42年間の一般整備費は?
さて、1978年式300Dの気になる整備費用はいくらぐらいなのだろうか。八木サンがその都度、一般整備を依頼されているヤナセ茨木支店サービス記録では、42年間の一般整備総費用として約876万円となっている。もちろん燃料費やヤナセ茨木支店以外で実施されたメンテナンス費用を除いており、またその他の費用は不明で定かではない。
八木サン同席のもと最初にこの金額を聞いた時はかなりの一般整備費用だと思ったが、維持してきた期間に対する一般整備費用(ヤナセ茨木支店のみ)を計算してみると、1ヶ月あたり約1万7380円となる。意外と一般整備費用はかかっていないことに改めて納得した次第だ。
八木サン曰く「普通の消耗部品は別にして、今まで大きな修理といえばエアコンのコンプレッサーを2回交換した程度」とのこと。また、サービス記録ではブレーキキャリパーのオーバーホールとブレーキマスターシリンダーの交換も実施されていた。特に記録を見てみると、一般的な整備、エンジンオイル&フィルター交換は半年に1度は実施され、夏前にはエアコンのチェック・ガス補充などで入庫点検。冬前にはタイヤや足まわりなどの必要なチェックで入庫点検と、なるほど、自分で如何にこまめにチェックして乗られ、事前の予防整備をされていることがよく解る。特筆は八木サン曰く「これまでエンジンもミッションも交換もせず今日まで乗り続けている」とのこと。メルセデス・ベンツのディーゼルエンジンの耐久性の高さを再認識した次第である。
修理しながら乗り続けられるメルセデス・ベンツ
ところで「ヤングクラシック・メルセデス・ベンツ」と呼ばれるようなクルマでも、年数を経つとトラブルが発生してもおかしくない。主な原因は日本とドイツの環境(温度)の差である。日本は気温や湿度が高い気候の影響はもちろんだが、それよりもエンジンルーム内のこもる熱の問題が大きいと言える。日本の慢性的な渋滞や信号に何度も止められること、いわゆる「ストップ&ゴー」の繰り返しなどで、エンジンルーム内の排熱が追い付かない。そして、この熱の影響は短期間では症状が出にくい。エンジンルーム内で熱に弱いのは、ゴムを使ったパーツ。ゴムパーツはもともと消耗品だが、これが熱にさらされるとライフライクルが短くなり、日本の使用環境では長期間耐えられず、そこがウィークポントだ。問題は「危険なのはいつか?」という点である。
国産車なら10万kmがひとつの目安で、それまでは大きな故障はなくても10万kmの大台を超えると“あちこち壊れはじめる可能性がある”というのが一般的な認識だろう。一方、ヤングクラシックメルセデス・ベンツでは10万kmどころか5万kmも走行すれば、いろんな消耗部品が限界を超えてしまうと言われている。しかし、これをきちんと交換してやれば、さすがに新車並とまでは言えないがメルセデス・ベンツの上質なドライブフィールを維持することが可能だ。それがメルセデス・ベンツたる所以である。
余裕を持って壊れる前に交換できるならベストだし、危険が近い事を知っておけば、いざというときに解決策を見つけやすい。ヤングメルセデス・ベンツといえども機械であり、原因を知り、適切な処置をすれば、何度でも蘇る。それこそが、堅牢で安全なボディを持つヤングクラシック・メルセデス・ベンツの美徳であると言える。
【あとがき】
1978年の車両購入時、八木さんはヤナセ担当者より「メルセデス・ベンツのディーゼルは一生ものですよ」と言われたという。今回の取材にあたり、ヤナセ茨木支店サービス工場に来場された際「事実そのとおりになってきたね」と、笑顔で語っていただいたのがとても印象的でした。ご多忙中にもかかわらず快く取材に応じて頂き、しかも貴重なお話をして頂いた八木唯良さまに心よりお礼申し上げます。