土の上でクルマを振り回してストレス解消!
最近、オジサンたちの間で密かに「ダートラ」が脚光を浴びているという。「ダートラ? 何それ、美味しいの?」という方も多いだろう。そこで、ダートラとは何か? をここで改めて紐解いてみよう。一言で表せば「大人の泥んこ遊び」である。そう聞けば、ちょっとワクワクして気になってくるのでは?
そもそも「ダートラ」ってどういう競技なのか
ダートラとは「ダート・トライアル」の略称だ。その名の通り、ダート(土や泥)コースで勝負するモータースポーツの一種で、日本で独自に発展した自動車競技である。ダート競技というと、WRCに代表されるラリーを最初に思い起こす人も多いと思うが、ダートラはラリーと似ているようでちょっと違う。
ダートラはジムカーナと同じく、1台ずつ走るタイムトライアル形式の競技。2分程度のコースを1日2本を走って優劣を競う。勝敗は2本の内、速いほうのタイムで決める、もしくは最近は2本の合計タイムで競う。いわばラリーのひとつのスペシャルステージを切り取ったような競技と言っても良いだろう。参加車両もナンバー付きとナンバーの無い改造車クラスがある。ナンバー付きクラスは、日頃のマイカーで参加できる気安さが魅力のひとつだろう。
ダートラは日本特有のモータースポーツ
もともとダートラはラリードライバーが未舗装の広場にパイロンコースを作って練習していたのが始まりと言われている。その点ではジムカーナのダートコース版のようなイメージだった。その後、ダートラは競技人口も増え、独自に発展してきた。競技場所も、駐車場や運動上など広場のパイロンコースから専用のダートコースに舞台を移した。1980年代前半まではモトクロスコースと兼用のような凸凹の激しい路面で、クルマに対する負担も大きかった。ちなみに、ドリフトの聖地として有名な福島県のエビスサーキットは、かつては有名なダートラコースで、海外ラリーに参戦するクルマのテストなども行われていた。また、富士スピードウェイのメインゲート前の駐車場もかつてはダートラコースだったのだ。
1980年代後半になると、栃木県の丸和オートランド那須(現・つくるまサーキット)のようなフラットダートで、しかも高速コースが人気を集めはじめた。それまでは、1速からたまに3速に入るようなコースだったのが、丸和では2速から4速全開まで使うハイスピード走行が可能になった。さながらWRCのような迫力ある走行シーンが見られるようになり、人気も高まり観戦者も増えた。
ピークは1980年代後半から1990年代前半にかけてであろう。大きなイベントでは200台近いエントリーがあり、実績のないドライバーはエントリーさえ受け付けてもらえないほど、競技人口は多かった。当時は、初級向けのイベントで実績を積み、県シリーズ、地区戦、全日本とステップを踏まなければ、上のイベントに参加できなかったのだ。しかし、1990年代に入ると、全国にミニサーキットが登場。グリップ走行やドリフト走行がブームになり、クルマの傷みやすいダートラの人口も少なくなってきた。
アドレナリンが爆発する一発勝負が魅力!
一時期に比べれば競技人口も減ったとはいえ、いまだに根強くダートラを楽しむ人がいるのは、舗装路面を舞台にするモータースポーツとは異なる魅力があるからだろう。
クルマがスライドしている状況は、ドリフトと同じようなイメージだが基本的にはドリフトは見せるためのスライド。対してダートラはタイムを出すためにスライドしている点が大きく異なるだろう。必然的にロスのない角度のドリフト状態で走り、4WD車などはゼロカウンターが理想的な姿勢となってくる。舗装路の競技と異なり、路面は良くなったとは言え、クルマは上下・左右・前後に激しいGがかかるので、非日常的な緊張感はダート競技ならではのものだ。
また、1日2本のタイムトライアルなので、基本的には一発勝負で走り直しはない。スタートラインにクルマを止めれば、アドレナリンは噴出しまくり、スタートの合図とともに全開で走る非日常感。サーキットでは冷静かつ緻密な走りが要求されるが、ダートラでは「全開こそ正義」とばかりにアクセルを踏むドライバーが多い。もちろん、全日本クラスのトップドライバーになれば、冷静かつ緻密な走りを要求されるのだが。
一方、観戦する側にとってもダートラは魅力的だ。WRCのような迫力あるドリフトシーンが見られるし、改造車クラスの走りは見る者を圧倒する。
クラス分けが細かいので誰でも楽しめる!
ダートラでは、マシンの公平性を保つために、駆動方式や排気量、さらには改造範囲によってクラス分けされており、それぞれのクラスで主力となる車種が存在する。
まず改造範囲の区分の概略は以下の通り。
D車両:市販車の形をしていれば改造無制限。全日本ダートラの華ともいえる車両
SC車両:ナンバーなしの改造車で、下のSA車両+エンジンの改造がOK
SA車両:ナンバー付車両。下のN車両+マフラー、エアクリーナー、クロスミッションなどがOK
SAX車両:SA車両のナンバーなし車両。車検を切ってコスト削減したいユーザーのため
N車両:ナンバー付車両。下のPN車両+ファイナルギヤ、ボディ補強などがOK
PN車両:ナンバー付車両。ダンパー、スプリング、LSDなどの改造がOK
P車両:ナンバー付車両。ほぼノーマル
AE車両:ナンバー付車両。ハイブリッドカーや電気自動車。改造はSA車両に準じる
上記の改造区分を踏まえた上でクラス分けと代表車種を示そう。
JD1:D車両で改造無制限のさまざまな車種が走っている
JD2:4WDのSC車両。三菱ランサーエボリューション、スバル・インプレッサなど
JD3:2WDのSC車両。ホンダ・シビック、三菱ミラージュ、トヨタ・セリカなど
JD4:4WDのSA/SAX車両。トヨタGRヤリス、三菱ランサーエボリューション、スバル・インプレッサなど
JD5:2WDのSA/SAX車両。ホンダ・シビック、ホンダ・インテグラ、スズキ・スイフト(NA)
JD6:N車両。三菱ランサーエボリューション、スバル・インプレッサなど
JD7:1600㏄を超えるFRのPN車両。トヨタ86/スバルBRZなど
JD8:1600㏄を超えるFFのPN車両。スズキ・スイフト(ターボ)など
JD9:1600㏄以下の2WDのPN車両。スズキ・スイフト(NA)、ホンダ・フィット、トヨタ・ヤリスなど
JD10:4WDのAT車。P・PN・AE車両。実質走行車両無なので完走すれば優勝
JD11:2WDのAT車。P・PN・AE車両。トヨタ86/スバルBRZ、トヨタ・アクアなど
以上のように11クラスも存在する。しかし、実際には参加台数によっては複数のクラスを同一クラスとしているイベントが多い。ちなみに、クラス分けだけを見ていると、JD7クラスに日産フェアレディZで参加すれば、パワー的にも勝てそうな気がするが、じつはラリータイヤは国内では16インチ以上のものが調達できない。したがってタイヤサイズもベース車選びの際には重要となる。
さて、これからダートラを始めるには、改造範囲の狭いPN車両によるJD7/8/9のクラスがコスト面でも狙い目だ。とくにJD9クラスはベースとなる車両もリーズナブルだ。