アウトドア映えもナンバーワンの新型ジムニー
伝統のラダーフレーム構造に質実剛健な前後リジッド式サスペンション、シンプルかつ信頼性の高いパートタイム4WD──ジムニーは道なき道を走るための本格クロカン四駆である。硬派か軟派かでいえばバリバリの硬派であり、横転する覚悟のない者が乗っていいクルマではなかった。
というのは大袈裟だが、ある意味乗り手を選ぶクルマであったのは間違いない。しかし、新型(といっても発売からもう2年以上が経つ)のJB64になってから、イメージは大幅に変わった。前述のような「ジムニーらしい機能性」はそのままに、クラシカルで愛嬌のあるデザインに生まれ変わったのだ。結果、ライトユーザーからの支持率が急増した。
SUVブーム、アウトドアブームにもタイミング良く乗っかり、「ジムニーでキャンプに行きたい」というジムニー女子(男子)も続出。いまだに長い長い納車待ち状態が解消されないことからも、その人気ぶりが伺える。
いわゆる「ジムニー屋」以外のアフターパーツメーカーも多数参入。各社カスタムパーツの開発に力を注ぎ、あっという間に内外装から機能部品まで全部揃ってしまった。そこで今回は、注目メーカーのおすすめカスタマイズプログラムをご紹介。いささか長いが、ジムニーの基本スペックやカスタムのメリット・デメリットなども併せてお読みいただきたい。
■ジムニーの基本情報
その1/歴史:先代ジムニーは20年間販売されたロングセラー
まずは歴史的なおさらいから。現在のJB64ジムニーの先代に当たるJB23ジムニーは、1998年~2018年の20年間もの長きにわたって販売されたロングセラーモデルだった。見た目の特徴としては、滑らかに丸みを帯びたフォルムが挙げられる。ある意味、JB64よりも今っぽいデザインだったかもしれない。
ボディサイズが軽自動車規格いっぱいの全長3395mm×全幅1475mmに拡大されたのもこの3代目から。ラダーフレームや前後リジッドサスペンションというジムニー伝統の仕組みは継承しつつ、設計は一新。オンロード・オフロード共に走行性能は大きく向上した。
なお、JB23は細かな仕様変更によって1型~10型が存在。一般的なクルマの場合、前期/後期の2種類や、せいぜい前期/中期/後期の3種類くらいだが、それが10種類まで細分化されているということ。
4型ではエンジンが改良されて低中速のトルクが増したり、5型から2WDと4WDの切り替えがレバー式からスイッチ式になるなど、20年掛けて徐々に進化している。
その2/最新SPEC:フルモデルチェンジでクロカン初心者に優しい四駆に
とはいえ、JB23は20年以上も昔のクルマだから基本設計は古い。新型のJB64では各部の電子制御化を中心に、見た目だけでなくスペック面も大幅に刷新された。
JB64から新しく採用された主な機能やパーツは以下の通り。
【電子制御のブレーキLSDトラクションコントロール】
対角スタック時など、浮いて空転したタイヤにブレーキを作動させ、接地したタイヤの駆動力を確保。窮地から素早く脱出できる。
【ヒルディセントコントロール】
急な下り坂などでブレーキを自動制御。ドライバーがブレーキペダルを踏まなくともブレーキが効いて速度を抑制してくれる。
【ヒルホールドコントロール】
坂道発進時、ブレーキペダルを離しても約2秒間ブレーキが作動。ズリっと下がらずスムーズに発進できる。特にMT車では重宝。
【ステアリングダンパーを標準装備】
ステアリングの振動やふらつきを抑え、安定性を向上するパーツ。JB23で多かったジャダー/シミー現象にも防止効果ありか。
【フレームにメンバーを追加】
フロントとリヤにクロスメンバーを、中央にXメンバーを追加したことで、フレームのねじり剛性が1.5倍アップ。
ざっくりまとめると、初心者でもクロカン四駆を楽に運転できるようになったという感じだろうか。ボディマウントゴムのサイズや素材が見直されたこともあり、JB23以前のジムニーに比べると、乗り心地も格段に良くなっている。
その3/標準ジムニーの外観:ジムニー史上、最も万人受けするJB64のルックス
見た目はご覧の通り。今どきのクルマには珍しい角張ったフォルムに、愛嬌のある丸目ヘッドライト。ボンネットはクラシカルなクラムシェルフードタイプだ。2代目のSJ30やJA11、JA22などに似ているところも多く、先祖返りなどとよく評されている。
今どきのクルマは全体的に丸いし、ヘッドライトはシャープに吊り上がった「怒り顔」が多い。その中において、JB64ジムニーは真逆を突いたといえばいいか。微妙に今っぽさを残すのではなく、思い切って無骨に仕上げたのが功を奏した。往年のファンから見れば「ジムニーらしい」し、若者からすれば「レトロで可愛い」。ジムニー史上、もっとも万人受けするデザインになった。
