そもそもが走るクルマではない。だからこそやればやるほど速くなる
10~15年以上前からジワジワとそのベースが築き上げられてきた軽トラカスタマイズ。そう、昨日・今日からいきなり大勢が始めたワケではないが、自動車メーカーの取り組み(アクティブ層やオシャレ層への訴求)や、昨今のアウトドアブームを背景にした「軽トラキャンパー」推しや「シャコアゲ」人気の後押しもあって、ここ数年で一気に市民権を得たのは間違いなさそうだ。
中でも今回はチューニングついて触れていくワケだが、その詳細について今回アドバイスをしてくれたのが、その道の第一人者と呼ばれている「GTカープロデュース」の高原代表。実はテレビのニュース番組でコメントを求められるほどの有名人。というワケで、いま注目を集める軽トラチューニングとはいったいどんなものなのか、さっそく見て行こう。
いきなり本質だが、軽トラは何をやっても激変する!!
「軽トラックチューニングの面白いところは、元々スポーツするために作られていませんから、何をやっても激変するところだと思います。で、やってみると、リア駆動のKP61やAE86に乗ってるような感覚を思い出して、とてもエキサイティングなんですよ」。
スターレットやレビン・トレノに例えるのは、高原さん世代ならではの「あるある」だが、いまとなっては1300ccや“テンロク”といったモデルのマニュアルミッションのFRがないので、その楽しさたるや、いまの“チューンド軽トラ”にあるということなのかもしれない。
さておき、荷物を運ぶことを使命として生を受けた軽トラは、耐荷重には優れているがグリップ力があるとは言えないタイヤ、乗り降りは便利でもまったくホールドしないシート、どこを見ても“走り”に振った要素は見当たらない。探すほうが野暮ってもの。
ゆえに、普通のスポーティタイヤに履き替えるだけでも激変するし、フルバケットシートを入れようものなら、レーシングカーにでもなったぐらいのグレードアップ気分を味わえる。という事で、具体的に最速軽トラを目指すためにやっておきたいチューニングポイント4つを挙げてみた。
【軽トラチューンその1】バケットシート
軽トラチューンを始めるにあたり、何から手をつけていくか? 順番はともかく、スポーツドライビングを楽しむなら、ココをどうにかしないとまともには運転できない。前出の高原さんも「まずは、バケットシートの交換でしょうね」という。
スポーツカーに純正装備されているのが、ホールド性の高いシート。コーナリングではカラダに横Gが加わり、大きく左右に振れてしまう。カラダをシートに預けて、ラクな姿勢で運転するのはとても大事なことだ。
いっぽう軽トラックの純正シートを見たことがあるという人は、すぐに納得できるハナシだろう。軽トラの純正シートにはそのホールド感は「ゼロ」。まったく備わっていない。まっ平らなクッションが座面と背中にペロっと敷いてあるだけ。農道をゆっくりと荷物を積んで走るなら、何の問題もないのだが……。
いまでは軽トラにフルバケを入れるのもあたり前のようになってきて、例えばレカロ、ブリッド、スパルコなどのスポーツシートがボルトオンで装着できる軽トラ用シートレールも出ているという。
【軽トラチューンその2】足まわり
トレッド幅145ミリの12インチLTタイヤというのがハイゼットやキャリイの純正タイヤサイズ。足まわりをスポーティに仕上げる過程は、普通のクルマとアプローチ自体は同じだが、純正と比べればどんなスポーティタイヤだって絶大なグリップ力を手に入れることが可能だ。
LT(ライトトラック)タイヤというのは、荷物を積んだときの荷重に対して耐えられる硬さ&強さが確保されていて、それに合わせて高い耐久性も兼ね備えているのが特徴。グリップ重視のスポーティタイヤとは完全とまでは言わないが、性格はそれぞれ逆の方向を向いている。
そうなると、そのグリップ力を最大限に引き出す、サスペンションが必要になってくるのは当然である。GTカープロデュースでもショップアブソーバーやスプリング(リアはリーフ)、ロールを抑えるスタビライザーキットを作ったところ、キャリイやハイゼットには純正でフロント&リアともにスタビライザーがつかないので、これも激変パーツとして人気が高いという。
【軽トラチューンその3】ボディ補強
「いくつかの補強バーも有効ですが、荷台に取り付ける4点式のロールバーは、思っていたよりもかなり効果的です」。
確かに軽トラはそもそもが荷台部分は下のフレームが支えているのみで、上側は何もないというのが実情。実際追加すると直進安定性が増し、運転時のストレスが軽減されるのだという。見た目も随分とレーシーになるし、万が一の横転にも効く。ロールバーによるボディ補強で激変するのも疑う余地はない。
これがボディ&荷台の歪みを抑え、ドライバビリティの向上に大きく貢献するというワケだ。4点式ロールバーは、サーキットでもストリートでも(積載性の問題は出てくるが)良いこと尽くめなのだ。
【軽トラチューンその4】ボルトオンターボ
その昔はターボモデルもあった軽トラだが、いまではキャリイもハイゼットもNAエンジンのみというラインナップ。「パワーがない」というストレスは何ごとにも代えがたい。
そこで同社が辿り着いたのが、キャリイとハイゼットにボルトオンで装着できるターボキット(※16キャリイはスーパーチャージャーキット)。ちなみに63キャリイの場合、最高出力は純正カタログ値約50馬力から何と約70馬力へと大幅にパワーアップ。さすがにこれまでの3つに比べると敷居が上がるし、キット自体も決して安くはないが、最速を目指す軽トラ乗りにとってはパワーが激変するのは何物にも代えがたい。
世界最速をかけた軽トラレースもある
今回は【激変】というキーワードで、軽トラチューニングを追ってみたが、GTカープロデュースでは、チューニングパーツの販売や取付サービスの提供のみみならず、『Kトラワールドシリーズ』という、軽トラックのモータースポーツイベントを開催していることもよく知られている。
今年の大会についてはまだ詳細が発表されていないが、2020年シーズンでは、全4戦が組まれ、そのうち3戦がサーキットトライアル、1戦がスプリントレース形式となり、各ラウンドの獲得ポイントの合計でシリーズを争うイベントになっている。
ワールドと名前がつけられているのは、地球全体を見ても軽トラックが普通に走っているのは事実上ニッポンのみで、ココで優勝すれば「世界一」を名乗れるというワケ。
ちなみにこの選手権で「世界一」になったクルマがどれだけ速いのか? それを表現する指標のひとつに“パワーウエイトレシオ”という算出基準がある。選手権「世界一」の軽トラ最速マシンは車重650kgに対して出力が110ps。
【取材協力】
GT CARプロデュース
http://www.gt-produce.com/