命に関わる事故にも直結しかねない恐怖の現象
自動車学校で間違いなく習うものなので言葉は知っているものの、どんな症状か忘れた人も多いベーパーロック現象。ブレーキペダルを踏んでもフワフワになって止まらなくなる原因や、起こさないための走り方とチューニングについて紹介しよう。サーキットでの激しい走行に限った話ではなく、一般道でも十分起こり得る現象なので今一度しっかり覚えておいてほしい。
ベーパーロックはなぜ起きる?
まずは言葉の意味を改めて。ベーパーロックは英語で「Vaper Lock」と書き、Vaperは蒸気でLockは固めるや身動きが取れないことを指す。よく紙の「ペーパー(Paper)」と勘違いしている人がいるけど、それでは意味が通じなくなるので注意しよう。
一般道であれば峠道や長い下り坂など、フットブレーキを多用したせいでブレーキフルードが熱で沸騰し、気泡が発生しペダルを踏んだときの圧力が吸収されてしまい、制動力が激しく低下する症状をこのように呼んでいる。ペダルを踏んだ瞬間に感じるフワフワした手応えと、踏んでも踏んでもスピードが下がらない恐怖感は、どんなドライバーにとっても絶望でしかないはずだ。
同じブレーキ関連のトラブルでいえば「フェード現象」と混同しやすいが、そちらはブレーキパッドが摩擦によって高熱となり、その際に発生したガスがパッドとローターの間に挟まり、効きが落ちるので症状は似ていても要因はまるで異なる。
ベーパーロック現象が発生しやすいシチュエーションは、誰もが想像するとおり断続的にフットブレーキを使う長い下り坂。またサーキットも街乗りよりはるかに強い力でブレーキを踏むため、ベーパーロックもフェードも起きやすい環境といえるだろう。
ベーパーロックの予防方法【操作編】
それでは予防する手段としてはどんな方法があるのか。ドライバーの操作で予防する方法は、エンジンブレーキを併用することだ。
フットブレーキと違ってフルードの温度には影響せず、マニュアル車ならアクセルを緩めれば自然と減速するのがエンジンブレーキ。オートマチック車は自動で高いギヤに変わることがあり、一般的にエンジンブレーキが効きにくいと言われるが、通常の「D」レンジから1段、場合によっては2段ギヤを落としたり、CVT車であれば減速比が高くなる「スポーツ」や「S」などと書かれたモードにすることで、エンジンブレーキを積極的に使うことが可能となる。
高速道路の長い下りはスピードが高くなりがちで、必然的に事故のダメージも大きくなってしまう。なのでエンジンブレーキをメインにしつつ、必要に応じてフットブレーキを使うのが望ましい。
ベーパーロックの予防方法【車両編】
車両側でやるべき対策はブレーキフルードの交換だ。長期に渡って使用したフルードは空気中の湿気を多く含み、その量が増えれば増えるほど沸点が低くなっていく。つまり劣化したブレーキフルードほど、ベーパーロックを起こしやすい状態といえるのだ。
なおブレーキフルードにはさまざまな規格があり、沸点の高いスポーツ走行に向けた製品も存在する日本で耳にする機会が多いのは「DOT」と呼ばれるアメリカの規格で、純正で採用されているのは大半がDOT3でドライ沸点は205℃以上。ひとつ上のDOT4は230℃以上となり、もっとハイグレードとなるDOT5.1は260℃以上と差は55℃以上だ。
サーキットでDOT4以上を使うのは昔からのセオリーだが、ベーパーロックの可能性がゼロになるわけではない。走り方や車重などによってブレーキの負担は異なり、フルードの温度の上がり方も当然ながらバラバラだ。ペダルタッチが頼りないと感じたらエンジンブレーキだけで周回できるぐらいまでペースダウンしてブレーキをクールダウンさせ、そのまま何周か走っても回復しなければピットに戻って休憩する。