現代の技術で甦った伝説のロードゴーイング・レーサー
ロードゴーイングカー、つまり一般に市販されている乗用車と、レーシングカーの境目にあるクルマがスポーツカーである、とは言い古された形容句でしょう。しかし最近の例ですが人気の高いGTレースではFIA-GT3やGT4など市販されているレーシングカーがあります。もちろん公道を走行することは認められていません。ところがだいぶ前のことですが、ロードゴーイングカーとレーシングカーの境目がハッキリしていなかった頃には、ロードゴーイングのレーシングカーが市販されたこともありました。ポルシェが1950年代にリリースした550 Spiderはその好例。そして、その550を現代の技術で甦らせたのがBeck 550 Spiderです。
ポルシェ初の市販レーシングカーは5億円オーバーで落札
1953年のパリ・サロン(現モンディアル・ド・ロトモビル。パリ・モーターショーとも)で発表されたポルシェ550 Spiderですが、そのプロトタイプは同年5月にニュルブルクリンクでデビューレースウィンを果たした後、ル・マン24時間レースでも1.5L以下のクラスでクラス優勝を飾るとともに総合でも15位につけるなど、見事なパフォーマンスを見せつけています。
このプロトタイプでは当初予定していた4カム・エンジンが間に合わず、1.5Lプッシュロッドの356 1500S用フラット4エンジンを搭載していましたが、市販モデルでは同じ1.5Lから135psを発生する4カムの、通称“フールマン・エンジン”に換装されていました。以後後期モデルの550Aも含めて100台以上が製作され、各地のレースにおいて1.5ℓ以下のクラスでは連戦連勝。ル・マン24時間レースでは、1958年に後継の718が登場しましたが、1953年のデビューから、718がデビューする前年の1957年まで、5年連続で1.5ℓ以下のスポーツカーとしてクラス優勝を果たすとともに、1955年には総合4~6位、1957年にも総合5位に入るなど、まさに山椒は小粒でピリリと速い、の活躍を見せることになりました。
その活躍とポルシェが初めて市販したレーシングスポーツカー、いやここではドイツ風にレンシュポルトと表現しておきますが、そんな歴史的意義も含めて人気が上昇。2018年のサザビーズでは490万ドル(現在の為替レートで、約5億3646万円!)もの高値で落札され、多くのファンにとって気軽に手が出せないクルマとなってしまいました。