W123シリーズ(1975〜1985年)とは
1976年1月、スリムで軽快なスタイルのコンパクトシリーズの2代目、W123型が登場した。セダンに続き1977年にはクーペ、ステーションワゴンがラインナップ(日本では240D/300D/300TD、230、280E/CEが導入)。Sクラス/W116のコンポーネンツを受け継いで設計されたのが、このW123シリーズだ。
ガラリと変わったスタイルは比較的若い層を狙ったもの。ラジエーターグリルをいっそう横広にし、スマートになったスタイルは、後に多くのデザイン賞を一手にさらった。ヘッドライトは、4気筒、5気筒モデルが丸型4灯式、6気筒モデルは横広の角型。省資源時代の先駆者として特に注目度が高かった240D、300Dは、優れた経済性を誇る5人乗りディーゼルセダンだ。
その独自の予燃焼室式ディーゼルエンジンは低燃費、静粛性、始動性においても優れた成果を得ている。もちろん、メルセデス・ベンツの基本理念「安全を考え、走る機能を考え、バランスのとれた車体設計」は不変。4気筒の240D(65HP)に新しいディーゼルイメージをもたらした5気筒の300D(80HP)は、卓越したコンポーネンツで仕上られたハイレベルな一台だ。
300Dディーゼルエンジンの技術的特徴
◆メルセデス・ベンツ独自の予燃焼室(ボールピン付き)
当時のメルセデス・ベンツ乗用車ディーゼルエンジンは独自の予燃焼室方式を採用。他のディーゼルエンジン乗用車の大部分は過流室式エンジンであり、そちらのほうが燃費は若干良いが、スムーズな走行、始動性やノイズレベルに関してはメルセデス・ベンツの方が優れている。加えてエンジンノイズを減少し、スムーズな回転に役立っているのは予燃焼室に備えられた特許のボールピン。このボールピンは高価で耐熱性の高いニモニック(Nimonic=ニッケル・モリブデン合金)で造られているので、アイドリング時のディーゼルノックを防ぎ、スムースな回転に役立つ。
◆モリブデン加工のピストンリング
モリブデンは高価だが、ピストンリングのコーティング用材料に最適。その理由は硬質で耐久性と耐熱性(シリンダー内の燃焼温度は約2000℃)があり、多孔質表面なのでオイルの持続性が良いためエンジンの寿命が長く、オイル消費が少なくて済む。
◆ピストンリングキャリア
高い燃焼温度や圧力によってアッパー・ピストンリング溝に多量の熱や機械的応力がかかる。このことが、アルミニュームピストンのリング溝を膨張させるため、燃焼ガスが吹き抜け、エンジンオイルおよび燃料消費の増加に結びつき、出力低下の原因となる。従ってメルセデス・ベンツディーゼルエンジンには、高品質の合金の鉄材料で造られるリングキャリアが装着されている。その結果、長く使用した後でも、エンジンのパワーロスがほとんどなく、またオイル消費が少なくて済む。
◆ロートキャップ
ロートキャップは、バルブのストローク毎にバルブを少しずつ回転させる機構。これによってバルブシートとバルブディスクの焼き付きを防止し、バルブの長寿命を実現。メンテナンス頻度も少なくしている。
◆バイシャフトバルブ
バルブシートは耐熱性の高いNimonicで造られている。これによってバルブディスクに穴が空いたり、焼き付きが発生するのを防止。長いサービスライフだけでなく、バルブのシーリング効果を常に保持する。
◆ソジウム入りエキゾーストバルブ
バルブシートにかかる高い熱応力を減少するため、エキゾーストバルブにソジウムが封入されている。ソジウムは作動温度で液体になり、バルブディスクからクーラーステムに熱を急速に移動させ分配する。
◆30°バルブシートアングル
バルブにかかる熱や応力はバルブシートアングルを小さく、即ち45°の代わりに30°にすることで減少させることができる。このアングルによりバルブディスクとバルブシート間の接触面積が大きくなり、熱伝導が改良され、閉じたバルブの力は大きな範囲に分配できる。
◆特殊なインジェクションノズル
燃焼及びエンジン回転をスムーズにするために、メルセデス・ベンツディーゼルエンジンには特殊なインジェクションノズルが取り付けられている。ごく少量の細かい霧状の燃料が噴射できるように最初ほんのわずかだけノズルが開く。続いてノズルが完全に開き、主噴射が行われる。このため、燃焼室の圧力は徐々に上昇し、完全燃焼するので、エンジンは大変スムーズに回転する。
◆オイルクーラー
高温負荷時でのエンジン・オイルの性能を防止するため、ラジエーターの脇に取り付けられているオイルクーラーを通って空冷される。この結果、エンジン部品の摩耗を少なくし、エンジンに冷却力を増し、エンジンライフを長くする。
◆クーリングシステム
サーモスタットは冷却水のインレット側に取り付けられている。サーモスタットがこの位置にあるため、サーモスタットが開いた時に生じる温度変化はほとんどなく、一定の割合で温度は上昇し、ウォーミング・アップ中は閉じている。その上、通常の作動温度にまだ達していない時は、特にエンジンの冷却はゆっくり行なわれる。このため短距離走行でも温度が一定になる理由であり、強いてはエンジン耐久性を高めることにもなる。
◆エンジン・サスペンション
3つのエンジンマウントに加え、1本の小さなショックアブソーバーがエンジンから車室への振動を減らすために、ボディとフロントエンジンマウント間に取り付けられている。従って振動はガソリン車並みで、走り出してしまえばほとんど違いがわからないほどである。
【1978年式300D】主要諸元
□全長/全幅/全高:4725/1785/1440mm
□ホイールベース:2795mm
□最小回転半径:5.6m
□車両重量:1505kg
□エンジン:SHOC 5気筒ディーゼル
□排気量:2998cc
□最大出力:80HP/4000rpm
□最大トルク:17.5mkp/2400rpm
□使用燃料:軽油
□燃料タンク容量:65L