この記事をまとめると
■旧車を所有するうえでの難敵は錆にあり
■日常的な錆対策が旧車の長期間所有を可能にする
■失敗しないためには購入時の品定めをしっかり行うこと
ピカピカの掘り出しモノと思ったら……
近年「旧車ブーム」が続いている。自分が生まれる前のクルマに憧れを抱き、一生懸命働いてやっと手に入れたという人も少なくない。しかし旧車との付き合いはハッキリ言って難しい。旧車を維持するのはサビとの戦いだ。フルレストア済みと銘打ってピカピカに仕上げられた(ように見える)ボディも、実際はどうなっているかわからない。作業履歴が写真などで記録してあったり、前オーナーの手入れの仕方も含めた素性がわかっている場合以外は要注意。そもそも、フルレストアと価格を天秤にかけてみて考えてほしい。
旧車の最大難関はサビとの戦い
旧車でよく語られるのは「メカはどうにでもなるから、ボディの程度がいいものを選べ」ということ。腐ったボディを修復するのは、新品のボディパネル入手なんて絶望的なので、手間も費用もかかる。一方、メカは部品の流用も効くし、オリジナルにこだわらなければ代替案はたくさんある。
そもそもなぜ旧車はサビるのかというと、まず新車当時の防錆技術が低かったから。日本車の場合、1960年代ぐらいから亜鉛メッキをした防錆鋼板が使われていたが、今ほど効果があったわけではない。ちなみに「腐る」でお馴染みのイタリア車は1970年代でも防錆鋼板を使っていないクルマもあった。防錆鋼板と言っても効果は永続的ではなくて、徐々に薄れてくる。塗装がちゃんとしていれば亜鉛メッキ層までダメージは及ばないが、紫外線などによる劣化で湿気は下の層まで入り込んでくる。塗料というのは所詮、樹脂だし、こちらも当時の素材も技術も低いものだった。
車種によっては水が溜まりサビやすい場所も確定
さらに何台も腐った旧車を見ているとわかってくるのが、構造的にサビやすい部分があることも多い。失礼な言い方かもしれないが、設計上のミスというか欠陥で、水が溜まりやすくて抜けないために、内側から腐ってくる例は多い。ハコスカのバルクヘッド前やR32やR33のストラットタワー上部。カプチーノのリヤバルクヘッドの裏側など、枚挙にいとまがない。ただ、設計と実際の使用が乖離するのは仕方がなく、最近の某社の軽でもリヤフェンダーに水が溜まりやすく、腐りが出ていたりする。
サビる理由はまだある。それがいい加減な補修。鉄板で直してあればいいほうで、FRPを貼ったり、アルミテープで錆び穴をふさいだり、パテをてんこ盛りにして誤魔化していることは珍しくない。パテは製品上の売り文句は大層なものが多いが、てんこ盛りにすると最終的には割れてそこから水が中に入ってしまったりする。そもそも技術がないこともあるが、旧車の補修は手間がかかりすぎて、わざとやっていることもある。板金塗装で儲けるには保険仕事のパネル交換が一番なわけで、腐ったボディを相手に格闘しつつ、やればやるほどサビが出てきたりするのは、やりたくないと思っても仕方がないなとは思う。しかも業界的には超人手不足で、若者ともなると絶望的だったする。
熱意のあるプロでないと完全復活は難しい
ここまではサビが発生するパターンを見てきたが、そんなに手強いものなのかと思うかもしれない。結論から先に言うと、強烈だ。例えればガンのようなもので、腐食した部分を切って取り除き、新しい鉄板を当てて直しても、その部分からサビは出やすくなる。溶接部分は熱が入るので酸化しやすいうえに、フェンダーやサイドシルなど袋状になっている部分は裏に防錆剤を入れるのもひと苦労。頑張ってもちゃんと付着しているかはわからない。もちろん面倒なので、最初から入れない業者もいる。ちなみに新車の場合は防錆鋼板を使いつつ、下地の塗料はプールにどぶ漬けするのでがっちりとしたものになる。
また、塗装を剥がして鉄板を露出させてしまうと数時間でサビの芽は発生して、その上に塗装するとしばらくは問題ないが、そのうちプクプクと膨らんでくる。膨らみを潰してみると、中からサビの粉が出てくる。塗装総剥きというのはレストアっぽくて響きもよく、雑誌の取材でも好まれるシーンだが、実際は下地として使えるようであれば、無理に塗装は剥がさず、鉄板をできるだけ空気に触れさせないほうがいい。素の鉄板は手で触ると手の脂がついて防錆剤の効きが悪くなるというプロもいるほど、とにかくデリケートなのだ。最近ではサビがあっても高い防錆効果が期待できるエスコやPOR15、カーボマチックといった下地塗料があるが、いかんせん価格が高くて、アマチュアレストアラーに不向きだ。