アップルやソニーによる参入の流れはどんな未来を示しているのか
AppleによるEV参入の検討やソニーのEV試作車お披露目など、電機メーカーによるEV参入が話題となる昨今。未だに自動車を買う=内燃機関車、せめてハイブリッドというのが国内ユーザーの大半だが、今後の市場拡大に伴い高齢者はもちろん自動車ユーザーにとって、EVはどのような世界を開いてくれるのか。専門家に見解を聞いてみた。
EVは「生活インフラ化」したスマートフォンのようになる?
アップルがEVに参入するとの情報が少し前に賑わった。が、その実態はまったく見えていない。どのような車種で参入するかといった具体像もない。
遡ること2015年にはグーグルが自動運転の試作車を公開し、これも話題となった。その後、自動運転という言い方を定義づけする動きがあり、英国のウェイモは自律運転とう言い方へ変えている。日産も、当初から自律運転の言葉に通じる「オートノマス」という言い方で、初代リーフでの自動運転へ向けた開発を続けている。
iPhoneに代表されるスマートフォンは、もはや電話という通信機器の域を飛び越え、情報収集や映像の楽しみなどにとどまらず、金銭の授受を行う貨幣機能を持ち、さらには自宅の家電製品の操作や、防犯機能などまで、生活全般を管理運用する担い手として、暮らしを見守るようになった。したがって昨今の自然災害の甚大化などにより停電が起こり、スマートフォンへの充電ができなくなると、暮らしが停滞しかねない。
つまり暮らしの中心にいるのがスマートフォンであり、その機器を提供しているのがアップルだ。そのアップルがEVに参入するとしたら、もはやクルマという概念を超えた新たな価値の創造を生み出すことになるはずだ。
トヨタは、自動車メーカーではなくモビリティカンパニーへ転身をはかるとして、情報通信など他業種との提携を結び「CASE(コミュニケーション・オートノマス・シェア・エレクトリック)」に積極的に取り組もうとしている。それでも、それらは「移動体」という概念からは拡張していない。あくまで、個人の移動手段としての変化への対処だ。
その結果、EVへの取り組みより先に、燃料電池車(FCV)に積極的であるし、EVにおいても超小型モビリティでの国内導入を優先した。
しかしEVはもはや移動体であるだけでなく、国のエネルギー運用や管理にまで関わる価値を創造する存在だ。要は、CASEのようにクルマとしての環境適合や共同利用の発想だけでは済まない存在となっているのである。iPhoneと同じように、暮らしを左右する存在になっていこうとしていることを、アップルEVは象徴している。
HVでもFCVでもなくEVであるべき理由
EVは製造する際に二酸化炭素(CO2)排出量が多いとか、走行においても火力発電の依存が高ければ、燃費のよいガソリン車やハイブリッド車(HV)でも遜色がないなどという声があるが、それを飛び越えた存在であり、価値となろうとしているのである。また10~20年もたてば、電源構成は大きく脱炭素へ近づいていく。
EVを自宅や目的地で普通充電し、同時に電力を自宅や施設へ供給することを、災害時だけでなく日常的に行い、それを一台のEVだけでなく何台ものEVを総動員し地域で管理することにより、地域や国全体のエネルギー需給の管理にひと役買い、発電所や再生可能エネルギーの運用をより効率的にし、無駄な設備をなくしていくことにつながる。それがEVの本質的価値だ。
それによって余った土地は農業などに有効活用し、一次産業の法人化やAIによる管理などを採り入れることにより、食料自給率を現在の38%から100%に極力近づくことを目指し、国民が安心して食事をとり暮らせる社会環境づくりの礎にもなるのだ。
ところがHVやFCVは、災害時にEVと同じように電力供給できるといっても、それは臨時の話であって、日常的なエネルギー管理や運用には使えない。HVはガソリンスタンドで給油しなければならず、FCVもガソリンスタンドと同じ発想の水素ステーションで充填しなければ使い物にならないからだ。
アップルEVの衝撃は、それが実現するかしないかではなく、EVという存在がもはやクルマであることを飛び越え、iPhoneと同じように暮らしを左右する存在になることを示唆する。それであるから衝撃的に報じられるのだ。
箱庭のような街づくりをしてCASEの自動運転や共同利用を摸索しても、そこに本当の未来はない。自動運転にしても米国カリフォルニア州では、米国や中国の企業が日本のメーカーの100倍以上の距離を実際の道路で検証しているのだ。スマートフォンの会社がクルマなど作れないといった発想で見ていたら、未来を見誤ることになり、自らの将来を失う第一歩になるだろう。