ハイグリップゆえに普段乗りにではそれが仇になる事もある
サーキット走行の上級者がよく話す『Sタイヤ』とは? 凄まじいグリップは最終兵器なんて形容されるけど、デメリットも決して少なくないと聞く。自分で使うか使わないかは別としてSタイヤの基礎知識、そして現役タイムアタッカーに人気の銘柄を紹介しよう。
建前は一般道も走れる事になってるけど……
Sタイヤとはモータースポーツでの使用を前提に開発された、高いグリップ力を誇るラジアルタイヤのひとつだ。名前の『S』はセミレーシングまたはセミスリックの略とされており、国内外を問わず多くのメーカーが商品をラインアップしている。
冒頭で挙げたとおりグリップ力は一般のスポーツラジアルを大きく凌駕するが、決してオールマイティな性能とはいえず、お世辞にも街乗りに向いているとはいえない。最大の理由がグリップする温度域の狭さ。多くのSタイヤにはソフト/ミディアム/ハードなど、複数のコンパウンドが設定されている。寒さでタイヤが温まりにくい冬はソフト、夏の耐久レースならハードというように、路面温度や競技によって使い分ける必要があり、選択ミスはタイムを落とすどころか事故にも結び付く。
もうひとつ街乗りに不向きな理由は、グリップと引き換えにした摩耗の早さだ。タイヤ交換が面倒で普段からSタイヤを履いていたら、新品が1カ月もかからず丸坊主になってしまった、なんて苦い思い出を持つ人もいるかもしれない。さらにロードノイズは大きいし燃費や乗り心地も悪く、ハッキリいって街乗りでのメリットは皆無だろう。車検こそ規定の残量さえあれば合格するが、サーキット専用と割り切って使うのが賢明だ。
最近注目されているSタイヤはどれ?
ここからはサーキットで実際に人気のある、代表的なSタイヤをいくつか紹介したい。国内メーカーではブリヂストンの『ポテンザRE-11S』や、ヨコハマの『アドバンA050』にダンロップの『ディレッツァ03G』が定番。いずれもレースやジムカーナなどのカテゴリーで、豊富な実績を残し多くのドライバーに愛用されている
そして近年のタイムアタックで絶大な支持を集めているのが、スリックタイヤにしか見えないフージャーの『DOTラジアル』だ。トレッドには最小限の溝というか穴しか刻まれておらず、ドライ路面でのグリップは見て分かるとおり強烈のひと言。生まれ故郷のアメリカでは『DOT規格』を取得しており、法的にはSタイヤと同じく公道を走行できるし車検も通る。
ただし近年では86/BRZレースやD1グランプリでのタイヤ戦争が過熱し、Sタイヤとハイエンドのスポーツラジアルの境が曖昧になってきた。ブリヂストンの『RE-12D』やヨコハマの『アドバンA052』、ダンロップの『ディレッツァβ02』やトーヨーの『プロクセスR888R』などは、スポーツラジアルと謳いながらSタイヤと見分けがつかないパターンだ。