水素エンジンの初陣は完走したものの満身創痍
ところで、この最新技術が投入されたことで、モータースポーツの世界もあらたな未来が開けてくる予感がしました。もちろん、多くの関係者が生き残りをかけて新たなコンテンツを模索してきましたが、電気自動車(内燃機関を搭載していないBHVやFCEVなど)では何かピンと来ないところがありました。残念ながら、そういったレースをこれまで、サーキットで観たり取材したりした経験がなく、テレビの画像で観ただけなので結論付けるのは早計かもしれませんがモノ足りないのです。
それに対して、富士24時間に出場していたORC ROOKIE Corolla H2 conceptは、懸命に走っているさまが伝わってきました。そう、エンジンサウンド、カッコよく言うならエキゾーストノートが心に響いたのです。レース結果としては24時間走ってチェッカーを受けたものの、完走最下位に終わっています。
水素を圧縮充填する給水素(1回の補給に7~8分掛かり、それを35回、計4時間も掛かっています)や電気系のトラブルでピットに停まっていた(深夜のピットインは4時間にも及んでいました)時間も含めての話で、ベストタイムで観るなら、MORIZO選手を除く5人のレーシングドライバーが全員、2分04秒前半をマークしていました。
基本的にGRヤリスに搭載しているのと同じエンジンをガソリンから水素仕様へコンバート。エンジン出力も遜色ないところまで来ていますが、水素タンクを十分な安全性を見込んで搭載する関係から重量が重くなっているのが響いているようです。 それでもこのタイムはST5クラスのトップを上回るレベルで、レース後の会見では石浦宏明選手も「コース上で他のマシンを抜くこともあって決して一番遅いクルマではなかった」と満足したようにコメントしていました。
水素燃料技術が内燃機関を救うのか
ここからは夢の話になります。近い将来、レトロフィットの水素コンバージョンキットが登場するなら、今現在サーキットを走っている競技車両がすべて、カーボンフリーの持続可能なレーシングカーに生まれ変われます。実現すればレーシングカーがエキゾーストノートを響かせながらバトルを繰り広げる、まさに今現在のレースと同じ興奮を味わえることになります。 もちろんそのためには水素タンク関連の軽量コンパクト化を追求するなど、一層の技術開発が求められることになりますが、それこそ「レースは走る実験室」と胸を張ることができるというもの。今後さらに電動化の波が押し寄せてきそうですが、ひとりのレースファン、クルマ好きとして水素エンジンの発展とレース界の今後に、ますます期待は高まっていきます。