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ドリキン土屋圭市が現代版「羊の皮を被った狼」に唸る! スカイライン400RはアルピナB3を超えたか

今もっとホットな日独スポーツセダン対決

 日本を代表するスポーツセダンといえば日産のスカイライン。現行モデルは2013年の発売当初は日産ではなくインフィニティバッジを装着しファンの間で物議を醸したが、2019年のビッグマイナーチェンジで評価は一変。「400R」と呼ばれる3L V6ツインターボを搭載したスポーツグレードを追加してきた。

 対して、ドイツのスポーツセダンといえばBMWだが、同車をベースとし、独自のモデルを開発している「アルピナ」も忘れてはいけない。2020年国内導入された3シリーズをベースとした「BMWアルピナB3」は、第41回日本カー・オブ・ザ・イヤーで「2020-2021パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。日本のクルマ好きが今、もっとも気になる「アルピナ」だと言えるだろう。

 そこで両者を「ドリキン」こと土屋圭市が徹底比較! ドリキンはこのスポーツセダンの両雄をどう評価するのか? 以下、本人によるリポートをお伝えしよう。

「マニアックなチョイスをしてきた」と感じた2台

 目の前に2台のセダンが用意されたが、編集部もマニアックなチョイスをしてきたな、というのが正直なところ。1990年代であればこうしたクルマに憧れを抱く人は多かったし、オレが参戦していたJTCCでは、4枚ドアの「オヤジグルマ」ガ主役だった。とはいえ、現在はセダン以外のクルマが支持され、日本に限って言えばプレゼンスが下がっている。しかし、そんなセダンでも高性能化されているとなれば、ハナシは別だ。
 スタイルは両者ともに上級セダンらしいエレガンスを漂わせながら、パフォーマンスの高さを印象づける演出がなされている。車内も上品さとスポーツ性がうまく噛み合っていて、専用装備を奢ることによって特別感が演出されている。いずれもシートには上質なレザーを用いることでプレミアム感を主張しているが、適度なホールド感で身体の収まりがよく、走りに集中できた。

低回転からトルクがあり乗りやすいスカイライン400R

 まずは400Rからドライブしてみる。乗る前は「なんだ、スカイラインか」と、さしたる期待もなかったのだが、乗ってみると意外にも走りのレべルが高いことに驚かされた。とくに回頭性がいい。
 カーブに向けてステアリングを切り出すと、思いのほか鼻先が軽く、わずかな所作でもスッとクルマの向きが変えられる。また、ダイレクトアダプティブステアリングの制御は、操舵に対して違和感なく介入し、クルマとの一体感をごく自然に感じさせてくれる。
 サスペンションも電子制御され、迫ってくるカーブに対して最適なロールスピードを実現できるから、理想的な姿勢が得られる。ドライバーガ「こう走りたい」という意思にキッチリ応え、軽快かつ安心して駆け抜けていける。スカイライン史上初となる400psオーバーのエンジンは、たしかにパワフル。一般的に出力を上げていくとピーキーになりがちだが低回転域からトルクがあって扱いやすい。アクセルの操作に対する反応がよく、回転が上昇しても不快な振動もない。標準車はここまでのレベルに到達していないガ、さすがに400Rは日産が力を入れてチューニングしたとあって、スポーツカーではないが、ハイレベルなパフォーマンスを持ったスポーツセダンという印象だ。

 

4WDであることを意識させないアルピナB3のハンドリング

 BMWアルピナB3に乗り換えてみると、日産の本気を感じさせた400Rすら霞んでしまうほどの出来栄えに感嘆した。ダイナミックドライビングコントロールをコンフォートにすると、扁平タイヤを履いているとは思えないほど乗り心地がよく、操舵フィールも軽やかだ。スポーツにしても印象は大きく変わらない。もちろん硬質なフィーリングにはなるが、ダンパーを締め上げたようなあからさまな硬さは感じさせない。1840kgという車重の重さをうまく利用することで、しっとりとしたフィーリングに仕上げていることが伝わってくる。駆動方式は4WDだが、ハンドリングはニュートラル指向で、4WDであることを意識させず、舵角に対して自然に曲がっていく。Mモデルのような鋭さはないものの、ドライバーガ行う一連の動作に的確な反応を示すから、爽快感を味わうことができる。

 3L直6ツインターボエンジンは、タービンやクーリングシステム、さらにエンジンマネージメントにBMWアルピナ独自のチューニングが施されたことで462ps/700N・mまで引き上げられている。スペックを見るとスポーツ性に特化したように思えるが、そこはアルピナらしくエンジン回転の質を高め、パワーの出方がじつに滑らかだ。ターボの効果がやみくもに顔を出さず、常用回転域から発生する分厚いトルクやリズミカルに変速する8速ATの恩恵もあって、必要以上にアクセルを踏みみこまなくていい。状況に応じてスポーティにも、ジェントルにもドライブできる。

 

両車ともまさに「羊の皮をかぶった狼」

 今回はこの2台を比較するというオーダーを与えられたが、同じ土俵での比較ははっきり言って難しい。なぜなら、高性能なスポーツセダンというキャラクターは共通しているが、作り込みにおけるそれぞれのスタート位置であったり、スポーツセダンとして目指す頂の高さが明らかに違うからだ。
 端的に言えば素性の違いが大きい。B3の場合、そもそもベースとなった3シリーズは、高い水準の能力を持ったBMW渾身の高級スポーツセダンである。それをBMWアルピナがさらにバージョンアップすベく作り込んだ。スカイラインも決して素性は悪くないのだが、ベース車を試乗したオレの印象だと、ベース車を作り込んでいく過程において、3シリーズほど力を入れていないように感じてしまうのだ。それが最終的な完成版の差として如実に現れている。

 そんなスカイラインを、このレベルまで引き上げた日産の努力には敬意を評するし、約560万円というプライスならバフォーマンスに大きな不満はない。その金額を支払う価値は大いにあると思う。
 同じことはB3にも言える。1229万円は庶民にとって高嶺の花だし、一見するとフツーの3シリーズとなんら変わらないクルマがこの金額と思う人もいるだろう。しかし、性能はもちろん、細部の質感などを体感すると、3シリーズとは別次元のクルマであることが実感できるし、「1200万円超えもしょうがないか」と納得させるものがある。両車とも紳士的な風貌のなかにスポーツモデルとしての獰猛さを潜めた、まさに「羊の皮をかぶった狼」であることは間違いない。
 決定的な差となっているのは、素性とか価格だけでなく、羊の皮のなかに潜む狼の性質が明らかに違うこと。その性質の違いがクルマのキャラクターを表現する要因にもなっていると感じた。

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