天才デザイナーが手掛けた幻のコンセプトモデル
モーターショーの華といえばコンセプトカー。基本的にはその場限りで、メーカーもサイズがサイズだけに、すべてを保管しておくわけではなく、ほとんどが廃棄処分となる。なかには、どこに行ってしまったのかわからないものもあって、話題となった分、幻としてクルマ好きに語り注がれるものがある。たとえば、マツダのロータリーを積んだスーパーカー、RX500がいい例で、こちらは倉庫に保管されていたのが発見されて、レストアされた1台が現存している。
海外にも廃棄されたわけでもなく、その後が行方知らずという、幻のコンセプトカーというのはある。おそらく、廃棄されたものの記録に残していないか、記録もまた廃棄されてしまったのだろう。
ガンディーニデザインの「BMWガルミッシュ」とは?
その代表格が1970年にジュネーブショーに登場したBMWのガルミッシュだ。数年前、BMWの手によって、少ない資料を元に復元されたのが話題になっただけに、覚えている方もいるかもしれない。
レストアではなく、復刻されたものなのだが、その奇抜なスタイルが醸し出すオーラは十分に伝わってくる。なんといってもデザインしたのは、カウンタックやランチア・ストラトス&ゼロ、ミウラを手がけた奇才、マルチェロ・ガンディーニだけに普通なわけがない。
ベルトーネ在籍時に手がけていて、一見すると1960年代からの流れに乗ったBMWのミディアムクラスのクーペと思いきや、アイコンであるキドニーグリルは大胆な六角形で、目つきの鋭い角目はガラス製のカバー付きだ。リヤウインドウも純喫茶みたいなワッフル状のシェイドみたいなものが付いていて、これはガンディーニデザインの特徴でもある。
助手席のダッシュボードには大きな鏡がある
車内も細長くて垂直に屹立したセンターコンソールとそこにひっくり返ったように付くラジオや4本スポークのステアリングに加えて、助手席の前には、化粧でもするのだろうか、大きな鏡が置いてある。常人には理解できないところはやはりガンディーニの真骨頂だ。
スタイル自体はその後の5シリーズや6シリーズに影響を与えていて、1970年代の先駆けて的なモデルではあるのは確か。ただガンディーニいわく、「BMWとの関係を強めたかったベルトーネが発案したもので、もともとはBMWのデザイン手法に沿ったものにするつもりだったのが、少々挑発的になってしまった」とのこと。
仕上がりのレベルは「本物とほぼ同等」
奇才だけに無難なデザインでまとめるのは無理だったのだろう。ちなみに再現された車両については「50年前の実車と区別するのは難しい」とも語っていて、仕上がりのレベルについてお墨付きだ。
今回の再現に関しては、BMW社内のデザイン部門とクラシック部門からなる専門チームが手がけただけでなく、ガンディーニ本人も参画しているのがポイントで、思い出も含めてさまざまな情報やデータを元に最新の3Dモデリング技術を使用して再現。最終的にはイタリア、トリノのコーチビルダーが製作したという凝りようだけに、ガンディーニ本人が見分けがつかないと言うのも当然だろう。
ガルミッシュという車名はオーストリアとの国境近く、ドイツ・バイエルン州にあるツークシュピッツェ山麓の町の名前に由来するもので、こちらもガンディーニが付けたもの。当時のイタリアではスキーが流行していて、ウインタースポーツとリゾートの優雅さをイメージさせるものとして採用したという。確かに先進性のなかにエレガントさなどが兼ね備わった、存在感あふれるコンセプトカーだ。