期待のミッドシップ対抗モデルは700馬力だったが…
そこでアウディは、グループBをより先鋭化させたグループS車両を開発するプロジェクトを立ち上げました。プロトタイプとしてアウディ・クワトロをベースにエンジンをボディ後半部に載せた“ミッド・エンジン・クワトロ”も施策されていましたが、本命として完成したモデルがスポーツ・クワトロRS002でした。
その風貌は、ラリーカーというよりもコンパクトなレーシングマシンに似たもので、リアの巨大なウィングが目立っていました。コクピットの後部に、アウディの得意としてきた直列5気筒エンジンを縦置きに搭載、パワーを前後に配分して4輪を駆動するというレイアウトとなっていました。
ターボ・チューンを施されたエンジンは700馬力を絞り出しており、約1tの車両重量に対しては十分なパフォーマンスが期待されていました。ただし、グループSのプロジェクトの前提となっていたグループBでのアクシデントが続出したことでグループBとグループSは、カテゴリーそのものが姿を消すことになり、この究極のラリーマシンが実戦で鎬を削ることは敵わなくなってしまいました。
もちろん安全は尊重されるべきですが、この究極のマシンが戦う様を見たかった、というファンも少なくなかったと思われます。ちなみに、僅かに1台のみが製作されたRS002は、インゴルシュタットのアウディ本社に併設されたAudi Museum Mobile(アウディ自動車博物館)に収蔵され、企画展などで展示されているようですが、何度か訪れた際には展示されてなく、出会いは果たせていません。