「全会一致」が原則の集合住宅 新たなインフラを作る難しさがある
脱ガソリン車が叫ばれている昨今ですが、ここ日本では海外に比べると思うように普及が進んでいない。その要因として補助金やインフラ、走行距離問題など色々と指摘されているものの、専門家によると中でも集合住宅独特の事情に問題があるという。その内情とは何か。そこを解説して貰った。
集合住宅ならではの「総意」の獲得
日本は2009年に三菱i-MiEVが、翌2010年には日産・リーフが相次いで発売された。にも関わらず、それから10年が経ったいまでは、電気自動車(EV)の普及が欧米や中国に比べ遅れているのが現状だ。
国や地域で行うEV導入へ向けた規制が、海外では罰則付きであるのに対し、国内は減税や補助金だけで罰則がないためだという意見がある。世界に先駆け量産市販されてきたハイブリッド車(HV)が普及し、車種も充実しているためだとの声もある。また、相変わらず充電の社会基盤(インフラストラクチャー)や、一充電走行距離が足りないといったことを言う人もいる。
それらの課題が解決済みであるとまではいわないが、もっと重大な問題が日本にはある。それは、マンションなど集合住宅の「管理組合問題」だ。
集合住宅では管理費を毎月集め、それを使って外装の改修や、エレベーターなど住民が供用する施設の管理・補修などを行っている。それらを管理し、実行するのが、住民代表の理事による管理組合だ。その決議は、多くの場合が全員一致など過半数より大勢の賛同によるとの規約が設けられている。
集合住宅の駐車場も、管理組合の管轄であり、住民がEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)の購入を希望し、専用で借りている駐車枠に普通充電用の200V(ボルト)のコンセントを設置したいと思えば、この管理組合の承認を得なければならない。
ところがほとんどの場合、管理組合の承諾を得ることができず、EVやPHEVの購入を断念する状態が10年も続いているのである。
充電できない→購入候補にならないという「負のスパイラル」
管理組合による否決の理由は、必ずしも合理的な内容ではない。たとえば「住民すべてに関わることではない」とか「工事のために騒音や不便が生じるのではないか」さらには「自分には関係ないことでありほかの議題を優先すべき」などとの事例を聞く。しかし、理事は住民の代表であり、一人でも住民がEVを買いたいとの意思を示したら、それを無視することは暮らしの自由を阻害することにもつながる。
いずれにしても、論理的でない感情的な理由によって、一人でも反対者が出ると管理組合の承諾が得られない事例があまりにも多く、マンションなど集合住宅に住む人がEVやPHEVを購入できない事態が、解決の糸口さえ見えずにいるのだ。
改めていうまでもないが、EV充電の基本は、自宅で寝ている間に済ませることだ。ガソリンスタンドのように急速充電することではない。急速充電ばかり繰り返せば、バッテリーの劣化も進む。夜寝ている間に充電すれば、電力消費が減る夜間の使用量を増やし、電力供給の平準化が進む。それは、電力会社の負担を減らすことにもなる。
なおかつ自宅で充電できることを拡張していけば、集合住宅の場合も含め、自宅へEVから電力を供給することも可能になる。たった1台のEVで集合住宅全ての電気を賄うことはできないまでも、たとえば災害時、停電が起きると個人認証機能を持つマンションでも、玄関ドアが開きっぱなしになる。停電したことで、住民が避難できなくなったり、帰宅できなくなったりすることを防ぐためだ。しかし玄関ドアが開きっぱなしになれば、誰もが自由に出入りできるようになり、防犯効果はなくなる。
EVが1台でもあり、そこから電力を供給できれば、少なくとも玄関ドアを閉じたまま防犯機能は守られる。たとえ日常的にすべての住民に役立つことではないとしても、一人のEV購買意欲を満たすコンセント設置を認めれば、万一の際には、住民すべてに恩恵が得られ、ひてはマンション価値を将来的に高く保持する材料の一つとなる可能性もある。
コンセント設置費用は販売店などが持つなどの支援が行われる例もあり、またEV購入者が自ら費用を支払うと申し出ても、管理組合が頑として承認しない状況が続いている。脱炭素の社会的な動きに反する姿だ。EVは、ガソリン車と異なり、駐車しているときにも役立つクルマだ。そこを管理組合の人のみならず、より多くの消費者に理解してもらうことも、脱炭素社会の実現へ向け不可欠である。
※文中に登場するマンションの写真はイメージです