ドア上にレインガーター(雨樋)と呼ばれるでっぱりがあるのもポイント。これがあるとルーフキャリアを装着しやすいのだ。別にレインガーターなしのクルマでも付けられなくもないのだが、あった方が汎用性が高いのでパーツメーカー側もラインナップを揃えやすく、実際の取り付け作業も楽になる。そしてJB64はルーフキャリアがよく似合う。
インテリアもシンプル。大きく操作しやすいスイッチ類、視認性に優れた二眼アナログメーター、機械式レバーのトランスファーなど、オフロードでの使い勝手が重視されている。だがドリンクホルダーはセンターコンソールに2個分あるだけと、日常的な使い勝手はあまり考慮されていない部分もあり。
普通の乗用車に慣れた人からすると少々不便かもしれないが、この辺はアフターパーツで補えるだろう。
■ジムニーをカスタムするメリット・デメリット
メリット:カスタムすることで自分好みの1台に仕立てられる
前述の通り、JB64ジムニー用のカスタマイズパーツはたくさん出回っている。発売から2年でこれだけ多くのパーツが揃うクルマは異例に違いない。JB23も豊富だが、方向性はオフロード系に著しく偏っているため、どんな嗜好の人でもカスタムを楽しめるという感じではない。
その点、JB64はいい意味でクセがない(見た目は)から、幅広いジャンルに振れる。王道のオフロード系はもちろん、クラシカル系やストリート系、角張ったボディを生かしてメルセデス・ベンツGクラス風に演出するなど、ドレスアップ系も守備範囲内。そうした懐の深さがあるから、アフターメーカー各社もさまざまなパーツを開発している。
純正そのままで乗っても楽しいクルマだ。しかし、カスタマイズすることでその楽しさが倍増する。オフロードの走破性能を向上したり、オンロードでの乗り心地を良くしたり、室内をお洒落にしたり、オーディオの音質を高めてみたり。完全無欠のクルマではないからこそ、イジり甲斐もある。カスタムを通じて、少しずつ自分好みの1台に育てていけるのだ。
デメリット:足まわりについてはショップと事前によく相談を
もちろんカスタムによるデメリットもある。とくにサスペンションやタイヤ関連は、単純な見た目だけで選ぶのはオススメしない。場合によっては乗り心地が悪くなったり、ロードノイズが大きくなったり、ハンドルが切れなくなったりといった弊害が発生する可能性がある。
定番のリフトアップはジムニーには確かにハマるが、乗り降りが少々大変になるのは否めないし、直前直左視界を確保するためにモニターや補助ミラーを付ける必要が出てきたりする(直前視界についてはモニター付きのドラレコで視認できればOKになることも)。
勢いに任せてやるのではなく、作業を依頼するショップとよく相談し、リフトアップ後の注意点やその対策方法を把握しておくべきだろう。
昔ながらのファンなら「それがジムニーなんだから仕方ない」と、当たり前に受け入れられるデメリットも、ビギナーにとっては厳しいということもある。そういう意味では、普通のクルマに比べるとカスタマイズのハードルはちょっと高いかもしれない。もっともジムニーに限らず、カスタムには必ずデメリットがつきまとう。イジるならある程度の覚悟が必要だ。
■ジムニーにおすすめ!カスタマイズパーツと着用実例をご紹介
その1/タイヤ:大径タイヤを履くなら前/後バンパー交換を視野に
シンプルながらJB64ジムニーのバンパーは完成度が高い。とくにカスタマイズせず、このままで十分という人も多いだろう。だがタイヤのサイズアップを考えているのであれば、交換を検討した方がいいかも知れない。
なぜならタイヤの外径や幅を大きくすることで、フロントバンパーにタイヤが当たってしまうケースがあるから。具体的には、通称「ベロ」と呼ばれるインナー側の樹脂部分に当たる。停止時、ハンドルが真っ直ぐの状態では当たらずとも、ハンドルを切った時に当たったり、走行中に車体が沈み込んだ時に当たったりする。
そんな場合は社外バンパーに交換するのが手っ取り早い。たとえば広島にあるODKフロントバンパーは、フロントタイヤ部分が切り上げられたような形状なので、大径タイヤを履いても干渉しにくい。なおかつロアグリルは純正サイズ。もともとのイメージを保てるし、純正のシュラウドを外さなくても装着できるからオーバーヒートのリスクも低い。
リヤバンパーに関しては、フロントのようにタイヤと干渉するリスクは低いが、「フロントと雰囲気を合わせたい」「純正とは違いを出したい」という場合は換えるのもアリ。JB64のテールランプはリヤバンパーに埋め込まれるタイプだ。よって社外バンパーには純正を流用するタイプと、テールランプごと交換するタイプがある。
