2)前面がドア! 大胆な発想に驚きの「イセッタ」
第二次世界大戦前は少数生産の高級車メーカーだったBMWは、他のメーカーと同じように、戦後の復興期に必要な小型車の生産に迫られた。そこで目をつけたのが、イタリアの「イソ」が1953年から販売を開始した「イセッタ」だった。
イセッタはバイク用の単気筒エンジンをボディの側面に搭載し、ドアを車体前部に持つという変わったクルマだった。BMWは早速イソからライセンスを手に入れ、エンジンをBMW自製の単気筒に置き換えて生産を開始。
本家イソよりもはるかに生産を行なって、一定の成功を得た。ステアリングホイールの保持はドア側で行なっていたが、複雑かつ巧みな機構によって、開閉時でも大人がちゃんと乗り降りできるほどの広い空間を確保していた。
BMWは、二人乗りで前にしかドアがない「イセッタ250」「イセッタ300」のほか、その流れを汲んだ「BMW 600」というモデルも作っていた。これは極端に小さなイセッタと、高級車しかなかった同社が、そのギャップを埋めるために開発したモデルである。
全長は3mほどあり、四人が乗れるようになっていたが、前席は前方のドア、後席は通常ヒンジのドア(ただし、右側のみ)から乗降するという、極めて変則的なドア配置だった。見るからに変わったクルマだけに、VWビートルなど「ふつうのクルマ」であるライバル車の敵にはなり得ず、販売は伸び悩んだ。
3)ドアが下部に収納される「BMW Z1」の昇降式ドア
最後は、ドアが開く…というよりも「格納される」クルマをご紹介したい。それが、1988年に登場したBMWのコンパクトなオープンカー「Z1」である。
形式的にはE30型の3シリーズに属し、パワートレーンなどパーツや機構の多くを325iから流用していたが、シャーシはバスタブ形状の専門設計で、リアサスもマルチリンクを採用するなど、独自設計も多かった。
ボディパネルは3種類の樹脂素材を使い分けて作られており、小さなドアは電動で上下方向に動いて、サイドシル内に完全に格納することができた。
ドアスイッチはキー部分を押す。エンジンがかかっていない状態でもドアの上げ下げが可能だ。しかしドアが仕舞われる関係でサイドシルは高い上に幅広く、乗降性は悪かった。
ちなみにこのZ1、日本には正規輸入がされなかったが、BMWのチューナー・アルピナが、Z1を用いて世界限定66台のみ作った「アルピナロードスター リミテッドエディション(Alpina RLE)」は、アルピナの日本総代理店ニコル・オートモビルズが正規扱いで販売していた。