ホイールを外に出すことだけがツライチではない
昔からセダンのドレスアップは「シャコタン(車高短)」と「ツライチ(面一)」が基本。簡単にいえばシャコタンは車高を落とすこと。そしてツライチはホイールを外に出すことなのだが、ただ出すだけではなく、ホイールのリムとフェンダーをフラットにするのが理想。もともとツライチとは面と面を段差なく揃える建築用語から来ている。
純正のホイールはフェンダーに対して内側に引っ込んでいる。そこでホイールのリム幅(俗に言うJ数のこと。以下J数で表記)やインセットを変えることで外側に出すわけだ。するとトレッド幅が広がり、視覚的にも迫力が増す。法規でフェンダーからホイールがはみ出すのは禁止されているので、そのギリギリを突くのがツライチともいえる。今回はその作り方を紹介していきたい。
はみ出しに関する法規について補足しておくと、ホイールの中心から前側に30度~後ろ側に50度の範囲内がフェンダー内に収まっていればOK。逆にいえば、それ以外の範囲ならホイールがはみ出していてもセーフとなる。
だが、出面を合わせるだけでは不十分。前述のようにセダンは「シャコタン」でツライチが基本なのだ。しっかりとローダウンし、フェンダーとリムの距離をできるだけ接近させたツライチが良しとされる。なおかつその状態できちんと走れるかということも求められるから、セダンのツライチは奥が深い。
【ツライチと車高の関係】車高が変わればホイールの出具合も変化する
具体的なツライチの作り方の前に、車高とホイールの出具合の関係を押さえておこう。セダンは足まわりの構造上、車高を落とすとキャンバー角がネガティブ方向に倒れていく。するとホイールの出具合も変化し、たとえばノーマル車高ではツライチだったとしても、落とすと内側に入ってしまう。そうした状態を「ツラウチ」と呼び、ツライチよりもツラウチが好みというユーザーも少なくない。
ツラウチであっても、できるだけホイールを外に出した「際どいツラウチ」の方がカッコイイ。なのでツラウチでもツライチの作り方と手順は似ている。あまりギリギリではなく、あえて少し余裕を持たせる大人なシンプル派のテクニックもあるが、その辺は割愛。いずれにせよ、車高を落とすほどにホイールが内側に入っていくという点は覚えておこう。
よってその内側に入る分を考えてホイールサイズを決めなくてはならない。車高が低いほど内側に入る=外に出さないといけないから、よりリム幅を大きく、インセット値の小さいサイズが必要になる。逆にいえばリム幅を太くしたい、リムを深く取りたいなら、それだけ車高を落とさないといけない。
だがローダウンするとフェンダー内のクリアランスが減り、タイヤやホイールがインナーに干渉しやすくなる。ホイールを外側に出すとそのリスクはさらに増すし、走行中に車体が沈み込んだとき、あるいはハンドルを切ったときのことも考慮しなくてはならない。場合によっては調整式アームが必要になったりもする。落とせば落とすほど難しくなるのだ。
ほかにもサスペンションやフェンダー・インナーの形状、タイヤの引っ張り具合、ホイールの前後バランスなど。突き詰めるほどにさまざまな要素が絡み合い、とても一筋縄ではいかないのがツライチの世界。そうしたことまですべてはカバーできないが、ツライチを目指す基本手順を紹介しよう。
【ツライチのための実車計測】糸と五円玉でホイールの引っ込み具合を測れる
まずは車高が決まらなければ始まらない。いったいどれくらいローダウンするのか。好みや勢いで決めるのでなく、「自分の運転技術」「愛車の用途」「自宅まわりの道路環境」なども考慮して決めよう。
続いてその車高でフェンダーからホイールがどれくらい内側に引っ込んでいるかチェック。その引っ込んでいる分だけ外に出してやればツライチになるハズだ。古典的ながらフェンダーから糸を垂らして測定する方法がおすすめ。誰でも手軽にできて精度も高い。やり方には以下の通り。
1)30~40センチくらいの糸を用意
2)糸の先には五円玉など重りになるものを結んでおく
3)反対側の端をフェンダーにテープで貼り付ける
4)その際、垂れた糸がホイールの中心を通る位置にする
5)ホイールのリムの上部に定規やメジャーなどを当てる
6)糸と交差する位置の数値=ホイールが引っ込んでいる量となる
結果、たとえば40ミリ引っ込んでいたとする。その場合、ホイールを40ミリ外に出せばツライチになる、ということが分かる。実際にどんなホイールサイズにすべきかは次のステップにて。なおフロントとリアで引っ込み具合が少し変わるので、前後それぞれ計測すること。
【ホイールサイズを計算しよう】リム幅とインセットの組み合わせで正解を導く
それでは計測した数値を元に、ツライチになるホイールサイズを算出しよう。ホイールが外側に出すためには純正よりも、
1)リム幅(J数)を大きくする
2)インセット値を小さくする
3)スペーサー等を装着する
の3通りの方法がある。
