車内での子供の安全を守るためには正しい知識を蓄えることが大切!
クルマに子供を乗せる親としての責任は、まず適正に装着されたチャイルドシートに子供を座らせることから始まります。道路交通法では6歳未満の子供への装着が義務とされ、違反すると「幼児用補助装置使用義務違反」で違反点数1点が課されることとなっています。ただ、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)をはじめとするクルマのプロとしては、以前から「年齢や体重ではなく、身長によってチャイルドシート装着義務の有無を決めるべき」だと訴えてきました。
というのは、多くのクルマのシートベルトは、身長140〜145cm以上の人が使用した場合の安全を担保するように開発されているからです。現代の子供は発育がいいとはいえ、6歳の平均身長は男児が116.5cm、女児が115.6cm(平成30年度学校保健統計調査/文部科学省)。チャイルドシートの装着義務が終わる年齢になったからといって、チャイルドシートを使わなくなれば、とたんに十分な安全性が確保されないまま乗車することになってしまうのです。
スウェーデンでは4歳頃までの後ろ向き装着が徹底されている
また日本では、新生児の時にはチャイルドシートを「後ろ向き装着」とすることが広く認知され、実践されていますが、1歳になる頃には「前向き装着」に変えることが多くなっています。これは、後ろ向き装着だと乗せたり降ろしたりの動作が大変で、1歳前後になると子供の体重が増え、前向きに座らせる方がラクになること。そして、子供もその方が視界が広がって喜ぶことといった理由が挙げられます。
ただし安全面から見ると、1歳ではまだ子供の骨格はもろく、とくに頚椎部が弱いため、前向きの状態では衝突の衝撃に耐えられず、万が一の際に大きな負傷をしてしまうことがわかっています。交通事故での1歳児の死亡率が極端に少ないスウェーデンでは、4歳頃までの後ろ向き装着を徹底していると言います。子供の発育状況によって限度はありますが、できる限り長く、後ろ向きの状態でチャイルドシートに座らせることもまた、安全性を高めることにつながるのです。
「R129」では使用期間の区分を体重から身長基準に変更
そうしたなかで今回、従来の安全基準「R44/04」から、新たな安全基準「R129」が日本のチャイルドシートに適用されることになりました。喜ばしいポイントがたくさんあります。
まずは、従来の「R44/04」は子供の体重(kg)に基づく分類だったのですが、「R129」は子供の身長(cm)に基づく分類となりました。これによって、やや極端な例を挙げると次のような違いがあります。従来の体重での分類では、同じ体重の場合、標準体型の子供と痩せていて長身の子供が同じチャイルドシートを使うことになり、長身の子供は頭部がシートから飛び出してしまうなどの不都合が生じる場合がありました。でも、身長での分類によって、長身の子供も体型に合ったチャイルドシートが選べるようになったのです。
また二次的な要素として、親戚や友人の子供を預かるような場合、他人の子供の体重を一目見て言い当てることは難しいでしょう。でも身長なら、自分や周りの子供と比べることで、だいたいの高さを測ることができ、その子供に必要な装置がわかるようになると思います。
後ろ向き装着期間の基準を生後12カ月頃から15カ月に延長
次に、後ろ向き装着をする期間が変わったことも朗報です。「R44/04」では体重9kg(およそ生後12カ月頃)から前向きに装着することができるとしていたのに対して、「R129」は最低でも生後15カ月未満までは後ろ向き装着をしなければならない、という規定に変わりました。
しかも、もし生後15カ月を過ぎても、身長76cm未満の場合は前向き使用は不可。ただし、製品によって後ろ向きで使用できる期間は異なるという注釈が入っています。15カ月(1歳3カ月)といえども、まだ身長は80〜90cmという子供がほとんど。慌てて前向きにするのではなく、体型的に余裕があるうちは後ろ向きのままにすることを推奨したいのですが、この新基準で後ろ向き装着の期間が延長されたことで、より多くの方が、赤ちゃんはなるべく背中の広い面で衝撃を分散することができる、後ろ向き装着をさせてあげることについての理解が深まることを願っています。
横からの衝突を考慮した側突試験の義務化でより安全に
続いては、チャイルドシートのトップメーカーはすでに実践していることですが、製品を開発する際に実施される「衝突試験」の内容が変わり、「R44/04」では前方・後方からの衝突試験のみだったところ、「R129」では側面(ドア側)からの衝突試験も義務化されました。
また衝突試験の際に、人間の体にどんな負荷がかかるかを検証するために使う「ダミー人形」も変わりました。従来より計測センサーが飛躍的に増えた新生児用ダミー人形となり、前後・側面の衝突時に赤ちゃんの体にどんなダメージが加わるのかを、より精密に検証できるようになっています。今後、この結果を踏まえた製品作りが蓄積されていくことで、将来のチャイルドシートがより安全なものに進化していくのは間違いないでしょう。
