クラッチ操作をしなければ前へも後ろへもクルマは動かない
今日、マニュアルシフトでの運転の機会は大幅に減っている。それでも、軽自動車には選択肢が残されている。
目に留まった車種を紹介すると、スズキのワゴンR、アルトワークス、ジムニー、そしてホンダのN-ONE、N-VAN、S660、ダイハツのコペンなどだ。登録車では、スズキのスイフト、トヨタのGRヤリス、マツダ・ロードスターなどがある。
グレードが限定されたり、スポーティな高性能車種だったり車種には制約はあるが、マニュアルシフトは運転の原点ともいえ、また操作の間違えなどで事故に至る危険も減らせられる可能性がある。ことにAT限定運転免許証のなかった時代に取得した高齢者には、マニュアル操作が体にしみこんでいるのではないだろうか。久しぶりの運転でははじめのうち失敗しても、すぐに体が思い出すはずだ。
マニュアルシフトは操作も含め間違いを起こしにくくする
マニュアルシフトのよさは、クラッチ操作に気を遣わないとエンジン停止をしかねず、そこでさっそくクルマとの対話がはじまることだ。クルマがいまどういう状況にあるかを意識しながら運転することは、操作も含め間違いを起こしにくくする。
逆に、気遣いせずに走れると、クルマの走行状況に無関心となり、故障したり事故を起こしたりしかねない。運転操作が簡単になっても、本来はクルマの様子を気遣う運転が必要なのだが、気を遣わずとも走れてしまうので、人は楽さに慣れてしまう。
マニュアルシフトは、クラッチ操作でまずクルマの様子を意識し、次に、シフト操作をしないとエンジン回転が回り切ってしまったり、力が足りなくなったり、騒音が大きくなったりすることで、否応なくクルマのことを考えざるを得なくなるのだ。
クルマの状況を意識しながら運転することにより、万一ペダルの踏み間違いなどしても、クラッチ操作をしなければ、前へも後ろへもクルマは動かないのだから、その時点で間違いに気づく。間違っていたら、クラッチを切れば大事に至らない。
そうした観点からも、マニュアルシフトの車種をある一定量存続させてもらえるといいのだが、現実的にはなかなか難しい。ことに比較的買い求めやすい軽自動車やコンパクトカーは、同じ部品を大量に製造することで原価を下げ、新車価格を抑えることが重要になるからだ。
それでも、上記の各車がマニュアルシフトを採用できた背景にあるのは、たとえば悪路走破の4輪駆動車にはマニュアルシフトの要望が強く、またスポーツカーにもマニュアルシフトであることの価値が認められ、そういう車種を持っているメーカーは、他車へも展開可能になるということだ。
そういう意味では、4輪駆動車やスポーツカーは、数多く売れる車種ではないが、必ず欲しい人は世の中にあって、それを自社の特徴と考える自動車メーカーには、マニュアルシフトが生き残ることになる。