エンジン出力を高める圧縮空気の酸素供給
ガソリン車やディーゼル車など、レシプロ(内燃機関)エンジンのパワーなどを高めることで知られる過給機としては、ターボチャージャーが有名だが、もうひとつスーパーチャージャーという機構もある。
現在は搭載されるクルマは激減してしまったが、それでもターボチャージャーにはないメリットもあり、最近ではマツダのCX-3やCX-30に搭載されているSKYACTIV-Xに採用されている。
そんなスーパーチャージャーとは、実際どんなものでどんなメリットがあるのか、搭載した過去の名車たちを紹介しながら解説していこう。
発進時から燃焼効率がダイレクトにアップ
まずは仕組みを簡単に説明しよう。スーパーチャージャーは、エンジンのシリンダー内に圧縮した空気を送り込むことで、燃料を燃えやすくし、より多くのパワーやトルクを引き出す。いわゆる「過給機」と呼ばれるもので、その意味ではターボチャージャーと同じだ。
違う点は、ターボチャージャーは排出ガスのエネルギーによりタービン(羽根)を回し、その動力でコンプレッサー(圧縮機)を動かし空気を圧縮する。対するスーパーチャージャーは、エンジンのクランクシャフトと連結されたコンプレッサーにより空気を圧縮し、加給する方式が一般的だ(機械式スーパーチャージャーという)。
ターボチャージャーは、パワーロスがないのがメリットだが、一方で、低回転からアクセルを踏むと、ターボの効果が現れるまでに一定の時間が掛かる、いわゆる「ターボラグ」というものがある。
対するスーパーチャージャーには、パワーロスこそあるが、クランクシャフトと連結し常に回転しているため、加給がエンジン始動時と同時にできるという特徴がある。エンジンがあまり得意としない低回転域で、大きなトルクを発生することができるのがメリットだ。
レースや映画で活躍したスーパーチャージャー
スーパーチャージャーは、元々は第2次世界大戦以前に戦闘機などで使われていたが、クルマでもかつてレーシングマシンや量産車で数多く採用された。
例えば、1960年代や1970年代にアメリカで一世を風靡したいわゆる「マッスルカー」。これらをベースに作られたドラッグレース用マシンには、ボンネットから突き出た大型のスーパーチャージャーが搭載されていた。
直線コースで停止状態から発進し、ゴールまでの時間を競うドラッグレースでは、スタートダッシュが極めて重要で、低回転からトルクが出るスーパーチャージャーの特性がマッチしていたのだろう。また、当時のアメ車は、大排気量のV8エンジンを搭載するモデルが多かったが、Vバンク間にスーパーチャージャーを配置することで、作業性がいいなどの利点もあった。
なお、こういったボンネットからスーパーチャージャーが突き出たスタイルのアメ車は、ハリウッドのカーアクション映画「ワイルドスピード」第一作(2001年公開)で、主人公ドミニクがラストシーンに乗る1969年式ダッジ・チャージャーが有名だ。
また、1979年に公開されたオーストラリアのバイオレンス映画「マッドマックス」でも、主人公のマックスが乗るブラック・インターセプター(ベース車はフォード・ファルコンXB GT)にも、巨大なスーパーチャージャーが搭載されていた。これらマシンは、当時のクルマと映画が大好きな男子たちの憬れだった。映画は、いずれもDVDや配信サービスなどで今でも観ることができるので、観たことがない人で興味があれば、ぜひ一度ご覧になることをお薦めする。
ほかにも、スーパーチャージャーを搭載したマシンがレースで活躍し有名になった例には、WRC(世界ラリー選手権)で1985年シーズン末から投入されたランチア・デルタS4がある。
ミッドシップ・4WDを採用したこのマシンには、スーパーチャージャーとターボチャージャーという2タイプの過給機を搭載。低回転域でスーパーチャージャー、高回転域ではターボチャージャーを使い過給することで、全域のパワーやトルクの向上を図ったのだ。
そのポテンシャルの高さは当時かなり注目されたが、不幸な死亡事故などがあったこともあり、1985年の最終戦と1896年シーズンで、通算成績は13戦中6勝に留まっている。