「R129」適合モデルは現状ではISOFIX対応モデルに限定される
さて、このように子育て世代にとって朗報となった新安全基準「R129」ですが、ユーザーとしては注意したいポイントもあります。ひとつ目は「R129」は従来の「R44/04」に取って代わるものではなく、並行して存在し続けるという点です。つまり「R129」の基準に合致していないチャイルドシートは販売されなくなるということではなく、「R44/04」基準の製品も継続して販売可能なのです。
ただ日本では、今後新たに「R44/04」基準での認可は行わない方針のようです。よって、従来の基準での新製品は今後登場しないと考えていいでしょう。 となると、もうひとつユーザーが注意したいポイントは「R129」の認可が下りる条件として、装着方法が「ISOFIX」に限られるということです。
ISOFIX(アイソフィックス)とは、車両側に設置されたアンカー金具に、チャイルドシート側に設置されたコネクター金具を差し込むことで、誰でも簡単に確実に装着できるという、国際規格の装着方法です。日本でも2012年7月以降に発売された新型車からISOFIX適合が義務化されており、それ以前に発売された車種でもメーカーの意向で適合している車種もあります。
マイカーが2012年7月以降に新しく発売された車種なら問題ありませんが、それ以前の場合は、まずシートの座面と背もたれの境目を見て、ISOFIXと表示のあるアンカー金具が設置されているかどうか、確認しましょう。もし見つからない場合は、従来通りシートベルトで固定するタイプのチャイルドシートを使用することになります。「R44/04」基準の製品もしばらくは継続して販売されると思いますが、購入してからマイカーに装着できなかった、とならないように注意したいところです。
正しく装着するにはISOFIX固定タイプがおすすめ
ただ、このように基準が変わった背景として、シートベルト装着のチャイルドシートを使用する場合、正しく装着されていないことがとても多く、せっかくチャイルドシートに子供を乗せていても、十分な安全性が発揮されないという、残念な現実があります。
シートベルト装着は使用法がわかりにくい上に、確実に締め上げるには相当な力が必要なことがその要因。もしこれからマイカー購入を検討されるのであれば、ISOFIXのある車種を候補とすることをオススメします。子供の成長に合ったチャイルドシートを正しく使い、万が一の際に命を守るために、より実際の状況と安全性の確保がリンクしやすい基準となった「R129」。これを機に、大人の責任として私たちもしっかりと安全意識を高め、大切な命を確実に守っていきましょう。
安全で確実に装着できる「R129」適合モデルを紹介!
日本で初めて「R129」に適合したモデルとして登場。側面からの衝突に備えた頑丈なプロテクター「サイドシールド」と「全身マモールクッション」によって、生後わずかの赤ちゃんの身体を360°全方位で守ってくれる。また、アップリカ独自の平らなベッドがまだすわってない頭と首を安定させ、気道を圧迫せず、腹式呼吸を妨げない理想的な姿勢を保つことができる。ISOFIX固定タイプ。
■アップリカ「フォームフィット ISOFIX 360°セーフティー」(写真・上右)
最先端の規則に対応しながら1歳頃から10歳頃まで長期間で使えるISOFIX取り付けタイプのチャイルド&ジュニアシート。1つのレバー操作で成長に合わせた高さや横幅が調整できる「ぐんぐん成長レバー」が体格の変化に合わせたフィット性を実現。また、ドア側からの衝撃を軽減する頑丈なプロテクター「サイドシールド」やヘッドレストの左右に搭載され頭を大切に守る衝撃吸収材「マシュマロGキャッチ」が採用されるなど万全の安全機能を備える。
■ヌナ「チャイルドシートprym (プライム) キャノピー付」
「使いやすさ」「高いデザイン性」「丁寧な作り」の精神を元に、高品質を追求するベビー用品ブランド『nuna(ヌナ)』から、新基準 i-Size/R129適合の回転式チャイルドシートが登場。横からの衝突を緩和させる「サイドインパクトシールドパネル」を両サイドに搭載するほか、オリジナルの特殊素材で赤ちゃんの頭を包みこみ頭部への衝撃を最小限に軽減する「テイラーテックメモリーフォーム」も採用する。
■ジョイー「i-arc360°キャノピー付」
最新の安全基準 i-Size/R129に適合する回転式チャイルドシート。新生児から4歳頃まで使用することができ、360°クルッと回転させることで赤ちゃんを抱っこしたままでも操作が可能。乗せ降ろしのストレスを軽減する。また「ガードサラウンドセーフティパネル」が側突の衝撃から頭部を守るなど、コンパクトなシートながらワンランク上の安全性も備える。