同じスタイル、コンセプトながら後出しトヨタが勝つのはなぜ!?
古くはサニーに対するカローラ、最近ではジューク/ヴェゼルに対するC-HRなど、昔からトヨタは他メーカーが市場を切り開いたクルマの後追いで、同じようなスタイルやコンセプトを持つジェネリックのようなクルマを送り出してきた、しかも二番煎じながら、多くの車種がマーケットを刈り取っている。もちろん、後出しじゃんけん的なクルマは他メーカーもリリースしているが、トヨタはその数は圧倒的が多い。これはなぜだろうか?
出る杭を打つ「ミート戦略」はNo.1企業が勝ち抜くための定番戦略
後出しじゃんけんクルマについては「売れれば何をしてもいいのか」という意見も多く見られるが、まっとうな答えをすると「会社を存続させるのが企業の使命なので売れるなら何をしてもいい」。弱肉強食の世界に世界一のメーカーという肩書が関係ないことは、本当は誰もが理解しているはず。「モノマネではなく真っ向勝負してほしい」という意見は、クルマ趣味人の夢やロマンがそう言わせていると思う。
この後出しじゃんけんは、市場シェアにおける強者が営業・販売競争で勝ち抜くために当たり前に行われているマーケティング戦略で、通称「ミート戦略」と言われるものだ。マーケットで下位に位置する企業が差別化するために作り上げた、新商品や新サービスが出たら類似品や同様のサービスをいち早く提供(ミート)し、企業規模(質より量)の勝負に持ち込むというわけだ。
この独自性を平面化し出る杭を打つ戦略はライバルを潰すだけでなく、マーケットの短命化を招くことが多い。ただ、企業規模やラインアップの豊富なトヨタはそうしたマーケットの見切りや切り捨ても早い。マーケットを潰してでもライバルの弱体化を即す。これが王者の強みである。
後出しじゃんけんでもすべてが目論見どおり市場を席捲できたわけではない
もちろん、歴史を振り返れば真似っこするだけの企業ではなく、プリウスやハリアーなどマーケットでエポックメイキングなクルマや、カローラやクラウンのような長年愛され続けるクルマ(ブランド)も産んでいる(そのほか、MR2やセラ、Willシリーズなど鮮度の高いクルマも作っている)。
そうしたクルマには他社からライバルをぶつけられることもあったが、そこは企業規模をフルに使って打ち負かしてきた。そうしてマーケットでの独自性を確保(一強なのでトヨタらしいクルマとなる)しながら、前述したように新しい芽(ライバル)は全力で出鼻をくじく。アルファードはエルグランドを、ウィッシュはストリームを、RAV4はエスクードを目論見どおり打ち負かしてきた。
もちろん、レガシィに対するカルディナ、ロードスターに対するMR-S、ソリオに対するルーミー(兄弟車を合わせれば販売数は多いがソリオも変わらず売れている)など真似っこしても本家の魅力にかなわなかった場合もある。トヨタ車以外は、そうしたニッチ(一部の人に愛される)なクルマ=一定の熱狂的なファンを生み出すか、一部のマーケット(ジャンル)に資金を集中し、確固たるナンバー1を狙うしかない。
GRブランドの登場で、これまでのトヨタに抱いたイメージは覆る⁉
トヨタは企業も大きいので従業員を養うためにはそれなりの販売台数が必要であり、そうなると幅広い人に受け入れられる(万人向け)クルマを産む必要がある。一般ユーザーには趣味性の高さよりも、装備が充実し使い勝手もよく壊れない方が大事だ。また、幅広いバリエーションのなかから自分のライフスタイルや好みに合わせて選べるトヨタのクルマはじつに魅力的に映るはずだ。
ただ、80点主義と呼ばれたトヨタ車だが、GRブランドの登場で大きく変わりつつある。今、国内メーカーで手の届く2ドアスポーツモデルをリリースしているのはほぼトヨタだけであり、スポーツモデルでみれば日産やマツダなどにも存在するがどれも基本設計が古く、実用性に乏しいモデルばかりだ。
実用車を数多くリリースし、多くのユーザーを確保しながら、GRで手の届く魅力ある個性派スポーツカーを続々と発売することでクルマ趣味人まで取り込みつつある。この隙のない戦略はライバルにとっては脅威でしかない。「昔はトヨタのクルマ作りは面白みがないと言われていたな」と笑い話として語られる日はそう遠くないかもしれない。