「平成のABCトリオ」の中で飛び抜けた中身を持つ本格的なリアルマシン!
70年強におよぶ軽自動車史において最も本格的なリアルスポーツといえるのが、1991年に登場したスズキ・カプチーノだ。ライバルはマツダのAZ-1とホンダのビートで、その3車の頭文字を取って「平成のABCトリオ」と呼ばれ、盛り上がりを見せた。
駆動方式だけを見れば、カプチーノ以外はスーパーカーと同じミッドシップレイアウトを採用し、スポーツ要素は高かったが、中身を見れば見るほどカプチーノの優位性が見えてくる。今回は元オーナーとしてカプチーノの歴史とその魅力を繙いていく。
700kgの軽量ボディに贅沢な4輪ダブルウィッシュボーンをドッキング!
ABCトリオを含めて軽自動車にリアルスポーツが誕生した背景には1980年代中盤から始まった空前のバブル景気が大きく影響しているのは明白だ。国内新車販売は1989年に700万台を大きく上回り(現在は500万台)、開発費も潤沢であったため、研究開発レベルだった商品企画にGOが出たり、新技術の開発に力が注ぎ込まれた。それがカタチとなり花咲いたのが1989年以降で、今なお名車と呼ばれるクルマが多数、市場に投入された。
軽自動車は1990年に550ccから660ccへの規格変更があったことから、名車ラッシュは普通車よりもやや遅れた。ABCトリオの先陣を切ったのは1991年6月に登場したホンダのビートで、カプチーノはその後を追うように同年11月にデビューした(AZ-1は1992年10月販売)。
開発のスタートは1987年で、1989年の第28回東京モーターショーでプロトタイプを初公開! 当時は550ccエンジンで、ボディにカーボンファイバー製を多用し、500kgを切る超軽量スポーツモデルとして話題をさらった。この反響を受けて鈴木修社長(当時)が市販化を決断した。
カプチーノが本格的なリアルスポーツと呼ばれるのはスズキ唯一のオープンFRパッケージにある。ボディはオープンカー専用に設計された強固なスチールモノコック。ボディパネルは、プロトタイプのカーボンからスチール&アルミに変更されたが、それでも車重は700kgと軽量だ。組み合わされる足まわりは贅沢な4輪ダブルウィッシュボーン。軽自動車初かつこれまで唯一の採用で、スズキの本気が垣間見える。
Tバールーフ・タルガトップ・フルオープンの3タイプのスタイルが楽しめる
これに最速マシンの一角であるアルトワークスで定評のあったF6A型直3DOHCターボエンジン(64ps/8.7kg-m)をドッキング。ライバルよりも1歩抜きんでた性能を盛り込んだ。スズキとしては初のFRレイアウトであったがミッションやデフ関係の部品はジムニー用を多数流用。コストを抑えるとともに現在もパワートレイン系は困ることはほぼない。ブレーキも4輪ディスクで、しっかりした制動力を確保。さらにABSや機械式LSDがオプションで設定され、前後の重量配分はフロントミッドシップの採用で51:49と理想の数値に収めるなど、走る・曲がる・止まるの走りの基本性能を高次元で満たしていた。
ボディはロングノーズ、ショートデッキの古典的なスポーツカーのレイアウトで、フロントマスクが低く抑えられたラウンドシェイプなデザインは素直にカッコよかった。 特筆すべきはオープンカーでありながらアルミルーフを採用した点。布地の幌では長期間の使用で耐候性、耐久性に難が出るからとの判断で、こうした作り込みに、スズキのこのクルマに掛けた思いが伝わってくる。
さらに、ルーフの脱着も手動ながらTバールーフ、タルガトップ、フルオープンの3種類のオープンスタイルが楽しめるのは普通車を含めて画期的なものであった。 オプションながらエアバックや電動ドアミラーなど安全や快適装備も用意され、ナルディステアリングやシフトノブなどカスタマイズも充実しており、フルチョイスすると上級スポーツモデルに匹敵する装備を盛り込むことができた(ただし、パワステはなし。フル装着すると車両価格は200万円をオーバー。シビックのSiやスカイラインなど格上のスポーツカーが買える値段になった)。