今だからこそこんなクルマが欲しい
発売当時に爆発的な人気を得たわけでもなく静かに生産終了となっていったクルマも、今にして思えば「早すぎたんだ」と思うモデルは少なくない。現在の社会情勢や交通インフラ、ライフスタイルなどを鑑みて、今こそ売り出されたら注目を集めそうな車種をピックアップしてみた。
【いすゞ・ビークロス(1997年)】
これほどクロスオーバーSUVがムーブメントになると想像もできなかった20世紀に、いすゞがリリースしたスタイリッシュなクロカン4WD「ビークロス」は、まさに早すぎた一台として思い出すモデルの最右翼。
いまでは乗用車から撤退してしまったいすゞだが、当時はすでに乗用車はクロカン4WDのラインナップしかなかった。その中でフラッグシップといえるビッグホーンのショートホイールベース用シャシーを利用して、いかにも未来的なボディを合体させたのがビークロスの成り立ち。パワートレインはV6エンジンとトルクスプリット型4WDというのは、クロカン4WD由来ではあるが、現代的なクロスオーバーSUVとしてみても十分に通用するものだ。
そのスタイリングが先進的だったのは、2020年を舞台にしたSF映画「ミッション・トゥ・マーズ」に、ほぼオープン仕様にしただけのコンセプトカーが、パイロットの愛車として登場したことからも明らか。まさに、ようやく時代がビークロスに追いついた。
【ホンダ・エレメント(2002年)】
2020年にデビューした新型モデルは、久しぶりに国産ビンテージイヤー(当たり年)といいたくなるほど豊作だったが、その中でもユニークなスタイリングで印象の残る一台が、マツダのクーペスタイルのSUV「MX-30」だろう。
2019年の東京モーターショーでお披露目されたBEV(電気自動車)仕様ではなく、MHEV(マイルドハイブリッド)のパワートレインだったのは少々残念にも思えたが、かえってパワートレインで差別化していないからこそ、クーペSUVとしてのスタイリングが際立ったともいえる。
とくに「フリースタイルドア」と名付けられた観音開きのドアはSUVの新しい提案として評価されている。とはいえ、SUVと観音開きドアの組み合わせはMX-30が初めてというわけではない。ちょっと前でいえばトヨタFJクルーザーという前例があり、さらに遡ればホンダ・エレメントという先達が存在している。
2002年に誕生したエレメントのコンセプトをわかりやすくまとめると「ミニバンとSUVのクロスオーバーモデル」。サーフボードを室内に積めるSUVを目指して独自のパッケージが考え出され、さらに使い勝手をよくするために両側Bピラーレスの大きな開口部が求められ、その結果として観音開きドアが採用されていた。
日本では3年ほどと非常に短命に終わってしまったが、これだけSUVが増え、バリエーションが求めれる現在ではあればエレメント的な価値観はもっともっと高く評価されることだろう。
【スズキ・ツイン(2003年)】
いま自動車業界は100年に一度の変革期と言われている。そのキーワードとしてよく使われるのが「CASE」という四文字で、コネクテッド・オートノマス(自動運転)、シェアリング・エレクトリック(電動化)というトレンドをまとめたものだ。その中でシェアリングについては各メーカーやサービス業者が様々な提案やチャレンジをしている。
たとえばドイツのダイムラーは、2シーターの小型モデルのスマートを使ったカーシェアリングサービスを展開していたりする。たしかに市街地での移動だけでいえば“ドライバー1人とカバンなどの手荷物が置けば十分”というケースも多くあり、スマートはシェアリング専用モデルとして発展する可能性さえ感じてしまう。
そう思うと、スズキが2003年に生み出したアンダー軽自動車サイズの2シーターモデル「ツイン」は時代を先駆けすぎていたのかもしれない。最廉価グレードで50万円を切るという設定は、まさしく大量導入するシェアリングサービスにぴったりであったし、樹脂そのままのバンパーなど補修コストを抑える設計もそうした用途にマッチする。
さらに、価格は上がってしまうがハイブリッド仕様を用意していたのも先進的だった。いまこそツインの市場ニーズは生まれている、そう思えてならない。
【スバルR1(2005年)】
スズキ・ツインに遅れること2年、2005年にSUBARUが発売したアンダー軽自動車サイズのモデル「R1」は、簡素でシンプルなスズキ・ツインとは真逆の『小さな高級車』を感じさせるクルマだった。
当時、SUBARUは独自に軽自動車を開発・生産しており、全車に4気筒エンジンを積んでいるのが特徴だった。軽規格よりも小さなクーペボディ(2+2の4人乗りだ)にも、もちろん4気筒エンジンが搭載され、上級グレードにはスーパーチャージャー仕様も設定されるなど、軽自動車トップクラスのパフォーマンスを与えられていたのも印象深い。
さらに、このモデルには市販こそされなかったが、ナンバーを付けて試験的に運用された電気自動車仕様「R1e」もあった。そのバッテリーはNECと共同開発したラミネートタイプのリチウムイオン電池で、その末裔といえるバッテリーはいまでも日産の電気自動車に採用されていることを思うと、やはり早すぎた一台だった。
【ダイハツ・ネイキッド(1999年)】
自動車メーカーは、早すぎたゆえにマーケットに受け入れらなかったコンセプトを、リベンジとばかりに再登板させることがある。ダイハツ自身は明言しているわけではないが、2020年にスマッシュヒットとなった軽クロスオーバーSUV「タフト」は、1999年に誕生した「ネイキッド」の現代版と考えておかしくない。
ネイキッドは見てのとおり、道具感にあふれた外観のレジャービークル的な軽自動車。さらにバンパーコーナーやヘッドライトがかんたんに取り外すことができて、アクセサリーパーツに交換できるというアイデアは、現行コペンにつながるアイデアであり、まさに時代を先取りしすぎたモデルといえる。
ネイキッドは全高1550mmの立体駐車場対応サイズであるので、タフトとはカテゴリーは異なるようにも思えるが、スタイリングや想定ユーザーといったのコンセプトがタフトによって復活したとするならば、その存在は無駄ではなかったといえるはずだ。