンク角を変えた補助アームも用意された。
当日は、朝の冷え込みこそ厳しかったが、日中は暖かいバイク日和。2名ともに朝からSSP専属理学療法士からの問診から始まり、補助輪付きのバイクの走行チェック。最後は大型バイクで走行を体験した。今回は神奈川県警察の協力もあり、普段は青木兄弟による先導走行だが、白バイが先導走行という、あの(!)タイミング以外の走行を楽しめた様子だ。
4回目の参加となる野口さんは「サーキットを中心に毎回バイクを楽しむことができました。自分は、普段レーシングカートを愉しんでいるし、バイクに乗ったことのない人にもっと乗ってもらいたいと思って控えていました。参加者が少なかったりしたら声をかけて、と青木選手にお願いしてて、今回声が掛かったので久しぶりの参加を心待ちにしてこの場に来ました。今回は、教習所での開催ということもあって、いろいろなところでバイクに乗ってみたいと思っていたので、信号もある、疑似的な街での走行が、ツーリングをしている気分で外周路を走れてすごく良かったです」とコメント。
渡邉さんも「前回は、こういうふうに乗っていたなぁ、というその癖のまま乗ろうとして、うまく乗れないまま終了してしまいました。その際に青木拓磨選手に『考え方を変えたほうが良い』とアドバイスをもらって、もっと腕をしっかり使って、ステアリングに舵を入れてバランスを取るという乗り方でコツを掴めました」とコメントしてくれた。
これで今年のSSPパラモトライダー体験走行会は終了。次回の開催も調整中だが、寒さや路面の環境も考え、春先からの再開となりそうだということ。今回も新規の参加希望の見学もあり、パラモトライダーの輪の拡大は止まらない。