W123に代わるエントリーモデルとして「190」が登場
世界には名車と呼ばれるクルマが数多く存在する。美しいフォルムを纏ったスポーツカーをはじめ豪華な内装を持った高級車など、これまで世界中の自動車ファンを魅了してきたスペシャルなクルマがある一方で、実用性と快適性を高い次元で融合させた“総合力”を備える大衆にも愛された名車もある。
ここで紹介するドイツの雄、メルセデス・ベンツ190シリーズもそのひとつ。1982年にメルセデス・ベンツ初のDセグメントモデルとして発表され、それまでのコンパクトクラスとして存在したW123シリーズよりもダウンサイジングしたことで実用性と経済性を向上させた。
バブル景気でイケイケだった1985年、満を持して日本国内へと輸入が開始された190シリーズは、コンパクトクラスでありながらも「ベンツらしさ」を全面に押し出したスタイリングが高い人気を呼び、爆発的なヒットを記録。当時は「赤坂のサニー」や「小ベンツ」と比喩されるほどの登録台数を稼ぎ、輸入車ブームをけん引したバブルの代名詞として愛されたのである。
コスワースがチューニングした175psを発揮する直4DOHCを搭載
そんな190シリーズの特徴はベーシックな190Eを基軸に、ガソリン、デーゼルなどを含め排気量の異なる数多くのモデルをラインアップしたこと。そのなかでもよりスポーツ色の強いモデルとしてカタログを彩ったのが「190E 2.3-16」だ。
1986年に登場した同モデルは、利便性の高いコンパクトな4ドアセダンでありながら、M102エンジンをベースにコスワースが手掛けた直列4気筒DOHCエンジンを搭載。175ps/5800rpmの最高出力と22.9kg-m/4750rpmの最大トルクを発生。その実力は伊達ではなくDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)では常にトップを争い、ライバルであったBMW M3(E30型)と熾烈なバトルを繰り広げた。その後、日本国内で開催されたツーリングカーレースでも活躍し、レイトンハウスのカラーリングを纏った190E 2.3-16がサーキットを席巻した。
「羊の皮を被った狼」と呼ぶに相応しいスポーツセダン
モータースポーツシーンで活躍した「メルセデス・ベンツ190E 2.3-16」だが、その市販モデルはどんなクルマだったのだろうか。遠い記憶を辿って行くと、そこにはメルセデス・ベンツらしい質実剛健さを強烈に感じたことを思い出す。
基本スタイルは190Eではあるものの、コンパクトにまとめられた前後のスポイラーやサイドステップが与えられ「大人のスポーツセダン」的な雰囲気を纏っていた。絶妙な落ち着き感はスタイリッシュであり「羊の皮を被った狼」を具現化した佇まいは憧れの的となり、190Eをベースにした「2.3-16仕様」を大量に発生させたのである。
個人的には後に戦闘力を向上させるために進化を遂げたド派手な「190E 2.5-16エボリューションⅡ」よりも好感が持て、誕生から38年の歳月を経た今もなお“凛”としたスタイルに感動を覚えてしまう。