高性能エンジン搭載のスペシャリティスポーツクーペ「E46型M3」を回顧する
近年希少な存在となっている高回転型NAエンジンを搭載のスポーツモデル。国産ではホンダのVTECをはじめとした可変バルブタイミング機構が一時代を築き、その人気は今も衰えていない。さらに良質の個体が年々減少していく傾向にあり、中古車価格の高騰が続くなか海外人気の影響もあり、納得できる価格での入手は非常に難しい状況になっている。
そこで少し目先を変えてみたい。それがBMW M3だ。BMWのモータースポーツ活動を手掛けるM社が3シリーズをベースに生み出したこのスペシャルモデルは、タマ数こそ減ってきているが、現在は新車時の半値程度で購入できるようになっている。エンジンは自然吸気の3.2L直6ながら高回転域までキレ味鋭く吹き上がり、走る歓びをより一層体感できる6速MTも設定していた3代目M3(E46型)を回顧する。
「購入して良かった!」想像以上の幸福感が味わえた1台
2000年に本国発表されたE46型M3を、筆者は翌年の2001年に清水の舞台から飛び降りる思い出注文した。納車まで一年弱も待つこととなったが、その翌年に手元に届くとM3購入の決断は間違いじゃなかったと確信した。
愛車は前期型の2002年式だったが、走らせて驚いたのはとにかく素晴らしいエンジンフィール。M社製「S54B32」(以下S54)ユニットのカタログスペックは、343ps/7900rpm、37.2kg-m/4900rpmと、いまのクルマでは考えられない超高回転型であるにもかかわらず気難しさはまったくなし。BMW伝統のオルガン式アクセルペダルの恩恵も手伝って、右足親指の付け根辺りを意識させた繊細なアクセルワークに対して、ドライバーの意思に呼応するリニアな反応を示してくれた。
それは高速道路を一定の速度で巡航しているときも同じだった。ゲーム感覚で100km/hキープの巡航を実践してみると、寸分狂わない速度コントールが可能であった。これほどまでにコントロール性に優れたユニットに出会ったことは、国産車&輸入車を複数台乗り継いできたなかで経験したことはなかった。
それでいてワインディングにM3を連れ出したときは、2〜3速の低中速ギヤでS54に鞭を入れると、クルマが持つポテンシャルのわずか1/3や1/5程度だったかもしれないが、優れた動力性能の一部を垣間見ることができた。その時間こそまさに至福のひとときだった。
懐の深い扱いやすさと一気に吹き上がる二面性を持った「S54B32」エンジン
バランスに優れたBMW製直6ユニットは、ナチュラルで滑らかなエンジンフィールが実用域では使いやすく、5〜6速のギヤポジションのままでもその加速は衰えることはない。高回転域では狼が目を覚ましたような本来のポテンシャルを発揮した。それはターボ車の暴力的な加速力とは一線を画し、スマートながらもキレ味鋭い軽快なエンジンフィールは兎にも角にも、五感に訴えかける気持ちよさがあった。
これは余談だが、先代E36型M3には速度リミッターが付いておらず、アウトバーンやサーキットではメーター読み280km/hオーバーも可能だったそうだが、日本仕様のE46型M3には速度リミッターがついており250km/hで作動するようになっていた。
「気は優しくて力持ち」そんな二面性がオーナーたちを魅了した
3.2L直6のロングストロークエンジン(ボア87.0mm×ストローク91.0mm)というと、ピストンスピードの限界説や高回転域でのざらつき、さらにレッドゾーンまで回ってもパワーが付いてこないという定説には当てはまらず。
その意味で、S54はいい意味で期待を裏切ってくれる好ユニットだった。実用域では2000rpmも回っていればフレキシブルで、3〜4速のままでも交通の流れをリードできるし6速での燃費クルージング(高速道路巡航12km/L以上、市街地8km/Lをマークした)も可能だった。そしてスペシャリティなスポーツモデルでありながらも環境性能にも優れていた。
レシプロ時代の名車遺産をいま味わっておくことをオススメしたい
E46型M3を象徴するアイコンのひとつとしてリヤバンパー中央寄りに配された4本のテールパイプがある。このエキゾーストノートは、排気音とエンジン音による協奏曲といっても過言ではないハーモニーを奏でてくれた。
あくまでもイメージだが、S54B32は小排気量NAの軽快な甲高さとも大排気量NAの爆音系サウンドとも異なる、ミドル級ならではの少しウエットさを感じさせる力感のあるサウンドであった。開発陣は「ワーグナーのようだろう」と喩えたが、個人的には「金属共鳴」しあう精密機械が奏でる何とも言えないメカニカルなサウンドは「心地良いハウリング」と評したい。
とくに8000rpmまで淀みなく回るエンジンサウンドは金属的。6気筒の独立スロットルやDISA(共鳴加給吸気システム)も関係するのだろうが、普段は大人しいのに上まで回すと「本来の実力はこれからだ!」というバランスに優れたシルキーシックスならではの音源を奏でてくれる。
昨今のターボ全盛もしくはサウンドエンハンサーなどで「音」を作りこむ現代では、二度と手に入らない魅力的なエキゾーストノートだったといえる。近年はエンジン始動時に勇ましい音を放つ高性能車が多数派を占めるなか、S54はアイドリング時から軽やかで少し野太い主張し過ぎないサウンドが、上質な趣を味わわせてくれた。