モーター駆動のe‐POWER
これに対し、日産はEVの「リーフ」を2010年に発売した。
そしてこの駆動方式を活用したHVを考案した。それがe‐POWERだ。これは、ポルシェ博士の場合と同様に、EV技術を基に開発したので、シリーズ式である。トヨタ方式に比べ、燃費性能ではやや劣る。しかしモーター駆動であることによって、新たな価値が生み出された。それが、ワンペダル操作のe‐POWERドライブだ。
e‐POWERドライブは、アクセルペダルだけで、発進~加速~減速~停止の操作ができる。これにより、ペダル踏み替えが7割は減らせられるとされ、操作が減ることは、運転を楽にする。それだけでなく、副次的効果も期待される。それは、安全性の向上だ。
アクセルからブレーキへ、あるいはブレーキからアクセルへペダルを踏み替えているときは、何の操作も行えない状態だ。これを、空走時間という。この空走時間は、0.7秒といわれている。しかし運転者の技量や年齢などによって、実際には1秒前後かかる場合があるだろう。
1秒の間、加速も減速もできないそのとき、たとえば時速20kmでゆっくり走っていても5.5m以上進んでしまう。時速100kmなら、27.7mも前へ行ってしまう。そこで何か緊急事態が起きたとしよう。ブレーキを掛けようとしても、それだけの距離は速度が維持される。しかし、ワンペダルのモーター走行であれば、アッと思って、アクセルペダルからパッと足を離せば、回生が強く掛かる。
つまり、これまで空走していた間に、減速をはじめることができるのだ。次にブレーキペダルを踏むとしても、それまでに速度を下げはじめられれば、衝突せずにすむかもしれない。衝突したとしても、衝突速度を下げることができる。
発想は新たに生まれてくるもの
シリーズ式ハイブリッドは、モーター駆動であることによって万一の際の安全にも効果的といえる。環境技術だけでなく、安全技術にもなるのだ。
ではトヨタのシリーズ・パラレル式では、ワンペダル操作はできないのか? トヨタの技術者によれば可能だという。しかしEVをつくった経験がないので、ワンペダルの発想がないのだ。
HVはそのように、多様な潜在能力を持つ。そこに気付くためにもEVを一度つくり、売らないと、モーターを使うことの本当の価値に気づけないのである。