フル4シーターGTとして人気を博したエスパーダ
世界の名作プロトタイプを紹介するこのシリーズ。フェラーリ・ディーノ206GTの2モデルに引き続き3回目となる今回は、ランボルギーニのエスパーダを紹介します。1963年のトリノショーに350GTVを出展し、自動車メーカーとして名乗りを挙げたランボルギーニですが、処女作となった350GTVに続いて66年には第2弾となるミウラをリリース。さらに第3弾として68年に登場したモデルがエスパーダ。フル4座のGTとして人気を博しました。
68年に登場した初期モデルは「S(シリーズ)l」と呼ばれ、70年にブラッセルショーでデビューした中期モデルと72年に投入された後期モデルは、それぞれ「S ll」「S lll」と呼ばれています。「S l」から「S ll」への移行では、エクステリアの変更点は最小でしたがインテリアではダッシュボードが一新されていました。メカニズム的にはエンジンが、圧縮比を高めて350馬力となり、それに対応するかのようにブレーキもベンチレーテッドタイプに格上げされています。
「S ll」から「S lll」へはパワーステアリングの装着と、オートマチックトランスミッションを選べるようになったことが大きな変化でした。ちなみに、S lll」のモデルライフは72年から78年までとされていますが、75年から78年にかけて大型バンパーを装着した北米仕様が設定され、それをS lV」とする説もあるようです。
フル4座で使い勝手の良いスーパーカー
トラクターの製作販売で財を築いたフェルッチオ・ランボルギーニが、エンツォ・フェラーリに対抗心を燃やして立ち上げたクルマ・メーカーがランボルギーニ・アウトモビーリ。両社の(両者の)対立は、ある意味都市伝説のように、広まっていきました。
それはともかく処女作の350GTVは、まだフェラーリがロードカーでは採用していなかったツインカムV12を実現していましたし、その350GTVから350GT・400GTを経てリリースされたミウラはミッドシップの後輪駆動という、まだフェラーリ(のロードカー)では実現されていなかった駆動レイアウトを採用していました。
続くエスパーダもフル4座のグランツーリスモ、というフェラーリでは実現されていなかったコンセプトで登場することになりました。その辺りも、フェルッチオのエンツォに対する敵愾心の表れ、と仮定するなら両社の(両者の)対立も単なる都市伝説ではなく興味深い人間模様となるのですが……。
それはともかくエスパーダです。350GTVから発展した400GTや、一足先にデビューしたミウラと同じ4LのツインカムV12エンジンをフロントに搭載して、後輪を駆動する基本レイアウトは400GTにも似ていましたが、400GTが「2+2」なのに対してエスパーダは「フル4座」。そのシーティングスペースを稼ぐために、400GTの後継モデルであるイスレロに対してホイールベースを100mm引き伸ばしていました。
またランボルギーニとして初のモノコックボディを採用していましたが、サスペンションなど、一部のコンポーネントはイスレロ用に手を加えて使用されていました。全高をフル4座としては驚異的、2+2クーペの400GTやイスレロに比べて85mmも低い1185mmに抑えたシルエットはベルトーネのチーフデザイナーを務めていたマルチェロ・ガンディーニのデザインでした。
プロトタイプはガルウイングドアを採用していた
市販モデルの紹介はこのくらいにして、プロトタイプについて話を進めていきましょう。エスパーダは1967年のジュネーブショーにおいて、ランボルギーニのブースにコンセプトカーとして参考出品されていたマルツァルがベースとされています。
当時フェルッチオは「(マルツァルは)全くのコンセプトモデル」としていましたが、六角形をモチーフとしたガラス張りのガルウィングドアこそコンサバなフロントヒンジの2ドアに置き換えられていたものの、4人の大人がゆったりと座れるフル4座のキャビンと、それを包み込むボディのシルエットは、見事なまでに市販モデルへと踏襲されています。ちなみにマルツァルはジュネーブショーで初披露されたのち、ベルトーネの博物館に収められ、何度か一般に公開されています。
このマルツァル自体に出会うことはなかったのですが、数年前にイタリアに赴き、フェルッチオ・ランボルギーニ博物館(Ferruccio Lamborghini Museum)を取材した際にエスパーダ・プロトタイプと展示パネルに示されたオレンジの1台に出会ったのです。
また、展示フロアの別の一角にはローリングシャシー(モノコックフレームなので、こう表現するのが正しいかは自信がないのですが…)が展示されていました。フロントミッドシップと呼んでいいところまで後退させてマウントした全長の長い60度V12ツインカム・エンジンや、コイル/スプリング・ユニットをアウトボードにマウントしたコンサバティブなダブルウィッシュボーン式前後サスペンション、ガーリング製の4輪ベンチレーテッド・ディスクブレーキなど、クルマ好き、とりわけメカニズムに興味のあるムキにとっては興味深いものがあります。
ところで、掲載した写真はサンターガタにある本社に併設されたランボルギーニ博物館(The Lamborghini Museum)と、そこから20km程離れたフェルッチオ・ランボルギーニ博物館(Ferruccio Lamborghini Museum)、2つのランボルギーニ博物館で撮影したものです。企業博物館と創業者の個人博物館という訳ですが、創設から早い時期のプロトタイプの多くが創業者の個人博物館にあり、企業博物館には市販モデルを中心に収蔵展示されている、と好対照を見せていたことがとても印象に残っています。