「犬目線」のクルマ購入ガイドなら「暑さ・さみしさ」対策と「乗降性」がカギ
愛犬家のみなさんの中には、クルマ好きの人も多いと思う。実際、公共交通機関をほぼつかえない犬と暮らすとなれば、ドライブをするにしても動物病院に連れていくのにも、移動にクルマは不可欠となる。
そこで「犬目線」でクルマ選びをすると、どんなクルマが「ドッグフレンドリーカー」として最適なのか? わが家の3代目、自称自動車評論犬(!?)のジャックラッセルのララの意見も参考にしつつ、モータージャーナリストにして「ドッグライフプロデューサー」という肩書を持つボクが、ワンコが乗るのに快適なクルマの条件と、ドッグフレンドリーカーとしてふさわしい車種をセレクトしたみたい。
「リア席乗車」前提でワンコが喜ぶ「環境」や「装備」とは
まず、小型犬・中型犬・大型犬を問わず、乗車位置は後席が基本ということを肝に銘じてほしい。犬が家族の一員であるとすれば、ラゲッジルームに人間の子ども、特に言葉が喋れない幼児を乗せられますか? ということと同じで、快適空間である後席がマストなのである(どうしてもラゲッジルームに乗せざるを得ない場合については後述)。
また助手席もNG。場合によっては道路交通法違反になる可能性もあり、さらに運転の支障になりかねないだけでなく、万一の際、エアバッグの展開によってダメージを被ることさえあるため、とにかく危険(どうしても助手席に乗せなければならない場合の解決法についても後述)。
愛犬を後席に乗せる、という前提に立てば、乗降のしやすさや乗車場所の快適さなど、クルマの基本的な「快適度」がポイントとなる。その快適度を犬中心に考えてみると、車内のどこかにつかまれない犬にとっては、フラットで前後左右の姿勢変化が少なく、段差などの乗り越え時などでもマイルドな乗り心地を示してくれることが第一だ。つまり、それは車酔いしにくいクルマとも言える。
乗降性に関しては、小型犬を抱いたまま乗せる、もしくは中・大型犬を自身で乗り降りさせる、そのどちらの場合でも、リアドアの開口部は広いほうがいいに決まっているし、犬が自身で乗り降りするケースでは、リヤドアのステップとフロアに段差がない「掃き出しフロア」だと、足を引っかけてケガをするようなこともなく安心である(どうしても犬をラゲッジルームに乗せざるを得ない場合のワゴン、SUVなどのラゲッジルーム開口部も同様)。
次に、犬は聴覚に優れているため、走行中の車内は静かであればあるほど犬に優しい。エンジンノイズ、ロードノイズ、風切り音、さらには雨の日の水しぶき音、ルーフを叩く音などが小さいといい。ただし、これはなにも高級車が絶対というわけではないのでご安心を。今では軽自動車やコンパクトカーにも用意された、マイルドハイブリッドを含む電動車が有利であることは間違いないだろう。
犬は1年じゅう毛皮を着ていて、多くの愛玩犬は暑さが苦手。夏に車内で熱中症になり、命を落とすこともあるほど。そこで車内の空調にこだわってあげるのが、飼い主の役目。コンパクトカー以上の室内空間が広いクルマであれば、リアエアコン、あるいは後席エアコン吹き出し口が不可欠と言っていい。ただし、リアエアコンや後席エアコン吹き出し口のないコンパクトカーであっても、前後席の空調温度を均一化しやすい「リアサーキュレーター」付きのクルマであれば安心だろう。
そのほか、後席への直射日光をやわらげ、車内温度の上昇を抑えてくれるだけでなく、犬が嫌がる車外からの干渉を防ぐリヤサイドウインドウの「ロールサンシェード」も、ドッグフレンドリー装備のひとつと言っていい。
「ドッグフレンドリー」な軽自動車&コンパクトカーはどれ?
