令和の国産スポーツカーバブルをけん引する超人気車両
1990年代に登場した国産スポーツカーの人気が急上昇し、マーケットで高額取引されているのはクルマ好きならばご存知のことだろう。その筆頭が1999年〜2002年まで販売された34(サンヨン)GT-Rこと直列6気筒エンジンを搭載する最後の「BNR34型スカイラインGT-R」だ。その中古車相場の異常高騰が止まらない理由について探ってみたい。
3000万円強の個体が複数台流通する異常相場
中古車情報サイトでBNR34スカイラインGT-Rを検索すると、1000万円以下の個体はほぼマーケットから消え、初期型の“走行距離不明”、“修復歴あり”というひと昔前なら敬遠された個体でも新車価格(ベースグレードで約500万円)を大きく超える1000万円強。1000台限定で発売された最終限定車の「V-spec II Nur(Vスペックツー・ニュル)」や「M-spec Nur(Mスペック・ニュル)」に至ってはイタリア系スーパーカーを新車で買える3000万円オーバーの車両も流通。しかも1台ではなく複数台存在するいまの状況は、平成バブル期以上の盛り上がりといえる。
生産終了から19年以上が経過するヤングタイマーで、これほどまで高騰した車両は過去に例を見なない。これによって歴代GT-Rの中古車ランキングも変動している。これまでは生産台数197台のケンメリGT-R(KPGC110型/4000万円以上)、元祖GT-RことハコスカGT-Rの2ドアハードトップ(KPGC10型/2000万円以上)が不動の上位1、2だったが、この数年の盛り上がりでBNR34があっさりケンメリとハコスカの間に割り込むこととなった。では、なぜBNR34のマーケットが異常なまでに活性しているのだろうか?
2011〜2013年なら初期型が150万円以下で落札できた
BNR34の中古車相場の上昇は限定車のニュルを核に、過去にも起こったことがある。それは生産中止となった2002年からR35GT-Rが登場する2007年ごろまでだ。理由はもちろん新車でGT-Rが購入できなくなったためで、程度の良い中古車を求めるオーナー予備軍が増えたから。それでも、もっとも高かったニュルでも1000万円には届かず、新車価格の約5倍となった現在と比べればその上昇率は可愛いものである。
そして、R35の登場とともに価格は徐々に下落し、2011年〜2013年が底値。当時は1999年式の初期型標準車ならば店頭で250万円以下、オークションならば150万円以下であり、一番人気のニュルでも400万円前半から手に入った。この時期に購入したオーナーがもっとも良い買い物をしたといえよう。
再び上昇を始めたのは2014年。主な原因はアメリカの通称「25年ルール」だ。これは製造から25年以上が経過したクルマはクラシックカー扱いとなり、アメリカの保安基準である「FMVSS」の適用外となるもの。クラッシュテストや排ガスのテストなどはなく、そのまま輸入車登録が可能となるのだ。その規定に1989年生まれの第2世代GT-Rの長兄であるBNR32が適合したことで日本のドメスティックスポーツカーに注目が集まり、海外バイヤーの買い付けが殺到。BNR32の相場が急上昇した。
さらなる相場上昇のキッカケとなった2018年の出来事
それに引っ張られるように歴代GT-Rの中古車価格もうなぎ上りに。BNR34のニュルで程度が良く、走行距離の少ない個体は2014年に1000万円を軽く超え、2016年には1500万円超、2018年には2000万円超とアップ。平均すると年間250万円という日本車としては異常な上がり幅を見せたのだ。
そして、現在の異常相場のきっかけを作ったと言われるのが、2018年1月の東京オートサロン内で開催された「BHオークション」。“未登録・走行10km”という奇跡のVスペックIIニュルが3200万円という価格で落札されたことにより、今後相場が上がることを懸念した国内を含む世界各国のオーナーが日本のBNR34に群がり、価格をさらに大きく引き上げることとなったのだ。
そして2020年。新型コロナウィルス蔓延予防対策として発令された最初の緊急事態宣言時はやや相場を下げたが、宣言解除後は反発するかのように急角度で跳ね上がり、ついには業者オークションで3000万円を超える価格で落札される個体が出始めるなど、もはや天井知らずの勢い。2度目の緊急事態宣言下では下落の兆しはまったく見えず、どこまで上がるのか予想がつかない状態となっている。
また現在はニュルだけでなく、「ミッドナイトパープルII/III」の限定車も人気。ニュルほどではないが、程度次第で軽く2000万円超のプライスになることは間違いない。希少車を手に入れたい思いは万国共通で、この傾向はBNR32やBCNR33も同じである。
相場上昇の原因は25年ルール以外にあり?