仮に現行のクラウンRSを例に考えてみると、まず純正ホイールのサイズは18インチ×8J、インセットは+45になっている。そして理想の車高まで落としたところ、ホイールはフェンダーから40ミリ引っ込んでいたとする。
リム幅は1J=25.4ミリなので、1Jするごとに、内側に12.7ミリ、外側に12.7ミリずつ広がる計算。よって40ミリ外に出すには、少なくとも3Jアップの11Jは必要だ。これで計算上は38.1ミリ外に出る。
だがクラウンの純正フェンダーに11Jを収めるのは現実的ではない。外側に38.1ミリ出たと同時に、内側にも38.1ミリ引っ込むことになるからだ。ただでさえ車高が落ちて内側に入っている。ホイールがインナーに当たり、まともに走れなくなる。ハンドルだって切れないだろう。
そこでインセットの方を変えてみる。インセット値の単位はミリメートルで、数値が小さいほどホイールが外側に出る。+45を+5にすれば、それだけで40ミリ出せる。「こっちの方が簡単」と思うかもだが、細いホイールでインセットだけ深いというのはアンバランス。もともとワイド感や迫力を出すためにツライチを目指すのだから、リム幅は太い方がいい。
かといって11Jは難しいから、10Jで考えてみる。純正よりも2Jアップしたことで、外側に25.4ミリ出る。残る約14ミリはインセットで出すとすると、
(純正インセット:45)-(外側に出したい量:14)=31
つまり10J+31でツライチになる。ちなみに9.5Jの場合だと9.5J+24、9Jでは9J+18でツライチとなる計算。こんな風にしてリム幅とインセットを組み合わせて愛車にあったサイズを探っていくのだ。なおセダンではフロントが9Jならリアは10Jというように、リアのリム幅を0.5J~1Jほど太くするのが定番。
【実車に合わせたホイール選び】ぴったりサイズよりも数ミリのマージンを
やっとツライチにできるホイールサイズが分かったわけだが、大事なのはここから。そのぴったりツライチのホイールを現実的に履けるかどうかという問題が待ち構えている。
車種にもよるが、フェンダーには「ツメ」と呼ばれる強度を保つための折り返しがあったり、フェンダー内側に付いているライナーを固定するクリップが付いていたりする。ホイールを外に出すことで、そこに当たってしまう可能性がある。またリム幅によっては内側のクリアランスも厳しくなり、インナーリムがサスペンションやフレームに当たることもある。
それに計算上ではツライチになっても、誤差などで若干フェンダーからはみ出すリスクもあり。スペーサーを使えば外に出す方向には微調整できるが、引っ込めることはできない。
そうしたもろもろを考えると、ぴったりツライチのサイズを選ぶのではなく、マージンを設けたサイズにするのが無難だ。たとえフェンダーのツメをカットしたとしても、ハンドルが切れるようにフロントは10ミリ、リアも5ミリ以上は余裕を持たせた方がいいだろう。ツメ加工をしない場合はもう少し必要だ。
マージン分はインセット値に加えればいい。たとえば10J+31からマージンを10ミリ取るとすると、10J+41になる。これでツライチからホイールが10ミリ内側に入るはず。
じゃあツライチじゃなくなるじゃん! という指摘もあるだろうが、その通り。ツライチツライチといっても、正確にはツラウチのクルマがほとんど。車高をしっかり落とし、なおかつリムとフェンダーをピタリと揃えた仕様はそうそう作れない。
【ツライチを作りやすいホイールは?】欲しいサイズのホイールが必ずあるとは限らない
ツライチになるサイズは分かった。マージンを考慮したサイズも分かった。じゃあそのサイズのホイールを買おう! となっても、欲しいモデルにそのサイズがあるかはまた別問題。特に1ピースホイールはサイズバリエーションがそれほど多くない。セダン向けなら19インチ×8J+45、20インチ×8.5J+38といったような「純正+αくらいのサイズ」はあっても、19インチ×9J+35、20インチ×10J+30といった「攻めたサイズ」はほとんどないのだ。
そういうサイズが欲しい場合は、2ピースを選ぶといい。たとえばホイールメーカーワークの「グノーシス」「リザルタード」「シュヴァート」といったブランドの2ピースモデルは、リム幅のバリエーションが豊富だし、インセットもミリ単位でオーダーできる。一般的な1ピースよりも高価ながら、ツライチを作るのには向いている。
3ピースもラインナップは豊富ながら、価格がかなり高価になるのと、インセットも2ピースほど細かくは選べないことが多い。より上級者向けだが、「高級ホイール」としてのプレミアム感では3ピースが一番。懐具合と相談して決めよう。
また1ピースでもモデルによっては攻めたサイズがあったりする。たとえばレイズの「ボルクレーシング」シリーズでは、20インチ×10J+35といったサイズをラインナップするモデルもある。インセットは限定されるのでドンピシャで合わせるのは難しいが、もし履きこなせればアピール度は高いだろう。