これら犬にやさしい「ドッグフレンドリーポイント」の多くを持つクルマは、決して高級車や高額車だけではない。例えば軽自動車であれば「スーパーハイト軽」がそれにあたる。
コンパクトカーも同様に両側スライドドア車がお薦め。というのも、犬がリアドアから後席部分に自身で飛び乗ったり降りたりする場合、一般的なヒンジ式ドアやスイング式ドアだと、斜めにジャンプすることになりがち。犬は真っすぐにジャンプするのは得意でも、斜めにジャンプするのは苦手なケースが多い。軽自動車のように、ほぼ直角までリアドアが開くクルマもあるにはあるが、駐車スペースの状況によっては、リヤドアを全開にすることが難しいから、やはり横にクルマが停まっているような駐車スペースでも、より犬を安全快適に乗り降りさせやすいのは、スライドドアということになる。
そんな視点でコンパクトカーの中から1台を選ぶとすれば、ダントツでスズキ・ソリオがいい。というのが、先日愛犬のジャックラッセルの「ララ」を新型ソリオの後席に乗せ、約350キロものドライブ旅行を経験してきたのだ。
乗り心地の良さ、コンパクトハイトワゴンらしからぬ前後左右の姿勢変化の少なさ、リアスライドドアのごく低いステップ、そこから段差のない掃き出しフロアの広さ、上級車の前席に匹敵するリアシートの約500mmという、たっぷりとした座面長と比較的平板な座面形状によって、ララは(飼い主も)悠々快適にドライブを楽しめたハズである。純正アクセサリーにある、ペットを後席に乗せるのにぴったりな、後席用「シートクリーンカバー」の装着で、シートの汚れを気にせずに乗車できた点もうれしいポイントとなる。
こうしたワゴンタイプの軽自動車のメリットとしては、後席使用時のラゲッジルームは狭いものの、後席を片側、または両側を倒すことで、天井の高い広大なフラットスペースを出現させられること。大型犬、多頭の乗車、大型クレートの設置も可能となるだろう。
ちなみに「うちのワンコはさびしがりやだから、どうしても助手席の乗せたい」……というなら、チワワのような超小型犬限定にはなるが、ホンダ純正アクセサリーの「ホンダドッグシリーズ」にある、助手席でも使え、エアバッグの展開を回避できる形状の「ペットシートプラスわん」を用意するといいだろう。飛び出し防止リードも付いて、安心である。
両側スライドドアや後席エアコン吹き出し口を備えているという点では、多くのコンパクトミニバン、ボックス型ミニバンもドッグフレンドリー。スライドドア開口部のステップが低い、掃き出しフロアのミニバンを選べば、シートアレンジ性の豊富さによっても、愛犬を乗せやすい車内環境をつくることができる。5人乗車でも、空調の行き届いた3列目席に乗せられるメリットもある。
ステーションワゴンやSUVで選ぶならどこを見るべき?
が、「いやいや、愛犬を乗せてドライブするなら、ステーションワゴンやSUVが理想!!」と考えている愛犬家も多いはず。メリットとしては、後席に人が乗車しても愛犬をラゲッジルームに乗せられるからだ。セダンやクーペ、後席使用時にラゲッジルームの奥行が極端に狭くなる軽自動車では、そうはいかない。
ただしステーションワゴンやSUVを選ぶ際、ぜひ頭に入れておいて欲しいポイントが3つある。まずは後席が「4:2:4分割」であること。後席に飼い主、ラゲッジルームに愛犬の状況でも、4:2:4分割の中央「2」の部分をアームレストとして倒すことで、キャビンとラゲッジルームに空間ができ、飼い主と愛犬のアイコンタクトが可能になり、お互い安心してドライブを楽しめるため。
ただし後席4:2:4分割のステーションワゴンは少なく、ほとんどが6:4分割。その上で国産ステーションワゴンで探すと、レガシイの血統を受け継ぐ、新型レヴォーグが最有力候補。走り好きの愛犬家にもぴったりのスポーティワゴンでありながら、乗り心地に優れ(とくにSTIスポーツ)、素晴らしく静かで、なおかつ新型は後席エアコン吹き出し口が新装備され、後席4:2:4分割を継承しているのだから、完璧である。
輸入ステーションワゴン・SUVであれば、ボルボがなかなかのドッグフレンドリーだ。60シリーズ以上には後席エアコン吹き出し口が、センターコンソール後端だけでなく左右Bピラーにもあり(PHV除く)、他社にはなかなかない、大型犬にも対応する純正ドッグアクセサリーが豊富に揃っているからだ。
個人的には、「ボルボV60クロスカントリー」のマイルドハイブリッド仕様が気に入っている。静かで快適無比な走行性能に加え、後席とラゲッジフロアが他のSUV系より低く、後席エアコン吹き出し口が充実。なおかつ、AWDかつ最低地上高に余裕があり、走破性に優れ、路面や天候に左右されず、愛犬とのドライブを安心・安全に楽しめるからである。間もなく、かつてないペットの快適性、安全性、そして後席の防汚性、本体の清掃性の良さを誇る、ボルボ純正の後席用ドッグベッドのフルサイズ、ハーフサイズも発売されるから(筆者プロデュース)、こちらも楽しみである。
最後に、絶対「アカン」愛犬の乗車方法は、道路交通法違反になるドライバーの膝の上はもちろん、なんの拘束装置も付けない助手席、軽トラやピックアップトラックの荷室などだ。クルマが衝突、転倒したとすれば、愛犬がどうなるか……考えただけでも、恐ろしい。