キレのあるエンジンとコンパクトボディにより運転する愉しさに溢れた
室内の雰囲気はサイドサポートの効いたフロントシートを除けば190Eのそれと変わることはなく、コンパクトな4ドアセダンとしての実用性を十分に兼ね備えていた。今となっては175psという最高出力は驚くべきものはないが、当時の印象としてはキレのあるエンジンはコンパクトなボディをグイグイと加速させ、運転する楽しさを与えてくれた。
試乗したモデルは1986年式のモデル(記憶が正しければ…)で、5速MTを駆使して走る時間は幸せそのものであった。シフトチェンジでは少しばかりストロークの長さが気になったものの低回転域からでも加速が楽しめるギア比は絶妙で、試乗をした箱根のワインディングで真価を発揮してくれたことを思い出す。
サスペンションはストラットとマルチリンクの組み合わせとなり、通常の190Eと同じ形式ではあるものの強化された足回りは傑作と呼びたいほどの仕上がりを見せつけた。そして、190E 2.3-16の試乗で最も感動したのがブレーキのバランスである。
当時のドイツ車はブレーキの良さに定評があったものの、大径化された4輪ディスクブレーキはより強力なストッピングパワーを発生した。その感覚は踏む力を必要とするものの、スイッチのように緩急が激し過ぎる当時の国産車とは別次元の骨太なイメージ。軽く踏めば「スッ」、強く踏めば「ググッ」と止まり、フロントに荷重が掛かり過ぎて前のめりになることはなく、ボディ全体が姿勢を下げるように制動をしてくれるのだ。
唯一、不満に感じたことはステアリングが大きく全くと言ってよいほどスポーツ感が味わえなかったことだろう。当時はエアバッグが装備されていなかったこともあり、多くのユーザーは当たり前のようにモモやナルディ、イタルボランテなどのスポーツステアリングに交換していた。
AMGブランドへと継承されるスポーツセダンの理想型
BMW M3の好敵手でありモータースポーツシーンを見込んで開発された190E 2.3-16だが、その性格はM3よりも実用的であった。手を加えれば世界最高峰のツーリングカーレースでポディウムに立つパフォーマンスを発揮し、高速道路やワインディングではスポーツカーに後塵を浴びせる運動性能を見せつける。
しかし、日常生活では買い物や通勤の足としての利便性を兼ね備えていた同モデル。その多様性、多面性は現在、メルセデス・ベンツのAMGブランドへと受け継がれている。それも190Eという希代の名車があってこそのものであり、実用性に優れた名車に+αの価値を加えた190E 2.3-16は中古車市場で500万円前後のプライスタグが貼られている。
もし、当時のノスタルジーに浸りたいのであれば今が「憧れ」を手に入れる最後のチャンスになりそうだ。中古車市場では数も少ない希少車だけに、今後は更なる値上がりが予想される。