もしくはスペーサーを使う。20インチ×9J+35が欲しいけど、設定のあるサイズは20インチ×9J+38しかない、という場合は、3ミリのスペーサーを装着すれば+35相当の出具合になる。
スペーサーは1ミリ、3ミリ、5ミリ、8ミリ……というようにバリエーションがあるが、厚みが増すごとにハブボルトにホイールナットが噛み込む量が減り、緩みやすくなる等のリスクが出てくる。使わずに済むなら使わないにこしたことはない。できるだけリム幅とインセットで出具合を決めよう。
【タイヤ選びも重要項目】引っ張りタイヤはメリットもあるがやりすぎ注意
タイヤサイズも重要だ。車高を落としてツラを攻めてもフェンダーに当たらないようにするには、タイヤの外径がなるべく小さい方が都合がいい。またタイヤのショルダー部分も、角張っているより滑らかに寝ている方が当たりにくい。
だからツライチにこだわるユーザーは、「引っ張りタイヤ」にしていることが多い。これはホイールのリム幅に対して、タイヤ幅が狭く、扁平率の低いタイヤを履かせること。簡単にいえば太いホイールに細いタイヤを組み付けることだ。タイヤがホイールに引っ張られる感じになることからそう呼ばれる。
たとえば20インチリム幅9Jのホイールの場合、一般的には255/40R20や265/45R20といったタイヤが標準サイズになる。それを225/30R20や235/30R20にして引っ張るのだ。
結果、タイヤ外径がやや小さくなるし、ショルダーもなで肩のように寝る(銘柄によって寝やすいものや寝にくいタイプもある)。低く落としてホイールを外に出しても干渉しにくい。255/40R20ならハンドルは1周も切れなかったけど、225/30R20にしたら全開切りできるようになった、ということもある。
もちろんデメリットもあり。引っ張りすぎるとバーストしやすくなったり、「セパレーション」といってタイヤ側面内部の素材が剥がれる現象が起こりやすくなる。リムからタイヤが外れてエアが漏れる「ビード落ち」というトラブルも起こしかねない。それらを防ぐには空気圧を高めにしないといけないため、グリップが低下し、乗り心地も固くなる傾向。機能面では基本ネガティブな方向に傾きがちだ。
またリムが露出するから縁石などでキズを作りやすい。タイヤ外径が小さすぎると、メーター誤差が保安基準の範囲外になって車検に通らないこともある。といった感じで引っ張りすぎには要注意。そのあたりはショップとよく相談することを勧めたい。
【フェンダー加工とアーム交換】より過激なツラを目指すのに必要なモノ
前述の通り、リアルにフェンダーとリムが揃ったツライチを実現するのは難しい。しかしカスタムカー雑誌などでは、そうしたピタピタのツライチも紹介されている。彼らは一体どうやっているのだろうか。最後に上級者向けの技も紹介したい。
まずはフェンダー加工。例の「ツメ」のカットしたり折ったりして処理。インナーも切ったり叩いたりしてクリアランスを広げていることも多い。フェンダー自体を叩き出したり、純正のフェンダーをざっくり切り落とし、オーバーフェンダーに作り替えていることもある。この場合は履きたいホイールに合わせてフェンダーの出幅を決めるので、純正フェンダーよりもツライチを作りやすい。
「アーチ上げ」という技もある。一定以上車高を落とすとフェンダーがホイールに被ってしまい、強制的にツラウチになるが、その被った分だけフェンダーアーチを切り上げてしまうのだ。すると極低車高でもフェンダーがホイールに被らないツライチを作れる。オバフェン製作時に切り上げることもあれば、フェンダーは出さずに切り上げだけやることもある。
アーム交換も上級者の定番のメニュー。特にキャンバー角をネガティブ方向に倒すために、アッパーアームを調整式に換えているケースは初心者~中級者でもわりと多い。セダンの足まわりはたいていダブルウィッシュボーン式で、車高を落とせば自然とキャンバー角は付く。しかしそこまで大きくは付かないし調整もできない。調整式のアッパーアームなら、「あと1度キャンバーを倒して少しはみ出したホイールをツライチにしよう」といったことも可能になる。
またトヨタ系の車種では、車高を下げていくとフロントアッパーアームがインナーに当たる。それを解消するために、ナックルアームをショート化するのとアッパーアーム交換をセットで行う例も多い。
アッパーやナックルだけでなく、ロアアーム、トーコンアーム、テンションアームといったアーム類をすべて調整式に交換するツワモノもいる。車高をベタベタに落とし、キャンバーを大きく倒しても、こうしたフルアーム仕様ならアライメント調整が効く。エアサスで全下げ時にピタピタのツライチ、走行時に車高を上げてもアライメントは大きく変化せず、きちんと真っ直ぐ走れるといったセッティングも夢ではない。
といってもアームの取り付けや調整には専門的なノウハウが不可欠。さらにアーム自体の品質が何よりも重要になる。安易に調整式アームに交換すれば誰でも理想のツライチを作れるわけではないので、そこはくれぐれもご注意を。