伝説の限定モデル「Honda CIVIC MUGEN RR」中谷明彦リバイバル試乗
現在、国産中古スポーツカーが軒並み価格が高騰している。その中でもホンダのワークスブランドである「無限(M-TEC)」が2007年に販売した「Honda CIVIC MUGEN RR(以下シビック無限RR)」はクルマ好きの間では半ば伝説となっている。限定300台、当時477万7500円という価格ながら(ベースのFD2型シビックタイプRは283万5000円)発売開始わずか10分で売り切れたという逸話を持つ。
中古価格は現在1000万円オーバーでやりとりされている個体もあると聞く。では一体、どんな乗り味だったのだろう? 新車当時のインプレッション(2007年)をプレイバックしてみよう。テスターはレーシングドライバーの中谷明彦だ。
ベースのシビックタイプRとの違いは?
シビック無限RRはホンダ・シビックタイプR(FD2)をベースに無限が開発したオリジナル・パーツを装着。セッティングまでをトータルで手がけたオリジナルモデルである。
内外装のドレスアップに留まらずエンジンのパフォーマンスを引き上げる排気系チューニング、足回りは専用サスペンションに専用タイヤを装着。ブレーキも強化され大幅な性能向上が図られているようだ。
ツインリンクもてぎフルコースで全開試乗
そんなシビック無限RRをツインリンクもてぎのフルコースで全開走行テストを行なった。
もてぎはいわずと知れたブレーキに過酷なサーキットだ。ここで全開アタックできるクルマは欧州車にも多くはない。シビック無限RRはしかし、絶対的なブレーキの安定性を発揮し、難なく周回をこなした。 エンジンはレブリミットまで気持ちよく吹き上がる。タイプRもいいフィールだが、RRはさらに排気圧損が少なくストレスフリーな吹き上がり。実際の馬力向上値は15ps程度というが回転のピックアップ特性は相当な違いを感じる。
コーナーが迫りハードブレーキをトライしてみると剛性感の高いシャーシはしっかりと4輪を接地させ、強力な制動Gを発した。2〜3コーナー続けて試みれば通常のブレーキなら根を上げるはずだ。しかし無限RRはまったく変化を見せずペダルフィールも良好なまま数ラップを安定してこなしてしまう。
シビック無限RRの真骨頂は「ブレーキ」にあり
だがシビック無限RRの真骨頂はブレーキングポイントにあった。ノーマルより格段に奥深く150mの看板を過ぎてからのブレーキングでも確実に減速しコーナーアプローチが可能だった。しかもそれが数ラップ安定して続けられる。
ブレーキ回りの温度を計測してみるとフロントのブレーキローターが560℃にも達していた。にもかかわらずペダルフィールが変化しないのは耐フェード性に優れたブレーキシステムを与えられている証だ。さらにフロントブレーキディスクは専用の断面構造で作られ効率よく冷却される。その結果ハブキャリアの温度が低くノーマルより130℃も低い。この結果ハブの耐久性も格段に高まっているはずで、サーキット走行など過酷な条件での走行も安定してこなせる設計になっている。
固められたサスペンションはピッチングも押さえ込み、低められた車高と相成って制動時の後輪接地性も向上させている。
旋回時のステアフィールなどノーマルのほうが乗用に適している面もあるが、サーキットのラップタイムで約1秒の向上は実力の高いタイプRがベースなだけにむしろよく実現したといえるだろう。