日常ではNISMOの本領は発揮できない
さて、冒頭の「ノーマル状態のGT-R NISMOは遅い」という話の理由は、大容量メタルターボによるところが大きい。グループA仕様ではカムシャフトやバルブタイミング、抜けのいい排気系(いわゆる直管マフラー)を使って総合的にチューニングできるので、大きなメタルターボでも中低速からレスポンスよく使えるのだ。
しかし、これが市販状態となると、触媒や消音機を装着した細い排気管となる。さらにカムシャフトやバルブタイミングも環境性能やアイドリング時の安定性などを考慮し、性能を優先したスペックにはできない。ノーマルのGT-R NISMOは最大加給圧も基準車とほぼ同じ設定だったので、中低速でのレスポンスは悪いうえに、高回転域でも思ったほどのパンチ力がなく、遅いと感じたのだ。一方、基準車はレスポンスのいいセラミックターボを採用しているので、日常的に使うシーンでは優れているというワケである。
R35にも受け継がれたNISMOの存在価値
総括すると、当初の開発目標である「世界トップクラスのロードカー」はホモロゲーションモデルの基準車で達成し、「グループAレースで他を寄せ付けない強さ」を達成するためにスポーツエボリューション(ES)のGT-R NISMOが存在したと理解すべきだ。
それは現在のR35GT-Rにも同じようなことが言える。基準車は世界トップクラスのロードカーとしてGTカー路線を極め、ニュルブルクリンクで世界最速の量産車を目指すのが現代のR35GT-R NISMOの立ち位置である。30年以上前に確立したR32スカイラインGT-RのDNAは最新のNISSAN R35GT-Rにも脈々と受け継がれていると言える。