エアロオーバーのリヤバンパーは後者。純正より小型のLEDテールに換装し、さらにリフレクターを別体にすることで大きくイメチェン。ゴツゴツした立体感もウリで、これは「Gクラス風」をコンセプトにした造形だ。
その2/ホイール:サイズは限られるがバリエーションは豊富
JB64ジムニーの純正ホイールは16インチ×5.5Jインセット22、P.C.Dは139.7の5穴。一般的な軽自動車(P.C.D100の4穴)や普通車(P.C.D114.3の5穴)と互換性がなく、そのためジムニー向け社外ホイールのサイズはかなり限られる。純正とまったく同じか、インセットだけ違う(±0または+20前後)くらいだろう。基本、純正同等サイズから選ぶ感じになる。
だがデザインのバリエーションは豊富。その中でも定番といえば、オフロードテイストが味わえる商品だろう。MLJのエクストリームJ・XJ04はビードロック風の意匠が特徴で、そこに使われているボルトがダミーではなく本物というのが見どころ(ビードロック機構はダミー)。税別3万3000円~とリーズナブルなのも嬉しい。
タフなルックスがウリのクリムソンのMGビーストも要チェック。センターから伸びたスポークが、力強くリムを這い上がるようなデザインは迫力満点。1ピースながらリムの深さも味わえる。歯車状のセンター部分はオプションで赤/青/黄色/白にアレンジも可能だ。
通称「レンコンホイール」と呼ばれる丸穴タイプもJB64ジムニーによく似合う。見た目は昔ながらの鉄ちんホイールのようだが、アルミ製であることが多い。KLC・ヘブンではメッキのセンターキャップを設定し、カラバリにマットブラックだけでなく、ホワイトやグレーも用意。ただ無骨なだけでなく、お洒落にも演出できる。
その他、高品質な3ピースモデル、ワークのクラッグガルバトレや、スポーティな5本スポークのアドバンレーシング・RJ-D2、スタイリッシュにひねりを効かせたウェッズのマッドヴァンス05など、魅力的なホイールは数多く用意されている。
その3/リフトアップ:初心者のサスペンション交換は30~40mmアップからスタートしよう
ジムニーカスタムの王道であり定番なのがリフトアップ。純正でも最低地上高は205mmを確保しているが、さらに車高を上げ大径タイヤを履くことで、未舗装路での走破性能をアップできる。問題はどれくらい上げるかだが、ビギナーならまずは30~40mmアップの「チョイアゲ」をオススメしたい。
KLCのリフトアップサスペンション・轟は、スプリング交換だけで30mmアップできる初心者向けのキット。1台分で3万5000円(税別)と低コストで済み、ブレーキホースの延長なども必要ない。KLCは軽自動車用のリフトアップサスペンションを多数ラインナップしているが、すべて車種専用設計。JB64ジムニー用についても最適なバネレート&自由長で作られている。
もっと乗り心地にこだわりたいなら、スプリングだけでなくショックアブソーバー交換も検討しよう。ジャオスのバトルズ・リフトアップセットVFSは、状況に応じて減衰力が変化するハーモフレック機構を備えたKYB製ショックを採用。細かい振動は柔らかく吸収し、コーナリング時はきちんと踏ん張りながらゆっくりロールする。オフロード系タイヤとも相性がいい。
ちょいアゲで物足りないという人は、2~3インチ(約5~7.5cm)のアップに挑むのも良し。ロングブレーキホースやラテラルロッドといったパーツが必要になったり、クロスメンバーにプロペラシャフトが干渉する問題を解決しなければならないなど、何かとコストや手間が掛かるものの、そのスタイリングは魅力だ。履けるタイヤの選択肢も広がるため、走破性能アップにも繋がる。
マスターピースやショウワガレージ、アウトクラスカーズといった有名店からリフトアップキットが販売されている。商品によってこだわっている部分や乗り心地なども異なる。安い買い物ではないので、具体的には直接問い合わせてみるのがいいだろう。
またブリッツのダンパーZZ-Rのように、リフトアップにもローダウンにも対応する車高調も存在する。これはジムニー系では珍しい全長調整式なので、「リヤ下がり気味な車高を水平に修正したい」といった細かな車高調整も可能になっている。
<!–pagetitle:続いてジムニーの定番カスタムを紹介->
■オフローダー仕様からライトチューンまで! ジムニーの定番カスタム例
その1:街乗りもオフロードも行けるライトクロカン仕様
ここからは注目のカスマイズデモカーを紹介していこう。まずは大阪のジムニー専門店・モーターファームが手掛けた1台。
