サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

ガソリン車レースに飽きちゃった人こそオススメ! 「市販EV」レースが想像以上の激しさだった

市販電気自動車とモータースポーツの関係

 2010年の三菱i-MiEVの個人向け市販車販売としての登場から早11年。ほかにも日産リーフをはじめとした国内外の電気自動車(EV)も登場から時間が経過し、中古車両の流通もある。値段も手ごろになってくると普段の足としての使用目的以外に「純粋にクルマを楽しもう」と購入を検討したり、なかには「EVでモータースポーツやレースを楽しめないか?」と考える方もいるかもしれない。果たしてそのようなことは可能なのだろうか?

市販EVだけの本格的なレースがある

 アメリカのEV専業メーカーのテスラがその最初のモデルであるロードスターを日本導入を開始した頃には、購入した車両をすぐにサーキットへ持ち込むオーナーもいた。しかし、サーキットを実際に走行をすると、全開走行をすれば数周しか走ることができなかった。そこで短絡的に「EVはモータースポーツに向いていない」とみなす方も少なくなかった。テスラ・ロードスターは当時製造を担っていたロータス社のライトウェイトスポーツのエリーゼと似ていたはいたが、実際のところバッテリーを含めた車両重量は1.2トンを超えており、決して軽量ではなかった。 サーキット走行のような状況は、内燃機関車両でも非常に燃費が悪くなることは周知の事実。EVも同様で、フル加速すればそれだけエネルギーを使用し、バッテリーやモーターが発熱していく。あまりに発熱が厳しいとセーブモードに入ってしまう。一旦そうなるとゆっくりとしか走行できなくなってしまい、簡単には復活しない。つまりEVでモータースポーツを楽しむには、“熱”をどうするかが重要となってくるのだ。

 じつは三菱i-MiEVが一般向けに登場する前、すでに日本国内では日本電気自動車レース協会(JEVRA)が設立されており、2010年にはシリーズ戦「ALL JAPAN EV-GP SERIES」が開催されているのだ。これは名前のとおり電気自動車のみで行なわれるレースシリーズで、その後も中断されることなく毎年開催。今年も4月10日に富士スピードウェイで開幕されており、全7戦が開催予定である。

 このEVだけのレースシリーズは、当初はレース距離50kmでスタート(現在はレース距離40km~65kmで行なわれている)。2010年の初戦には国内に並行輸入されたテスラ・ロードスター2台が参戦。テスラ・ロードスターのモーターは空冷式だったため、レースではバッテリーの残量よりもモーターの熱対策のほうが重要だった。そのためモーターに負荷をかけないよう走行ペースを抑え、セーブモードの介入をいかに防ぐかが勝負の決め手となった。

 またシリーズ初戦からレースに参戦していた三菱i-MiEVやその後登場した日産リーフは、テスラよりも搭載しているバッテリーのエネルギー量が少ないため、テスラ同様にバッテリーやモーターの冷却も考慮しつつエネルギーをいかに使うのかが重要な戦略となっていた。

EVレース=エコランではない!?

 EVレースを制するポイントとは何か? 例えば、前述の距離50kmのレースなら、時間でいえば30分ほどの走行になるが、その中でいかに一定のペースで走行を重ね、モーターへの負荷を減らせるかが肝要になるのだ。そのため、Sタイヤを装着するチームも増えていく。通常ならSタイヤは走行抵抗になり不利に感じるが、ハイグリップタイヤを装着することでコーナーの旋回速度を上げることができ、結果的にはモーターの負荷を減らすことができるのだ。  さらに、レースはサーキットへ車両を持ち込む前から始まっている。レースで走行をするためにバッテリーは満充電にしておくのだが、その満充電にするタイミングを「いかに早く終わらせるか」もキモなのだ。バッテリーは充電も放電(走行)も発熱する。レースを走ることはイコール発熱することであるため、サーキット入りする状態でいかにバッテリーを冷やしておけるかが重要なのだ。自走でサーキット入りすると本番前からバッテリーを使っているから発熱しており、レース前に充電するとなるとさらに発熱する。つまり、レースがスタートする時点でセーブモード介入直前になっている可能性が高く、極端な言い方をすれば「すでにレース権はない」かもしれないのだ。たとえ上記のような点に留意してコンディション管理をしていたとしても、予選時に極力ラップ数を控えて消費電力を抑え、追充電の量自体を減らすことで発熱を下げるような努力も必要となってくる。単なる速さ比べに終わらない、高度な「頭脳戦」なのである。

 実際のEVレースでは電欠(バッテリー残量不足)でチェッカーを受けられずに涙するシーンも見られたり、最終ラップで残りのすべてのエネルギーを投入したバトルが展開されたり、この30分ほどのレースの中には、スプリントレースの難しさや耐久レースの楽しさが詰まっている。

 現在ALL JAPAN EV-GP SERIESは、バッテリー搭載のBEV以外にも燃料電池車(FCV)、発電のためだけにエンジンを搭載したプラグインハイブリッド車(PHEV)といった車両区分も用意され、広く電動車両での参戦が可能となっている。ほかにも日産リーフだけで開催となったリーフチャンピオンレース(現在はEVチャレンジカップおよびリーフイートロフィーへと発展)などのレースも行われてきている。

 気候によってもペースが異なったり、EVレースは実に奥の深い世界。だからこそ、内燃機関車両とは違う難しさと楽しさがあるのも事実。以前某チームが、事前の練習やシミュレーションを重ねれば重ねるほどデータも変わってくると困り果てていたことがある。EVは充放電を重ねれば重ねるほど電池の状態も変わってくる。つまり過度な走り込みは車両自体のポテンシャルを下げる結果にもつながるのだ。そういった制限の多い中で限られたエネルギーを使っていかに速く走るか、そういった内燃機関車とは異なる車両でレースをするのは、これまでのガソリン車を使用したレースに飽きた人にもオススメである。

モバイルバージョンを終了