エンジン・シャシー性能もさらなる独自進化
デルタS4の後継として、そのグループSに向けて開発されていたのが、後にECV(Experimental Composite Vehicle)としてお披露目されることになるクルマでした。ミッドシップ4WDをグループBのデルタS4で実現していたランチアにとって、さらに新たなパッケージングは見当たらず、結果的にデルタS4を、より進化させたクルマとして仕上げられていました。その特徴は2つあって、トリフラックス(Triflix)と呼ばれるエンジンと、カーボンコンポジット(カーボンとケブラーの複合素材)で成形されたシャシーでした。
トリフラックスと命名されたエンジンは1759㏄直4の16バルブ・ツインカムで、タイムラグを抑える小型化したツインターボとし、バルブ配置が最大の特徴でした。気筒当たり4バルブと言えば、2本のインテークバルブと2本のエキゾーストバルブが、それぞれ両側に並ぶのが一般的ですが、このトリフラックスでは2本のインテークバルブと2本のエキゾーストバルブが、それぞれ対角線上で向き合っていました。
そしてエキゾーストはシリンダーヘッドの左右に振り分けられ、インテークはシリンダーヘッドの真上から、2本のカムの間を抜けて燃焼室へとたどり着くレイアウトとなっていました。4本のバルブをこう配置することにより、通常の配置ではインテーク側とエキゾースト側で熱に偏りがあるのは避けられなかったのですが、それを平均化させることで熱害が随分緩和されたと伝えられています。
残念ながら、ランチアECVは実際に競技に出場するチャンスはありませんでしたが、それでもそのままお蔵入りさせるのではなく、1988年にはシャシーやエンジンを流用しながらボディ(カウルワーク)に手を入れて、空力的な処理をさらに追究したECVⅡに発展させています。手許には詳しい資料はありませんが、こちらもデルタS4と同様、オール・イタリアによる開発。声を掛けたであろうランチアの影響力、統率力は流石です。
よりデルタS4に近いルックスを持ったオリジナルのECVにはいまだに出会う機会が持てないでいるのですが、発展モデルのECVⅡには2013年の冬にイタリアを訪れた際、国立自動車博物館で開催されていたマルティニ・レーシングの45周年記念の企画展で出逢いました。コンパクトな白いボディに不釣り合いなくらいに大袈裟なリアウィングと、洒落たマルティニ・ストライプは、今も鮮明に記憶に残っています。