あえてサビを放置する旧車乗り そこにはワケがあった
近年は空前の旧車ブーム。日本国内に止まらず、世界規模で取り合いとなっており、軒並み価格は上昇。すでに手が届かないほど高値になっている日本のクラッシック・スポーツも数多くある。それにともなって、加熱しているのがレストア。簡単にいえばクルマの初期化で、ボディだけでなく、エンジン、駆動系などを含めてリフレッシュしたフルレストアが一般的に一番エライとされている。ただ、旧車乗りのなかには「レストアはしないほうがいい」と異論を唱えるたちもいる。それはなぜなのだろうか?
フルレストア以上に価値がある極上の「未再生原型車」 この存在がオリジナル派の生命線⁉
まず「なぜレストアしなくてはならないか」を考えるとその理由が見えてくる。
大前提としてレストアをするのは、クルマに何らかの不具合を抱えているからだ。例えばボディなら錆による腐食や凹み、機関であれば油脂類の漏れや機関の不具合など、年数経過による劣化はどのクルマも避けられない。見るに耐えられなかったり、そもそも動かなくなってしまったら元も子もないので、修理・リペアをして健康な状態に戻してやろうとなる。
逆にいえば、ボディの劣化が最小限で美しく、エンジンも元気に走るのであればレストアの必要はない。「数十年経過したクルマでそのような個体があるのか」と聞かれれば、「ある」と断言できる。丁寧に扱われ、保存環境も良く、無理はさせることなくしっかりメンテナンスされ、極上な状態で生きながらえた未再生原型車(フルオリジナル車)は珍重され、マーケットでもフルレストア車以上に価値あるとされている。 旧車愛好家のなかでレストアしないオリジナル派が存在するのは、この価値の部分が大きいと思う。
塗料やペイント方法が当時と異なるため、オリジナルの風合いや味が失われる
また、環境基準対応のため、当時の塗料が手に入らない(質が違う)ので、全塗装しても当時の色は出ない。また、塗り方も旧車と現行車では異なるため、今の基準で塗るとキレイにはなるものの、風合いや雰囲気などが失われてしまう可能性が高いも嫌われる理由だ。
加えて、全塗装すると窓枠のゴム類、グリル、バンパー、レンズなどの劣化が目立つようになり、この部分にも手を入れたくなるのは人間の性。ただ、オリジナルを磨いて、リペアできればまだいいが、経年劣化したパーツを取り外すことで壊れることも十分ありうる。
「じゃあ、新品を」といってもヒストリックカーは純正部品の供給が終わっている場合がほとんど。人気車種ならリペア品が用意されている(コストの関係で純正部品とまったく同じ形状でない場合もある)が、レア車の場合は販売数が見込めず、作られることも稀なためどうしようもできない(板金塗装ショップが旧車のレストアを嫌がるのはこうした理由もある)。
オリジナル派は「だったら、多少錆が出ていても、凹んでいても手を加えないほうがいい」と考えるのもどこか理解できる。限度はあるが、塗装がやれて、凹みがあっても手入れが行き届いたクルマは味があり、カッコよく見える。そうした部分に価値を見いだす人がいるというわけだ。
作業内容が可視化されていない&ユーザーの認識も不足している板金塗装の世界にも問題が……
あとは、全塗装がエンジンのオーバーホールのように可視化されていない不安もある。ひと口に全塗装といってもピンキリで、10万円もあれば100万円もある。どのような材料を使い、どのような工程を経て完成するのかが、あまりオープンにされていない。これはユーザーの認識不足も原因のひとつで、高いものも安いものも塗装はひとくくりに考えている人も多いのではないだろうか。
ちなみに、雑誌でたまに見かける「剥離すると耐久性や質が落ちる」や「切り貼りして鉄板に火を入れるともろくなる」という記事。確かにそのとおりではあるが、手間暇かけられたものについてはハッキリ言って気にするレベルではない。板金塗装ショップがよほど手を抜いていない限り、レストアして数年レベルで錆が出ることはなく(保管状況にもよる)、火を入れたからといってボディ剛性が落ちたと感じることはありえないだろう。
自己満足の世界であるからオーナーがやりたいようにやるでいいのだが、クルマはパネルとパネルが合わさっているので動かせば擦れるし、いずれそこから錆も出る。レストアしたから永遠に錆びない状態が続くわけではないから、あまり神経質になりすぎない方がいい。展示車、保管車なら別だが、キレイにして乗れなるなるのは本末転倒な気がする。