EVなら加減速の操作がシンプル
試乗をしてみると、ハンドル内側のリングを押して加速する操作は間もなく慣れた。ハンドルを回す操作は、少しずつハンドルをずらすように回す“送りハンドル”がコツだという。そうするとリングを押したまま速度を維持して曲がることができる。
減速はシフトレバーの横にある追加のレバーを奥へ押す。これは、ブレーキペダルを踏む操作に通じた操作方法だ。ここでEVであることが活きてくる。じつは必ずしもレバーでブレーキ操作を行なわなくても、回生の効きを強めに設定しておけば、ハンドルのリングをゆっくり戻していくと適度な減速が得られるのである。いわゆる足でのワンペダル操作を手で行なうようなものだ。
足でのワンペダル操作には、ペダル踏み替えという運転操作を一つ減らす効果がある。同じようにSEDVでハンドルのリングを押したり戻したりする回生を活かした加減速操作は、レバーによるブレーキ操作の頻度を減らすことにつながる。
クルマの前進と後退の切り替えは、ブレーキレバーを奥いっぱいまで押し込み、そこでロックしてクルマが動かないようにしてから、通常のシフトレバーを利用して操作する。まだ開発段階であるためか、そのブレーキレバーを固定するロックがやや確実性に欠けた。しかしそこは発売までには改良されるだろう。
横浜研究所構内の道での試乗は、無事に終えることができた。時速30kmほどまでの速度ではすぐにコツを呑み込めた。ただし、ほかのクルマも走る公道や、加減速やハンドル操作の機会が増える都市高速などでは、もっと練習を積んで熟練する必要があるだろう。
観音開きならではの乗降性
車椅子からの乗り降りについては、MX-30が観音開き式にドアを開閉できることは、乗車後の車椅子の積み込みを含め、より容易にさせると感じた。
通常のヒンジドア車両であれば、乗車後に運転席の背もたれをリクライニングさせ、たたんだ車椅子を持ち上げて、腹の上を通過させながら助手席などへ置くことになる。MX-30なら後ろのドアを開ければセンターピラー(支柱)がないので、畳んだ車椅子を後席足元へ積み込むことが可能。前後のドアが半自動(部分的な自動)で開閉できる仕組みとなっていることもポイントだ。
今回あわせて紹介された車椅子はマツダが開発したカーボンファイバー製の超軽量のもので、価格は未公開だがかなり高価だという。通常一般に使われる車椅子は重く、一人で乗せるのは難しいかもしれない。
福祉車両の未来を照らす一台
いずれにしてもEVであったり観音開きドアであったりするMX-30 EV MODELの特徴を活かせば、福祉車両としての価値を拡張できることをSEDVは教えてくれた。またこのクルマは健常者が普段どおりペダル操作で運転することも可能で、車椅子の人と運転を交代しながら遠出することもできる。
これまでの「健常者のためのクルマ」から「万人のためのクルマへ」という発展性において、EVであることが非常に大きな価値であることを改めて確認することができた。
最後に一言、セルフ・エンパワーメント・ドライビング(自分で運転することを可能にする)・ヴィークルとは意味が分かりにくく、言いにくく、忘れやすい。仮に「SEDV」と言っても、日本では通じないだろう。発売へ向け、簡単に言い表す呼称を考えることも、こうしたクルマの価値や意義を広める大切な要素だと思う。