「オヤジ」セダンを払拭するエアロパーツを標準装備
さらにP10プリメーラの魅力のひとつに加えたいのがエアロパーツだ。国産のライバルたちはいかにもオヤジセダンであったのに対し、上位グレードにはエアロ・パーツを装備。最高級グレードのTeには標準装備として前後スカートのほか、当時としては大型のリヤスポイラーが奢られ、ただのセダンではないことをスタイル面からも主張していた。
その後アテーサ4WDを採用したT4にもエアロパーツがオプション装着できたことから、普通のセダンであっても“エアロで主張する”といった現代の流れを作り出した。
JTCC参戦を記念してオーテックバージョンが登場
レースシーンでもその実力は遺憾なく発揮された。イギリスのBTCC(英国ツーリングカー選手権)や日本のJTCC(日本ツーリングカー選手権)などのツーリングカーレースで大活躍したことからも、その戦闘力の高さは今も語り継がれている。
モデル末期にはオーテックバージョンを投入。現在ではお馴染みのオーテックチューンによる高回転・高出力のエンジン(180ps/19.6kg-m)に加え、専用の足まわりやトランクスルーを廃止して剛性を高めることで、リヤにより大きなウイングも装着された。その姿は「羊の皮を被った狼」というよりも「頭隠して尻隠さず」の喩えの方が適切だろうか。
全方位で優れた万能性をみせ好セールスを記録
5ナンバーサイズながらパッケージングによって作られた広い室内。優れたハンドリングと長時間運転しても疲れないシートや操作系の快適性。フレキシブルなエンジンが生み出す、ドライブを楽しむ瞬間とファミリーカーとしての万能性など、90年代に生まれた初代プリメーラは、普通のセダンでも日産が本気で作りこめば世界と対峙できることを証明してみせた一台だ。当時としてもATが当たり前の時代に5速MTが半数近く売れたのもなるほど納得だ。
P10プリメーラは、日産がVWサンタナをライセンス生産していたからこそ生まれたクルマだといわれている。それがどこまで真実かは不明だが、普通のセダンであってもしっかり作り込んで気持ちよく走れるクルマに仕上げれば売れることを証明したといえる。
「スクラップインセンティブ」の犠牲で中古車流通量はわずか
惜しまれるのは、2009年のスクラップインセンティブと呼ばれる旧車を廃車にした際に助成金がもらえる制度のおかげで多くの個体が廃車となってしまったこと。中古車の流通量が極端に少ないことが非常に残念でならない。
ちなみに筆者は、当時R32スカイラインの購入を検討していたが、乗降性と積載性の悪さが個人的に納得できず、P10プリメーラを購入。優れたハンドリングに加え、ひとクラス上の4ドアセダンにも匹敵する積載性とリヤシートの居住性、さらにアテーサ4WDを採用したT4をラインアップするなど、P10プリメーラはスカイラインGT-Rに並ぶ、世界と戦うことができた“普通”も備えた至高のスポーツセダンであった。