さて本題。例のBHオークションは別としてBNR34の相場がなぜ高騰したのかというと、一部の地域を除き国外輸出がなかったドメスティックなスポーツカーであったことが大きな理由だ。そして前述したアメリカの25年ルール。BNR34は3年後の2024年から正式に輸出できるので、バイヤーたちがいまからストックに励んでいる可能性は高い。
次に海外コレクターの購入だ。特に右ハンドルの国であるイギリス、オーストラリア、ニュージーランドでは人気が高い。イギリスは1999年に100台限定で正規輸出されており、オーストラリアではBNR32がグループレースにも参戦するなどGT-Rに対してなじみは深いが、その存在を広く一般に知らしめたのはソニーのゲーム機「プレイステーション」と、アメリカのカーアクション映画「ワイルドスピード」。そしてインターネットの普及もあり、BNR34の情報は瞬く間に拡散されたのだ。ちなみに、これらの国にはGT-Rのオーナーズクラブも存在。日本のマーケット同様に熱狂的なファンに支持されている。
イギリスはお金持ちのコレクターが中心だが、オーストラリアは数年前まで一般人も多かった。それはオーストラリアは日本よりも平均時給が約2倍高い(物価も2〜3倍高い)からで、単純計算だが日本で1000万円のGT-Rはオーストラリア人にとっては500万円程度の価値となり、頑張れば買える感覚。そのため、オーストラリアへの輸出がさかんに行なわれていた時期もあった。
奪い合いはもはや世界レベルに発展
アジア圏で特にGT-Rの人気があるは香港(中東エリアも熱いが…)。毎年マカオで開催される「ギアレース」には日本のスポーツモデルが数多く参戦。一昨年までは日本のチューナーである長野の「ATTKDオーテック」が香港チームとタッグを組んでBNR34を走らせるなど、GT-Rに対する認知は高い。
その香港のクルマ好き裕福層が昨年春から日本のスポーツカーを買い漁っているようだ。それはどうやら現在の香港問題が影響しているようで、民主の弾圧が進む中、コレクターたちは「中国化が推し進められると、本土のように自国産業保護のため、中古車の輸入が制限されるのではないか」という懸念を持っている。そのため「買えなくなる前に買っておこう」という動きが加速し、BNR34も複数台が香港に流れているという噂だ。
つまりBNR34の人気はいまやアメリカだけでなく、欧州、豪州、そしてアジア圏など世界規模で広がりをみせている。こうなれば、まさにタマの取り合い。金に糸目をつけない買い付け合戦はリーマンショック級の世界経済破壊でも起きない限り、その勢いは衰えることはなく、特に海外で人気の高い限定車については日本からの流出を避けることはできないだろう。
BNR34の価値が認められ、異常相場となっていることはある意味喜ばしいことではある。ただ、冷静に吟味してそこまでの金額を払う価値があるかといわれれば、素晴らしいクルマではあることは間違いないが、コンディションを考えると少し疑問符がつく。さらに購入者のほとんどが投機目的もしくは海外のコレクターのようで、本当に走って楽しみたい人の手にほぼ行き渡っていないのは悲しい限りだ。現在所有しているオーナーは、日本の至宝といえるBNR34を大切に乗り続けてほしい。