コンマ1秒を削るプロのためのアイテム
自動車関連のワードでトランスミッションと聞いて思い浮かべるのは、オートマ(AT)かマニュアル(MT)、といったくらいだろうか? オートマといっても、そこにはトルコン式やDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)といった種類があることくらいはわかる人も多いだろう。
しかしチューニングカーの世界ではドグミッションというものも存在する。一般的ではない聞きなれないものだが、モータースポーツ車両では戦闘力を増強してくれる貴重なシステムだ。今回はドグミッションについて解説をしていこう。
ミッション強度を向上させるために交換をする
MT車でミッションの“乗せ換え”や“交換“をするというと、どういうことを想像するだろうか? ミッションが壊れたのか? もしくはATからMTへ変更するといった載せ替えを思い浮かべることが多いだろう。だが、チューニングの一環としてミッションの載せ替えは、ノーマルのミッションとは違った駆動伝達を備えたミッションに交換するというもの。車高調を組むとかいったポピュラーなカスタムとは大きく異なるので、あまり聞いたことがないかもしれない。
この“乗せ換え”や“交換“をする目的は、当然ながらミッション機能を強化するというのがまずひとつだろう。強化ミッションとは、ギヤの素材そのものが違っていたり、ギヤ自体にWPC(金属表面処理の一種)やクロモリショットといったフリクションを減らす表面加工を行って、その名の通りギヤ自体を強化していたりしたもの。ミッションの強度的な問題をクリアしているものに交換するというわけだ。
ギア比を変えることでエンジンの「おいしい領域」を駆動力として伝える
もう一つはギヤ比の変更。ギヤ比? と思うかもしれないが、市販車として採用されている車両のギヤ比は、モータースポーツで使えるほど万能とは言えない。フル乗車かつ荷物満載状態での坂道発進まで考えたローギヤから、高速道路等での燃費までも考慮したハイギヤを設定し、その中間部分をカバーするように振り分けて設定されたのが、市販車のギヤ比である。
これを、サーキットでのタイムを削るために走り込むとなると、その走るステージによって、ギヤチョイスが合うか合わないかという点が出てくる。さらに、そのステージに合わせて不要な部分はカットして、各ギヤの差を狭めることで、エンジンの「おいしい領域」を十分に駆動力として伝え使い切りたいため、コース全体でのタイムアップに合わせてゆくギヤ比をチョイスして交換、という話になる。それがクロスミッションと言われるもの。
クロスミッションにすると、ギヤの間隔が狭まるため、シフトアップ時の回転数の落ち込みも当然減って、よりエンジン出力の美味しい部分だけを使えるようになる。走るステージによってロークロスミッション、ハイクロスミッションというチョイスにもなる。
ドグミッションはクラッチ不要で変速も可能
そして、今回ここで紹介するのは、ドグミッションである。ドグミッションは、そもそもの構造から違っている。いわゆる街乗りのクルマに搭載しているMTといえば、シンクロメッシュのミッションを指す。シンクロメッシュというのは各ギヤの回転数を合わせて変速をしやすくしてくれるもの。
変速という操作は皆さんご存知の通り、アクセルを戻し、クラッチを切って、シフト操作をして、再びクラッチをつなぎ、アクセルを踏むという操作になる。この変速時にシンクロナイザースリープが押されてシンクロナイザーリングと噛み合って変速が完了する。ギヤの回転を同調させて変速している関係上、一旦エンジンの動力を遮断して変速するのだ。同調させるシステムなので、どの回転域でも変速ができるのだ。
シンクロミッションと違ってクラッチを切らずにシフトアップ&ダウンが可能だ。バイクのミッションはシンクロ機構を持っていないので、ドグ同様にクラッチを切らなくてもギヤのアップダウンができるのと同じだ。
もちろん、マイナス面を挙げれば、シフトショックが大きかったり音が大きかったりする。そのショックを減らす乗り方としては回転数を合わせるためにダブルクラッチ操作をして調節するということもあるが、イコール街乗りではやはり扱いづらい、ということになってしまう。
ドグミッションは、ミッション自体が高価で、さらに定期的なメンテナンスが必要であるため、いわゆる一般的なチューニングとしてのチョイスはあまりないだろう。ただ、コンペティティブな世界では、このミッションは交換する価値のあるもの、なのだ。