アドレナリンが吹き出すほどの操る楽しさに満ちあふれていた！

　クラブスポーツというクルマを思い出してみると、1995年にポルシェ968CSを取材で借り出したことがあるが、その個体には快適なエアコンが装備されていた。スピードイエローと呼ばれる濃い目の黄色に輝くボディと同色の17インチカップホイールを備えたスタイルは“やる気満々”。室内のロールケージとフルバケットシートがボクを迎え入れ、否応なしにアドレナリンを大量放出させてくれたことを思い出す。　軽量化を武器にするCSだがエアコンを装備していたこともあり総重量はストックの968と大差はなかったはずだが、その走りはソリッドな印象があり車高調整機能を備えたコニー製のサスペンションが絶妙な働きを見せてくれた。言葉に表せば「硬い」ものだがその乗り心地は決して不快ではない。通常の968が上質なスニーカーだとしたら、CSのそれは芝生のグラウンドでスパイクを履いて走り回るような確かさが感じられ、路面をしっかりと捉えながら自分が狙うトレースラインに乗せてステアリングを切り込む感覚は実に楽しく「操る楽しさ」を与えてくれた。

　古典的なFRレイアウトではありながらもトランスアクスルを採用した前後バランスの良さと、CSに設定されたLSDの恩恵でスムーズな走りを楽しむことができ、ゲトラグ製の6速MTと4気筒DOHCエンジンの相性も良くアクセルを踏み込んだ瞬間に俊敏な加速を披露する。どのレンジからも快適な加速ができる素直な味付けはとても扱い易いものであった。当時、用意されていた6速MTは先進的なアイテムであり、意味もなくシフトアップ、シフトダウンを繰り返してドライブを楽しんだ思い出が蘇る。

　元々ボディ剛性の高い968にロールケージを入れたことでタイトなコーナーでもボディが負けることなど一切ない。屈強なシェルに包まれている独特の安心感はまさにレーシングカーそのものだ。唯一の不満点を挙げるとすればバケットシートの高さが合わなかったことだ。背が高くないボクは脱いだブルゾンを丸め、お尻の下に敷くことでギリギリの高さを保つことができたのである。

希有な個体故に巡り会えたなら迷うことなく手に入れたい

　当時、標準型の968よりもリーズナブルに設定されたCSは650万円程度だったと記憶している。今、思えばかなりお買い得なモデルだったことは間違いない。サンデーレーサーに向けた素晴らしきスポーツカーは今となっては希少な存在であり、古き良き時代を思わせる一台は輸入台数の少なさも影響して中古車価格が高騰しているという。　電子デバイスによって制御される近代的なスポーツカーとは違いドライバーの運転スキルを武器に操る楽しさを披露するFRスポーツ。その魅力を味わいたいのなら今が最後のチャンスになりそうだ。個体数が少ないモデルだけに、もしも中古車市場でポルシェ968CSに出逢うチャンスがあれば迷うことなく手に入れることが賢明だ。ポルシェの過渡期に生まれ、ひとつの時代を生き抜いた最後の水冷FRポルシェにはそれだけの価値がある。