北米向けのフラッグシップGTとして1977年にデビュー!
今、中古車市場で水冷エンジンを搭載したFRポルシェの価格が高騰している。巷では「ポルシェ=911」のイメージが根強く残る今、なぜ水冷FRポルシェが人気なのだろうか? ここでは当時のフラッグシップとして愛された「ポルシェ928」にスポットを当て、名車を再考してみたい。
空冷エンジンとRRレイアウトという独創的なスタイルを確立したポルシェ911だが、1970年代の中頃になるとオイルショックの影響を受け、経営に暗雲が立ち込め始めたポルシェの首脳陣は新たな道を模索し始める。その第1弾が水冷4気筒エンジンを搭載したポルシェ924であり、エントリーモデルとして愛された914シリーズの後継モデルとして若い世代を中心に好調な販売を記録した。
その後、1977年には北米市場を意識したフラッグシップGTとしてポルシェ928を世に送り出し、日本国内でも1978年から販売が開始された928はバブル景気の波に乗り、新たな時代を担うポルシェとして注目を集めることになる。
個性あふれるポップアップ式丸型2灯ヘッドライトを採用
新たな時代の担い手として登場したフラッグシップはドア、ボンネット、フロントフェンダーを軽量なアルミニウム製とし、ポップアップ式の丸型2灯のヘッドライトが強烈なインパクトを与え、4474ccの排気量を持つ水冷V型8気筒エンジンをフロントに収めて後輪を駆動した。
また、重量物となるトランスミッションを後方へと押しやりデフとの一体化を図ったトランスアクスル方式を採用することで、FRレイアウトでありながら重量配分の最適化を図るなど、革新的な技術が満載されていたのも大きな特徴と言えるだろう。
大柄のボディは全長4417×全幅1836×全高1313mmとなり、グランドツアラーとして快適な乗り心地を提供し、北米だけでなく日本市場でも成功を収めたのは言わずもがな。
その進化は歩みを止めることなく高性能化を続け、1980年には排気量を5Lへとアップした「928 S」、1987年にはフェイスリフトを行い最高出力を320psへと向上させた「928 S4」、1989年には330psへとパワーアップを図った「928 GT」が登場。さらに1992年には、最終進化版となる5.4LV8エンジンを搭載し350psを発生する「928 GTS」をリリースしたが、1995年の販売終了まで後継モデルを生み出すことはなく、長い生涯を終えたのである。
トランスアクスル採用で前後の重量配分を最適化
当時、正規輸入ディーラーであったミツワ自動車から借り出した928 S4をドライブした印象を思い返してみると、大柄なボディを持ちながらもアクセルを踏み込めば驚くような加速をみせるピュアスポーツとしての一面も見せてくれた。大きなカーブを描く高速道路のジャンクションでは、911のようにアクセルを戻しても大きな挙動の変化を見せることもなくハイアベレージで駆け抜けることができ、ドライブしている速度感とメーターが示す実際の速度との差に驚かされたことを思い出す。 もちろん、ストッピングパワーも当時のGTとしては十分以上のキャパシティが与えられ、ブレーキングやコーナリング時に外側の後輪タイヤをトーイン化させ挙動を安定させるヴァイザッハ・アクスルが安定感をもたらす大きな武器になっていたことは間違いない。 室内の居住性に関してはラグジュアリーさを全面に押し出した快適さは抜群で、ルーフを極端に絞り込んだコックピットは独特な雰囲気を持ちながらも風切り音もなく静粛性の高いものだった。シートはポルシェ伝統のハイバック式となり、ドライバーをしっかりとホールドしながらもグランドツアラーらしい上質な味付けが施されていた。唯一の難点は4シーターとはいいながらもリヤシートはプラス2的なものであり、ロングドライブで後席に押し込められるのは遠慮したいと思ったことだ。
しかしながら、水冷エンジンの滑らかさと静粛性、GTとしての快適性を備えながらもハイスピードでクルーズできる圧倒的な安定感は911とは異なる独特の世界観が味わえ、「空冷RRの呪縛」から抜け出そうとするポルシェの強い意志を感じることができた。