サーキット&レース運営を支える「縁の下の力持ち」
レーススタート時にレーシングカーを先導するセーフティカーをはじめ、サーキットではさまざまな役割を持つクルマが活躍。市販車との違いも気になるところだが、意外と間近で見られる機会は少ない。そこで今回は富士スピードウェイやそのほかの主要サーキット、公式レース専用のマーシャルカーまでたっぷりと紹介しよう。
初出:CARトップ2021年4月号より一部抜粋、改変
富士スピードウェイ
セーフティカー:トヨタGRスープラ
セーフティカーは安全確保のためにコース上で競技車両を先導するマシンだ。クラッシュなどのアクシデントや、天候不良によりレーシングスピードでレースを続行するのが難しい場合に導入されている。最大の特徴は、緑色とイエローのLEDパトランプを装着している点だ。 緑色は後続車両に対してセーフティカー追い越しを指示するものであり、ラップリーダーが背後につくまで点滅。その後全車両が整列すると、イエローの点滅へと切り替えられ追越禁止となる。FIA直下のカテゴリーがセーフティカーには緑とイエロー2色を採用している背景から、ほとんどのセーフティカーにはその2色が用いられている。
なおセーフティカーだけでなく、この後紹介するレスキューカーなどにも装着が必須なのはパトランプのみ。各車両それ以外の厳密なルールは存在していない。したがって、パトランプの色を分けることで、それぞれ役割を区別しているのだ。
富士スピードウェイではトヨタから提供されたGRスープラが2020年より採用され、レースコントロールと情報を共有するための無線とフルバケットシートが搭載されている。またリミッターのカットは行われていたが、エンジンのチューニングやロールケージは装着されておらず、スペックに関しては市販車と大きな違いはなかった。
理由を尋ねてみたところ「サーキットを走行しているからなのか、セーフティカーに対して派手なイメージを持たれることが多いのですが、前提として安全確保が最優先。レーシングカーのスピードは確かに速いですが、国内カテゴリーはそうでもなく高速走行の必要性もありません」とのことだった。 そのほかパッド交換などの簡単な作業は専属の整備士によりメンテナンスされ、約年のスパンでマシンは変更されている。
ファーストレスキューカー:スバル・レヴォーグ
レース時にクラッシュが起きた際、いち早く事故現場へ救助に向かう車両がファーストレスキューカーだ。またレース時の追走を行うこともあり使用率は一番高い。メーカーから提供を受けたクルマを使用する富士スピードウェイでは、2016年からスバル・レヴォーグがその役を担っている。 同車をファーストレスキューカーとして採用している理由を伺うと「レヴォーグは救助に向かうのに必要な人数が乗れて荷物も載せられるだけでなく、2Lターボエンジンで4WDと足も速い。1分1秒が大切なファーストレスキューカーにはぴったり」とのことだった。 迅速な救出を目的としているレヴォーグには、火災が発生した際に使用する消火器やクラッシュでドライバーの応答がない際にマシンのガラスを割って救出を行える斧などを装備。素早い救出が行えるように、さまざまな器具を搭載している。
一方セーフティーカーのスープラでは、バケットシートの装着やリミッターカットが行われていたのに対し、レヴォーグでは無線とパトランプの装着以外は市販車同様のフルノーマルだった。装着必須のパトランプは白色を採用。 またレヴォーグの前はトヨタ・カルディナがファーストレスキューカーとして使用されていた。
エクストレリケーションカー:トヨタ・ノアG’s
アクシデントが起きた際、真っ先に現場へ向かうのはファーストレスキューカーの役割だが、現場に向かったスタッフより状況に応じ呼び出される車両を富士スピードウェイではエクストリケーションカー(日本語訳では救出車)と呼んでいる。エクストリケーションカーは、アクシデントにより負傷したドライバーを救出するための要員や、医療機材を搭載した車両となっている。
富士スピードウェイでは、エクストリケーションカーにトヨタ・ノアG’sを採用。同社が所持するマーシャルカーのなかでは一番大きな車両となっている。 装備面では車内の広さを生かし、ラゲッジ付近には負傷者を運ぶ際に用いるバックボードを装着している。「救出」の意味ではレヴォーグと重なる部分があるが、役割や働きは異なっている。パトランンプは青色を使用。それ以外はレヴォーグ同様に完全フルノーマルだ。
オフィシャルカー:日産GT-R NISMO
見た目はセーフティカーと同様のオフィシャルカーだが使い方が大きく異なる。最大の違いは、セーフティカーが競技車両の先導を務めるのに対し、オフィシャルカーはレースが行われている時間帯に使用されることがない点だ。主な役割はコースマーシャルのコース内移動や、競技車両が走行をしていない時間帯のコース確認に用いられる。
オフィシャルカーの1台として日産から提供されたGT-R NISMOは2017年モデル。青色のパトランプを装着しているほか、欧州への輸出仕様のため左ハンドルなのが特徴となっている。 またフロントストロボランプとパトランプ点灯スイッチ付近には、オーテックジャパンが架装したカーボンを使用。オーテックと日産が同車のために製造したという。 富士スピードウェイではGT-R NISMOのほかにトヨタ86やマークXが健在。とくにマークXは通称「赤マーシャル」と呼ばれ、競技車両のコースイン後にサーキットの最終確認を務め、他のオフィシャルカーと役割が異なっている。