前後はウレタン製のショートバンパーに交換し、片側60mmのブリスターフェンダーを装着。車高は3インチアップして大径のMTタイヤを履きこなす。見るからに逞しい雰囲気ながら、オフロードに振り過ぎていないのがポイントで、LED内蔵グリルが装着されていたり、フロントウインカーやテールランプもLED化されるなど、ドレスアップ要素もあり。
アルミ製のルーフキャリアも実用的でありながらお洒落。キャンプ場で映えそうだ。
その2:ヤレ感もリアルな初代化けのJB64ジムニー
ネーミングは「the ROOT」。初代LJ10型ジムニーを強く意識したスタイリングから名付けられたダムドのデモカーだ。特徴的な横スリットのフロントグリルに、アイアン風バンパー、レザートップっぽくペイントされた後席の窓まわりなど。各部にはサビやスレ傷などが見受けられるが、これはエイジングペイントによるもの。超リアル。
その3:ボルトオンのお手軽パーツだけどインパクト大
ゴツゴツした岩場も走れるJB64ジムニーだが、じつは都会の街に佇んでいるだけでも絵になる。そんなことに気付かせてくれるCLS UPのカスタマイズプログラム。装着パーツは1.5インチのリフトアップスプリング、オーバーフェンダー、バッドフェイスパネル、マフラーの4点と、タイヤ&ホイールのみ。いずれも加工なしのボルトオンで付く。
特に印象的なのがバッドフェイスパネルで、優しげなJB64ジムニーの顔をワルっぽく演出。このパーツだけでも雰囲気はガラッと変えられる。逆反りシルエットのオバフェンもインパクトあり。サイズは片側90mmだ。
その4:「ケツ下がり」なオールドスクール風シルエット
KLCのジムニー専門ブランド・ヘリテージの「Bu×Be」。まずは「#フェイスグリル#ビージー」を装着し、往年のシボレー風に塗り分け。ボディカラーは純正ブルーメタリックがベースで、FJクルーザーの純正ベージュを組み合わせ、「#フェイスバンパー」はシルバー塗装でメッキ風にアレンジ。アメ車テイストを演出する。
さらに車高はリヤのみ約50mmローダウン。ローライダー系のカスタムといえばケツ下がりなシルエットが特徴であり、それを再現している。また古いアメ車でお約束なホワイトリボンタイヤもよく似合う。
その5:洒落っ気が楽しいAMG G63のミニバージョン
JB64の角張ったフォルムは、どこかメルセデス・ベンツGクラスに通ずるものがある。ということで、それを意識したパーツも数社からリリースされている。中でもリバティウォークの「lb★nation SUZUKI G mini」は、メルセデスAMG G63をモチーフにした注目作。正確には同社が販売しているG63用ボディキット「LB-WORKS MERCEDES-BENZ G-Class」のジムニー版である。
▉新型ジムニーの中古販売価格は?
中古車はプレミアム価格! 買い時とはいえないが
参考までに中古車情報もお伝えしておこう。まだ発売から2年ほどしか経過していないJB64ジムニーだから、基本的にタマ数は少なく相場も高め。正確には高めどころではなく、新車よりも高い。
理由は新車の販売状況にある。新型ジムニーの長い納期は有名だ。今でも新車を注文してから納車されるまで1年は掛かるといわれている。解消の見通しは立っておらず、コロナ禍の影響などでさらに伸びる可能性すらある。
そのため中古車のリセール価値も高まっており、店頭で販売される際は新車以上のプレミアム価格を付けるのも当たり前になっている。いわゆる新古車(未使用中古車)も多いとはいえ、軒並み200万円を軽く超えてくる。今すぐジムニーに乗りたいなら、ノーマルでも乗り出しで250万円近く、リフトアップなどカスタム済み車両の場合は300万円オーバーの予算が必要になる。
この状況は納車待ち状態がある程度解消されるまで続くと思われる。もともとの生産規模が小さく、それを拡大するというニュースも入っていないし、有力なライバル車が出るという具体的な予定もない。しばらくは「納車まで1年(以上)待つ」「新車以上の価格で中古車を買う」の二択になるだろう。
【まとめ】待つほどにカスタマイズの可能性もさらに広がる
いずれにせよ、新型ジムニーは大人気だ。車両自体、買いたくても買えないのは困りものだが、前向きに考えるなら、手に入れた時の喜びもそれだけ大きく感じられるはず。また時間が経つほどカスタマイズパーツもさらに充実してくるから、後から買った方が有利なケースも大いにあるだろう。
先代のJB23ジムニーも20年もの時間を掛けて少しずつ進化し、支持され続けてきたクルマだ。JB64もロングセラーになるのはまず間違いない。慌てずにじっくり付き合っていく気構えで新型ジムニーのカスタムに臨みたい。